『日本一の若大将』悪気を知らず友だち思いの明るく楽しい青春 [東宝昭和喜劇]
『日本一の若大将』(1962年、東宝)を観ました。高度経済成長が始まったといわれる右肩上がりの1960年代、歌を歌い、楽器を奏で、レジャーブームの先端を行くスポーツにチャレンジする大学生、のちに新入社員が、恋とスポーツの両方に勝利する、明るく楽しい青春映画です。(画像は『日本一の若大将』より)
本作の若大将・田沼雄一(加山雄三)は、京南大学4年生でマラソン部のキャプテンです。
本作は若大将シリーズ第3作目。
第1作目で、トイレの浄化槽の蓋で鉄板焼きを食べさせたり、第2作目でレストランの残飯の鍋を部員に振る舞ったりした大ボケマネージャー・江口(江原達怡)が、今回は実家からの仕送りを止められ、アルバイトをしなければならなくなりました。
そこで後任のマネージャーになったのが、青大将・石山新次郎(田中邦衛)です。
若大将シリーズは、一見青大将が敵役のように思われますが、実はそうではなく引き立て役で、若大将とも友達なのです。本作でマネージャーになったことでそれがわかります。
江口は、若大将のスキヤキ屋“田能久”に、住み込みで働くことになりました。
江口は、若大将の妹照子(中真千子)に首ったけのため、若大将や青大将に相談して、サクラを使って照子の見合い相手(藤木悠)に恥をかかせてしまいます。
江口と照子は恋人同士というのも、この作品以来お決まりの設定です。
今回の若大将と澄ちゃん(星由里子)の出会いは、カミナリ族(暴走族)に絡まれているスポーツ店の女店員の澄ちゃんを若大将が救ったことから始まります。
例によって、お互いに好感を持つものの、ちょっとした行き違いや誤解ですみちゃんはスネて、若大将を悩ませます。
そのとき、代替要員で、やはりすみちゃんに一目惚れの青大将が利用されます。
青大将は、すみちゃんにいいところを見せようと、すみちゃんの店から400万円のボートを即決で買い、頭金に200万円家から持ちだしたために勘当。
すみちゃんから相談されると、祖母のおりき(飯田蝶子)が父・牛太郎(有島一郎)の口座から無断で金をおろし、それで残金を払った若大将も勘当されます。
すみちゃんは、ヒロインなのですが、トラブルメーカーでもあるのです。
夏休みの芦ノ湖畔合宿は、芦ノ湖にボートを置いて行われました。
合宿費稼ぎの、水上スキー・コンテストで優勝した若大将は、プレゼンターであるスポンサーの社長令嬢美幸(藤山陽子)に気に入られ、ボートで話をします。
が、それを週刊誌のトップ屋(草川直也)に書き立てられ、例によってすみちゃんが誤解。
しかも、青大将が本気ですみちゃんを好きになったのを知り、若大将は言い訳もせず身を引こうとします。
さらに、江口のことを考え、自分は店を継がずに就職しようと会社の採用試験を受験。
面接官は、偶然青大将の父親(上原謙)でしたが、女にだらしがない父親でグレていた青大将は、今更正しつつあると打ち明けて父親に恥をかかせます。が、結局その友達思いが伝わって採用に。
クライマックスは、全日本マラソン大会。若大将は調子が出ませんでしたが、自分のために身を引いてくれたと青大将から聞いたすみちゃんは、走っている若大将に近づき「好きよ、すきすき」と連発。若大将は元気が出てきて逆転優勝します。
例によってここは、マラソン大会でギャラリーから走っているランナーに近づくなんてあり得ない、とまじめに考えてはいけないところです。
『日本一の若大将』より
ラストは、出演者全員が田能久に集まって、加山雄三が歌ってハッピーエンドです。
明るく楽しい東宝映画は、決して観る者を裏切りません。
若大将シリーズの設定が固まった作品
若大将シリーズは、第1作目の『大学の若大将』、第2作目の『銀座の若大将』、そしてこの『日本一の若大将』で3作目になります。
シリーズ全17作はいつも同じパターンですが、その設定や登場人物のキャラクターが確立したのが、その最初の3作といわれています。
もともとこの3作で終了するはずだったのが、3作ともお客さんがたくさん入ったのでシリーズ化されたといわれていますね。
たしかに、以後のシリーズ諸作品は、3作で確立したキャラクターと大まかな展開をもとに、舞台に地方や外国を選んだ、観光映画のような作り方でした。
いずれにしても、当時の加山雄三のファンからすれば、ストーリーは二の次だったのかもしれません。
1960年代の東宝は、森繁久彌の社長シリース、クレージー映画、喜劇駅前シリーズと、3つの人気シリーズがありました
これらの3シリーズには、大人の喜劇という前提に、役者の演技力や文芸的な興趣をいろいろ語ることができるのですが、若大将シリーズは、そういう難しいことは一切抜き。
よくもわるくも悪気を知らない若者が、若者らしい失敗をしながらも最後はハッピーエンドになるという、安心して観ていられ、すがすがしい気持ちになれるストーリーです。
当時の町並みや文化も楽しみながら、気分転換できる90分です。
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