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消えた記憶(なかのゆみ著、笠倉出版社) [障害者]

消えた記憶(なかのゆみ著、笠倉出版社)

『消えた記憶』は、交通事故の後遺症で高次脳機能障害になった夫を妻が支え、夫は障碍を残しながらも新しい職場に社会復帰する話です。『難病が教えてくれたこと8~失われてゆく記憶~』(なかのゆみ著、笠倉出版社)に収載されています。



広瀬アリス、眞栄田郷敦、坂東龍汰らが出演する月9ドラマ『366日』は、高次脳機能障害が題材ということで、Facebookの関連グループでも、しばしば取り沙汰されます。


私は、そのドラマを全く見たことがないのですが、人気ドラマ枠で、高次脳機能障害を取り上げることで、世間の関心が高まるのは良いことだとおもいます。

さて、『消えた記憶』は、『難病が教えてくれたこと8~失われてゆく記憶~』に収載された漫画で、なかのゆみさんが描き、笠倉出版社から上梓されています。

『難病が教えてくれたこと』(なかのゆみ、笠倉出版社)は、全17冊にわたって難病や障害と向き合う家族を描いた短編マンガ集です。人間はいつ誰がそうなるかわからないし、そうなってもおかしくない。そんな厳しい人生の偶然を考えさせてくれます。

高次脳機能障害というのは、生まれついての障害ではなく、それまでは健常だった人が、事故や病気の後遺症で突然、脳障害を抱える中途障害のことをいいます。

脳障害というのは、火災、水難、心筋梗塞、脳卒中、交通事故による脳挫傷など、脳に酸素が行かなくなったり、外部からの力で脳が損傷したりして、脳神経がシんでしまう状態です。

その深刻な状態が、順番に「脳シ」⇒「遷延性意識障害(植物人間)」⇒「高次脳機能障害」となります。

これまでにも、何度か関連書籍をご紹介してきましたが、どちらかというと今回は、高次脳機能障害としては少し重いほうかもしれません。

中~重度の高次脳機能障害は自制がきかないことがある


本作は、交通事故にあった夫・雅義が、高次脳機能障害になります。

医師が説明します。

「高次脳機能障害です。事故のせいで記憶がなくなっています。脳が萎縮して、脳の接続が切れてしまっています。脳に空洞があり、一気に老化したようになっています」

夫が退院し、夫の母親も九州から上京します。

「お父さん、退院おめでとう。加奈ね、おばあちゃんと一緒にケーキつくったよ」

「雅義、大変だったね。酔っぱらい運転の車にぶつけられたんだってね。ひどい目に遭ったね」

「このおばあちゃん、誰?」

「雅義ったら、何言ってるんだい。母さんだよ」

「お義母さん、雅義さんは記憶がなくなっているんです」

「えっ!!」

「病院の先生の話によると、5歳児ぐらいの脳になっているっていうんです」

これまでご紹介した、高次脳機能障害の患者例では、知能の低下というのは出てこなかったですが、これは中等~重症の場合に有り得る話です。

その傍らで、今度は雅義は、せっかく娘が作ったデコレーションのケーキを、切り分ける前に一人で食べています。

「お父さんが、ひとりでケーキを食べてるよ」

5歳児でも、人のものを取ってはいけないことぐらいわかりますよね。

知能もさることながら、抑制がきかなくなるのが、高次脳機能障害の特徴なのです。

私の長男もそうでした。

遷延性意識障害から奇跡的に「回復」した長男とリハビリの散歩をしていて、赤信号になったので止まると怒るのです。

僕は前に進みたいんだ、歩きたいんだということらしい。

必死に抑えましたね。

当時は7歳だったのでなんとか抑えられましたが、これが成人男性だったらと思うとゾッとします。

「あなた、一人で食べないで」

無視して、ガツガツと貪るように食べる雅義。

足元にボロボロ、ケーキのスポンジをこぼしています。

ケーキ自体はほぼ完食。

加奈は泣き出します。

「雅義、情けない。親より先にボケるなんて」と母親。

しかし、雅義はアハハアハハと笑っています。

「おかしくない。お父さんのバカ」と加奈。

これもわかりますね。

私の長男が意識を取り戻してから、しばらくは、いつもハハハと薄笑いをしていました。

なぜ笑っているかというと、相手がなぜ怒っているかなど、場の雰囲気がわからないので、笑ってごまかすしかないのです。

高次脳機能障害の中~重症の特徴なんでしょうねえ。

このへん、実にリアルです。

妻は、クリーニング店で働くことに。

夫は家で大人しくテレビを見ているものの、部屋を散らかしています。

「お父さん、洗濯物を取り込んで畳んでくださいよ、できるでしょ」

「できない」

「やればできるわ」

「ハハハ」

「いつも笑ってごまかして!!」

これもたぶん、笑ってごまかしている対象が違うと思います。

雅義は、洗濯物をたたむことをごまかしているのではなく、妻の畳み掛けるような会話についていけずに笑ってごまかしているのです。

この話は、モデルがきっといるんでしょうね。リアルすぎます。

雅義が寝ている部屋に、包丁を持って入る晴美。

「いっそ、あの事故でシんでくれたら……。加奈も一緒に、3人で無理心中するしかないわ」

しかし、隣で寝ている加奈を見て、結局思いど止まりました。

妻の晴美は、気を取り直して、病院から聞いていた、高次脳機能障害を抱えたグループに参加することにしました。

雅義は、そのグループの紹介で、身体障害者や知的障害者の生活介護施設に通うことになりました。

そして、工場での単純な作業ですが、就労も実現しました。

字は書けるので、気がついたことや経験したことは、メモをする習慣をつけさせました。

事情を知らない近所の人は、不景気で再就職ができないから、それまでの営業職から工場の労働になったと思っています。

晴美は、夫は交通事故の後遺症で障碍があるから、今のところでいいのだと説明。

近所の人達も、はじめて事情を知ります。

当初は、事情を話さなかったので、近所の人達から変なふうに思われていましたが、晴美はやっと、この段階で話せるようになったのです。

また工場で働けるということは、良い方だと思います。

集団生活が、何よりのリハビリになったんでしょうね。

人間、誰でもいつどうなるかわからない


私の長男は、一酸化炭素中毒から、いったんは遷延性意識障害の診断が出て、そこから諦めずに段階的リハビリを行ってきましたが、現時点でも他人を真似る模写が苦手です。

つまり、“教える人が見本を見せて理解させる”というレッスンが奏効しにくいので、できるようになるまでの試行錯誤にかなりの時間がかかります。これも高次脳機能障害の典型的な症状です。

高次脳機能障害は、特別な人たちではなく、あしたのあなたかもしれないのです。

私も、実際に家族がそうなったからエラソーなことを抜かしていますが、障害者に理解のない苦労知らずを見ると、「あんただって、いつ障害者手帳をいただく身になるかもしれないんだよ」と、心の中で思っています。

まあ、とにかく人生、いつなにがあるかわかりません。

ご自身に万が一のことがあったら、パソコンのデータとか貯金とか、どうするか決めていますか。

難病が教えてくれたこと8~失われてゆく記憶~ (家庭サスペンス) - なかのゆみ
難病が教えてくれたこと8~失われてゆく記憶~ (家庭サスペンス) - なかのゆみ
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mm

おはようございます^^
いろんな病気、事故怖いですね。もっともわたくしの歳ではそう言うことでなくとも痴呆症何て病気もあるし。夫に「私が出来なくなったらあなたどうするの?」と言っていろいろ(特に金銭面)を教えようとするのですが、夫は「そんなことならないよ。俺が先に逝く」などと言って全然真剣み無し(ー。ー
by mm (2024-05-12 06:57) 

夏炉冬扇

お気づきの通りで、氷入れました。アイスコーヒーの注文もそろそろの時期に。
こちら今朝はしとしと雨です。
by 夏炉冬扇 (2024-05-12 06:59) 

Take-Zee

おはようございます!
記憶がなくなったら私の場合、孤独死ですね・・・(^-^)!!
by Take-Zee (2024-05-12 07:19) 

TaekoLovesParis

<高次脳機能障害は、特別な人たちではなく、あしたのあなたかもしれないのです。> → まさに、そうですね。他者への思いやりと同時に今の自分が元気でいられることに感謝しないと。生きていても、まさかの時にそなえて、終活をしておかないと、と思いました。

by TaekoLovesParis (2024-05-12 07:59) 

pn

いっぷくさんだからこそ説得力があるんですよ、俺がこんな記事書いても鼻で笑われる(^◇^;)
by pn (2024-05-12 08:10) 

安奈

こんにちは。
昨日は失礼しました。

それまで普通に暮らしていたのに、
いきなり別人のようになってしまうのは怖いですね。
特にこの作品のように、その家の大黒柱だったりすると。
避けようもないというのが、またさらに怖いです。
by 安奈 (2024-05-12 09:58) 

mayu

脳は精密なコンピューターのようなものですから、何かあると、人格も変異しますね。
by mayu (2024-05-12 11:41) 

ムサシママ

人生、いつなにがあるかわかりません、ほんとですね
明日は我が身と思って読み続けていました
そろそろ終活を始めようかと思っていますが早い方が良いようです
by ムサシママ (2024-05-12 14:29) 

HOLDON

うちの親父が高次脳機能障害の部類でした。
酔って単車で倒れ、救急車で運ばれて・・・・
親父は退院1年後くらいに認知症になりました。
その2年後可愛く死んでいきました。
by HOLDON (2024-05-12 20:46) 

tai-yama

一番、誰でも起こり得るのは交通事故ですね・・・・
酒酔い運転は無くならないですね。
高齢者運転も・・・・
by tai-yama (2024-05-12 22:45) 

mau

記憶障害のドラマがいくつか放映中ですね
アンメットとくるりもかな?
by mau (2024-05-12 23:38) 

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