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漫画で読む文学『葉桜と魔笛』(原作/太宰治、イラスト/だらく) [文学]

漫画で読む文学『葉桜と魔笛』(原作/太宰治、イラスト/だらく)

漫画で読む文学『葉桜と魔笛』(原作/太宰治、イラスト/だらく)は、姉妹の美しくも切ない心の交流を描いた短編小説を漫画化しました。お悧巧すぎた姉妹の手紙を巡る虚実の攻防。そして、聞こえるはずのない口笛。どんでん返しによる不思議な結末です。

『漫画で読む文学「葉桜と魔笛」』は、タイトル通り、太宰治の『葉桜と魔笛』という短編小説を、だらくさんが漫画化したものです。

Kindle版の描き下ろしのようですね。

老婦人が、「葉桜のころになれば、私は、きっと思い出します。」といって、35年前の出来事を回想する物語です。

作中での登場人物は、「あなた」や「姉さん」のように呼ばれ、登場人物の名前が明かされることはありません。

主人公の回想の中ということもあり、大きな場面の変化もない短い物語ですが、反転、再反転する、サスペンス的に要素のある読み物です。

姉妹の、美しくも切ない心の交流が描かれています。

M・Tは恋のイニシャル?


老婦人が55歳。

墓参りをして、20歳の頃を思い出して回想、という設定です。

何を回想したのか。

若くして亡くなった実妹のことです。

「からだが弱く、私二十、妹十六で妹は死にました。」と書かれています。

そして、当時の回想に。

舞台は、「島根県の日本海に沿った人口二万余りの或るお城下まち」が描かれています。

髪の毛は多く、もみあげのあたりにわずかに白髪のある父親は中学校長。

主人公は、厳格な父と、病気の妹と一緒に暮らしていましたが、妹は腎臓結核と診断され、あと百日ほどの命だといわれていました。

妹の診断を聞く、父親と姉。

「腎臓結核?」

「ええ。もってあと半年でしょう。残念ですが」

帰り道。

「本人には、言うでないぞ」

と、姉に釘を刺す父親。

帰ると、妹は元気で、冗談も言っていました。

姉は、これがもう百日の生命か、と思うと気が狂いそうになるといいます。

そこから3ヶ月。

5月の半ばの日本海大海戦、軍艦の大砲の音が聞こえるある日のこと。

かなりやつれた妹が、でかけていた姉に言います。

「ねえさん。この手紙、いつ来たの?」

「ついさっき。あなたが眠っていらっしゃる間に。あなた、笑いながら眠っていたわ。あたし、こっそりあなたの枕もとに置いといたの。知らなかったでしょう?」

「ああ、知らなかった。ねえさん、あたし、この手紙読んだの。おかしいわ。あたしの知らないひとなのよ。」

姉は、「知らないことがあるものか」と思いました。

なんとなれば、姉は、その手紙の差出人のM・Tという男のひとを知っているからです。

妹宛てに、差出人は実在の別の人で、でも中はM・Tの手紙がこれまでたくさん来ていて、今回はいよいよ差出人がM・T自身となっているのに、今更「知らないひとなのよ」もないだろう、というのが姉の言い分です。

つまり、姉は手紙の中身を覗いていたわけです。

姉は手紙を盗み読みし、最初のうちは、「まるで谷川が流れ走るような感じで、ぐんぐん読んでいっ」たのですが、最後の一通を読みかけて、のけぞるほどに驚いたといいます。

妹たちの恋愛は、心だけのものではなかったのです。もっと醜くすすんでいたのでございます。

要するに性的な行為を伺わせることが書かれていたわけです。

姉は、カッと来て、一通残らず、手紙を焼いてしまったそうです。

ところが、それっきり、M・Tさんからの手紙は来なかったのです。

姉はもう、気になって気になって仕方なくなりました。

M・Tという人は、手紙の内容によると、その城下まちに住む、まずしい歌人の様子。

「姉さん、読んでごらんなさい。なんのことやら、あたしには、ちっともわからない。」

「読んでいいの?」

手紙には、「卑怯なことには、」妹の病気を知ると、もうお互い忘れてしまいましょう、など「残酷なこと平気で」書いてあったそうです。

そして、毎日、お庭の堀の外で、口笛を吹く約束が書かれていました。

読み終えると、妹が言いました。

「ねえさん。あたし、知ってるのよ。ありがとう、姉さん、これ、姉さんが書いたのね」

姉は、顔がカーッと赤くなりました。

「姉さん、あの緑のリボンで結んだ手紙を見たのでしょう。あれは嘘」

手紙は、妹の自作自演でした。

なんという、どんでん返しでしょうか。

妹は、礼を言ったかと思うと、今度は、「ねえさん。バカにしないでね」と、正反対のことを言いました。

自分は余命幾ばくもなくなり、もっと男の人と遊んでおけばよかった、と後悔しているというのです。
「青春というものは、ずいぶん大事なものなのよ。あたし、病気になってから、それが、はっきりわかって来たの。ひとりで、自分あての手紙なんか書いてるなんて、汚い。あさましい。ばかだ。あたしは、ほんとうに男のかたと、大胆に遊べば、よかった。あたしのからだを、しっかり抱いてもらいたかった。姉さん、あたしは今までいちども、恋人どころか、よその男のかたと話してみたこともなかった。姉さんだって、そうなのね。姉さん、あたしたち間違っていた。お悧巧すぎた。ああ、死ぬなんて、いやだ。あたしの手が、指先が、髪が、可哀そう。死ぬなんて、いやだ。いやだ。」
物語には、さらにダメ押しがあります。

姉の創作であったはずの口笛が本当に聞こえてきて、その3日目に妹は亡くなりました。

いくら余命宣告が出ていたからと言って、あまりにもあっけない最期に主治医も首を傾げました。

姉は、隣り部屋で父親が立聞きして、次女が不憫になった父親が、口笛を吹いて一世一代の狂言したのではなかろうか、と疑っています。

歳を取ってからも、それを思い出す姉でした。

短編で現在も高評価


本書について、読後感想では、「いや、実はM・Tは本当にいたんじゃないのか」という意見もあるみたいですね。

3日目であっさり亡くなってしまった理由も、いろいろ推理されているようです。

そうしたことを考えさせるのが、この物語の面白い所なのでしょうが、私はやはり、口笛は父親だと思います。

あまりにも厳格に育てすぎて、こんなにはやく生涯を終えるのなら、もっと自由にさせればよかった、みたいな思いがあるのでしょう。

いずれにしても、ツイッター(X)では、推奨しているツイートが複数出てきます。




太宰治作品は、『斜陽』、『人間失格』、そしてこの『葉桜と魔笛』などはおすすめです。


Amazon kindleでは、読み放題リストに入っていました。まずは、漫画でいかがですか。

漫画で読む文学「葉桜と魔笛」 - 太宰治, だらく
漫画で読む文学「葉桜と魔笛」 - 太宰治, だらく
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コメント 8

赤面症

宛名(実在の別の人)からすると、やっぱり妹の自作自演では?
by 赤面症 (2023-08-05 01:17) 

コーヒーカップ

一回きりの生涯を自由に生きた方が幸せですね。
by コーヒーカップ (2023-08-05 03:08) 

pn

口笛、親父さんであって欲しいなぁ。
by pn (2023-08-05 06:20) 

Take-Zee

おはようございます!
迷走台風6号、今後が心配です (*-*)!

by Take-Zee (2023-08-05 07:50) 

drumusuko

こんにちは。葉桜と魔笛、なかなか面白そうなサスペンスですね~(^^♪。
by drumusuko (2023-08-05 10:32) 

お散歩爺

20歳代の頃を思い出して回想なんてことありますね。
昔は良かった~~~~~(-_-;)。
by お散歩爺 (2023-08-05 10:34) 

そらへい

昔、読んだような読んでないような・・・
何重にも謎をまとっていて面白いですね。
by そらへい (2023-08-05 15:48) 

十円木馬

自己破滅型の小説においては、天下一品の作家だと思います。芥川賞を受賞していたら、自殺していなかったのか・・
イヤ、多分同じ末路をたっどたと思います。
by 十円木馬 (2023-08-05 16:11) 

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