SSブログ

橋田壽賀子さんをめぐる4つの誤解について解き明かしてみる [懐かし映画・ドラマ]

橋田壽賀子さんをめぐる4つの誤解について解き明かしてみる

今日は橋田壽賀子さん(1925年5月10日~)の誕生日です。おめでとうございます。作品実績も多々残されていますが、物議を醸す語録も少なくないため、いささか誤解されているところもあるのではないかと思います。何点か私の意見も添えてご紹介します。(橋田壽賀子さんの画像は Wikipediaより、右下はNHKアーカイブより)



「人間のドロドロを描いているだけ」ではない!


橋田壽賀子さんについては、このブログで今までにも何度か記事にしたのですが、ある記事のコメントで、「平岩弓枝さんと橋田壽賀子を一緒にするな!」との手厳しい批判がありました。←橋田さんだけ呼び捨て(笑)

平岩弓枝さんというのは、やはり橋田壽賀子さんの『渡る世間は鬼ばかり』のように、石井ふく子プロデューサーと仕事をして、『肝っ玉かあさん』や『ありがとう』など、テレビ史に残る高視聴率番組の脚本を手掛けた方です。

その方いわく、「平岩さんのドラマに、愛があるのは当然の事として、 何より、「色気」があるんです。 それに比べて橋田ドラマは、 ただ人間のドロドロを描いているだけ。 全く色気のいの字も感じられません。」とのことです。

これは一般によく聞く評価なので、私の意見も述べておきます。

ドロドロの何が悪いの?


そもそも、橋田ドラマが「ドロドロ」という表現がふさわしいかという点で、私は懐疑的です。『渡鬼』ってそんなにドロドロしてましたか?

嫁と姑の話なんてありふれたものであり、あれをドロドロというのは、人生経験が少なすぎる苦労知らずなんだなと思います。

だいいち、人間のドロドロを描かずに、ドラマや小説は何が面白いのでしょうか。

人間であるがゆえに、理屈や道徳に反した心理やふるまい、つまり過ちがあるからこそ、そしてそのあやまちをしっかり書ききるからこそ、ドラマは成立するのです。

人の弱い部分や悪い部分はないことにして、非の打ち所のない人間同士が、国語の教科書に出てくるようなセリフを言い合って、何の揺れもない最初からわかりきった結末。

こんなの、面白いかどうかという以前に、物語として成り立たないでしょう。

人間(関係)を深く描けば描くほど、ドロドロしたものになるのは当然です。

もちろん、平岩弓枝さんのドラマがインチキなのかというと、そんなことはありません。

では、作家としての個性の違いはあるにしても、なぜ、その人の言うところの、平岩さんは「愛と色気」、橋田さんは「人間のドロドロ」と分かれてしまったのでしょうか。

時代が違います


『肝っ玉かあさん』や『ありがとう』は右肩上がりの高度経済成長時代に放送され、カルピスがスポンサー。

「茶の間」はファミリーで鑑賞しています。

いきおい、ストーリーも「ドロドロ」はなるべく避けて、当たり障りのない話にならざるを得ません。

そして、いつも水前寺清子がもっと美人のライバルを押しのけて、星の王子様(石坂浩二)とゴールイン。

残念ながら、現代では通用しない話です。

1970年代の古き良き昭和に合った話を書いているのですから、そりゃ、「愛」だの「色気」だのをのんびり書いていられますよ。

一方、橋田壽賀子さんは、まさにバブル崩壊以降の、出口の見えない失われたウン年に『渡る世間は鬼ばかり』を描き続けたのです。

その間、現代では、嫁と姑、跡継ぎ不在問題と墓じまい、過疎化、定年後の第2の人生の身の振り方など、社会の成熟とともに生き方の問題が山積し、それらを描かないホームドラマなどはありえない情勢でした。

少なくとも橋田ドラマは、橋田さんの個性のいかんに関わらず、ドロドロしたものは避けて通れなかったのです。

実は平岩弓枝さんも、オイルショック後の停滞した時代に、『肝っ玉かあさん』や『ありがとう』だけでなく、『明日がござる』(1975年10月2日~1976年9月30日)というドラマで、嫁と姑のドロドロというほどではありませんが、ちょっとギスギスしたドラマも描いています。

これは『渡る世間は鬼ばかり』のプロトタイプとイッてもいいドラマです。

ですから、結果としての作風だけを見て、「あの人は愛と色気がある」「こいつはドロドロしか書けない」と決めつけるのは早計だと思います。

ちなみに、橋田壽賀子さんは、戦争と不倫と殺人のドラマは1本も書いていないそうです。

『春よ来い』安田成美途中降板事件



橋田壽賀子が大学進学のために単身で上京するところから、脚本家として成功した後、夫の死を見送るまでを描いた自伝的ストーリーを、NHK連続テレビ小説枠でドラマ化した『春よ来い』で、主演の安田成美が途中降板。

橋田壽賀子は「飼い犬に手を噛まれた」と批判しました。

戦時下の表現について、安田成美の親が嫌悪感を示したからだとコメントした評論家が、レギュラー出演していたその番組を降板したことも話題になりました。

「飼い犬」という表現はいろいろな意味でどうなのかなという気がしますが、怒る気持ち自体は第三者的にはわかります。

いずれにしても、脚本は橋田壽賀子の「表現の自由」の範疇であるし、最初からそのシーンが出てくることはわかっていたのですから、途中降板はスタッフや共演者など多くの方に迷惑をかけたのではないでしょうか。

『渡鬼』山岡久乃途中降板事件



『渡る世間は鬼ばかり』で、最初は主役であったはずの山岡久乃が、第4シリーズではいきなり亡くなった設定になっていました。

橋田壽賀子は、「登場人物なんか脚本家の手で消せる」と豪語していたので、当初は「とうとう主役もヤッちまったか」と思いましたが、真相は山岡久乃から降板を申し出たもので、橋田壽賀子はそれではドラマは成り立たないからと打ち切りを願い出たものの、局のほうが山岡久乃の役が死亡したことにして続行させたそうです。

それにしても、やはり橋田壽賀子はご立腹で、さすがに安田成美のときと同じことは言いませんでしたが、「山岡さんは私のことがよっぽどお嫌いなんでしょうね」などと、確執説を書きたがっていたマスコミにネタを提供するような不用意な発言をしてしまいました。

が、実は胆管がんによる降板だったことを知ると、橋田壽賀子はそれまでの自分の発言を悔い、神社へお百度参りし、山岡久乃さんの回復を祈ったといいます。

野村克也さんを意固地にさせた事件


昨年末に、横山裕が「ほしのもと」をカミングアウトした『令和家族』という番組をご紹介する記事を書きました。

前半は、関ジャニ∞の横山裕の壮絶な「ほしのもと」の話で、後半は、野村沙知代さんの3回忌を迎えた野村克也さんが、夫を30年前に亡くした橋田壽賀子さんと対談して慰められる……はずでした。

ところが、橋田壽賀子は直球勝負で、「私は今、夫がいませんが全然寂しくないんですよ。人生これからなんだから自由に生きなきゃ」と、励ましたつもりが、野村克也さんは「全然心に響かなかった」と心を閉ざしてしまいました。

これはいかんというので、番組は2人をもう1度会わせます。

すると、今度は橋田壽賀子は、野村克也さんの聞き役に回り、野村克也さんは少し心を緩めて、再会の約束をしました。

残念ながら、野村克也さんはその後、亡くなってしまいましたが、橋田壽賀子さんの気の使い方を聞いていたら、決して悪い人のようには思えませんでした。

「長いセリフで役者をいじめて、アドリブを使った役者は(設定上)殺す」なんていわれている方ですから、まるで優しさのかけらもない極悪人のようですが、人間として本当に悪人だったら、再会はしなかったんじゃないでしょうか。

安田成美の件も、山岡久乃さんの件も、ちょっと短気というか、少しそそっかしいだけで、腹の底に悪意が沈殿しているわけではないと私は思います。

むしろ、ものを書く人というのは、本当は人間が好きで、でも好きであるがゆえにちょっと期待感が高くなり過ぎ、他人の現実に失望しやすいのではないかと私は見ています。

橋田壽賀子さんは、プライベートでの友人を作らない主義だそうですが、たぶん他人に幻想をいだいて裏切られるのはたくさん、という思いがあるのかな、と思いました。



橋田ファミリーにカウントしてくれないかな


何度かご紹介しましたが、私も『ああ家族』(1986年、TBS)という石井橋田ドラマに1度出させていただいたことがあります。

ああ家族.jpg

それも、子供の頃、東京映画で憧れのヒロインだった大空真弓さんと一緒のシーンですから、考えてみればすごいことだったんだなと思います。老後の一つ話にできます。

長くやっていれば毀誉褒貶あると思いますが、60年以上に渡ってこれだけ多くの作品を世に出された方ですから、私は橋田壽賀子さんは大変素晴らしい仕事をされている大作家だと思っています。

橋田壽賀子ドラマ「渡る世間は鬼ばかり」三時間スペシャル2018 - 清弘 誠, 橋田壽賀子, 石井ふく子, 長山藍子, 前田 吟, 馬渕英里何, 泉ピン子, 角野卓造, えなりかずき, 清水由紀, 吉村 涼, 村田雄浩, 中田喜子, 三田村邦彦, 野村真美, 徳重 聡, 高橋寧音, 高橋乃愛, 藤田朋子, 植草克秀, 大谷玲凪, 野村昭子, 小林綾子, 佐藤B作, 山本コウタロー, 天童よしみ, 岡本信人, 中島唱子, 榎本たつお, 湯浅景介, 長谷川 純, 西原亜希, 丹羽貞仁, 関口まなと, 長谷川哲夫, 坂口芳貞, 石坂浩二
橋田壽賀子ドラマ「渡る世間は鬼ばかり」三時間スペシャル2018 - 清弘 誠, 橋田壽賀子, 石井ふく子, 長山藍子, 前田 吟, 馬渕英里何, 泉ピン子, 角野卓造, えなりかずき, 清水由紀, 吉村 涼, 村田雄浩, 中田喜子, 三田村邦彦, 野村真美, 徳重 聡, 高橋寧音, 高橋乃愛, 藤田朋子, 植草克秀, 大谷玲凪, 野村昭子, 小林綾子, 佐藤B作, 山本コウタロー, 天童よしみ, 岡本信人, 中島唱子, 榎本たつお, 湯浅景介, 長谷川 純, 西原亜希, 丹羽貞仁, 関口まなと, 長谷川哲夫, 坂口芳貞, 石坂浩二

人生ムダなことはひとつもなかった~私の履歴書 - 橋田 壽賀子
人生ムダなことはひとつもなかった~私の履歴書 - 橋田 壽賀子

NHK放送80周年記念橋田壽賀子ドラマ ハルとナツ ~届かなかった手紙 BOX [DVD]

NHK放送80周年記念橋田壽賀子ドラマ ハルとナツ ~届かなかった手紙 BOX [DVD]

  • 出版社/メーカー: ビクターエンタテインメント
  • 発売日: 2006/01/27
  • メディア: DVD



nice!(243)  コメント(11) 
共通テーマ:テレビ

nice! 243

コメント 11

十円木馬

橋田さんは亡くなった父と同い年です。
仕事を続けられているのは凄いとしかいいようが
ありません。
瀬戸内寂聴もそうですが、生涯現役を続けて欲しい
ものです。
合わせて、いっぷくさんの人間分析力も凄いと思います。
by 十円木馬 (2020-05-10 13:10) 

pn

確かに時代が違過ぎる(笑)。
言い方雑だけど今は夢が見れない時代とも言えるから白馬に乗った王子様なんざ現れる訳が無い(T_T)
by pn (2020-05-10 14:48) 

kou

橋田さんといえば、ドラマはあまり観ていませんでしたが、バラエティ番組での泉ピン子さんとの絡みが印象的です。

by kou (2020-05-10 17:05) 

ヨッシーパパ

橋田ドラマは、何故だか?ほとんど見ませんでした。
by ヨッシーパパ (2020-05-10 18:57) 

ヤマカゼ

渡る世間、見ていましたが最後までは至りませんでした。
確かにドロドロした人間模様を描いてましたね。
by ヤマカゼ (2020-05-10 19:30) 

50oyaji

テレビで見る渡る世間も、自分が実際に渡っている
世間もやっぱりどちらも鬼だらけ(;´∀`)
by 50oyaji (2020-05-10 21:33) 

エンジェル

橋田壽賀子さんは母の高校の先輩だと言うこともあり、何かと注目して見ていました。渡る世間は鬼ばかりは最後の方はマンネリ化していたようにも思いますが(^^;時々「それはちょっと有り得ない」などと突っ込みを入れながらも楽しく見ていました。橋田壽賀子さんは泉ピン子さんとかなり親しい友人のように思っていましたが・・・
いっぷくさん、俳優もされていたのですか?芸名が知りたいです!!
by エンジェル (2020-05-10 21:44) 

mau

誤解されやすいものいいをするヒトなのかなぁとは思っていました。
by mau (2020-05-10 21:48) 

pigumon

『ありがとう』
懐かし〜い
なるほど 当時
確かに 家族総出で
観てました
山岡久乃さん
おふくろ そっくり
なんて 思ってましたが
あんなに 上品でも
無かったような・・・
今も おかげさまで
健在です・・・
by pigumon (2020-05-11 00:18) 

ナベちはる

個人的に『渡る世間は鬼ばかり』の印象が強い方ですが、橋田さんが手がけられたドラマを見てみるとどれも人間味のあふれる素敵な作品ばかりだと思いました。
by ナベちはる (2020-05-11 00:33) 

犬眉母

人間は、見栄と欲得で生きていますから、
ドロドロしない方がウソっぽいです。
そこから逃げた「きれいな」ドラマは、
浅いことしか描けないと思います。
by 犬眉母 (2020-05-13 15:59) 

Facebook コメント

Copyright © 戦後史の激動 All Rights Reserved.
当サイトのテキスト・画像等すべての転載転用、商用販売を固く禁じます