加藤茂雄、1作品に3役当たり前の端役やエキストラつとめた大部屋俳優 [懐かし映画・ドラマ]
加藤茂雄さん(1925年6月16日~2020年6月14日)の訃報が話題です。といっても、代表作を偲ぶというより、率直に言って「誰?」というネットの反応も少なくありません。役名もつかない端役やエキストラが多かった東宝の大部屋俳優だったからですが、東宝ファンにはお馴染みの「顔」です。(画像は以下OGPより)
加藤茂雄とは誰だ
加藤茂雄は、いずみたくや前田武彦などが卒業した、鎌倉アカデミアの演劇科から東宝へ。
加藤茂雄さん死去。ご冥福をお祈りします。合掌。#消された時間 pic.twitter.com/citmEuIVcV
— 北川町の住民 (@AgmjdjQ) June 18, 2020
といっても、ニューフェースのような華やかな入り方ではなく、最初は準専属契約で、2年実績を積んでから1954年に専属契約したそうです。
東宝の専属俳優契約は、その人の名前で役がつくスター契約と、役名もない端役やエキストラを日々こなしていく大部屋と、大きく2通りの契約があり、加藤茂雄は後者でした。
またお一人東宝の名優 加藤茂雄さんが亡くなられたのか…
— 沢村いき雄フアン (@aEKBnooFsrEUiYr) June 18, 2020
以前お会いした時にとてもにこやかに映画の話や俳優さん達の話を聞かせてもらいました。
ありがとうございました。 pic.twitter.com/ELSO2z3cCk
大部屋俳優は、毎日撮影所の掲示板に来て、自分の名前が「通行人」や「ラーメン屋の客」などにないか確認。
あればその撮影に参加し、なければその日は“残り番”で仕事がありません。
かりに作品に出演したとしても、役名はなく、一応記号的に名字ぐらいがあるのがせいぜいで、普通は「通行人」「警察官A」「ラーメン屋の客」。
加藤茂雄さん「#ウルトラセブン」第1話。
— 空きビン (@TheAkibin) June 18, 2020
防衛軍関係者以外で、最初にウルトラセブンに遭遇した人物の一人。 pic.twitter.com/fmbY8JfX9m
役作りするほどではなく、逆に役作りしすぎて存在感があると主演や助演が霞んでしまうので、目立ちすぎてもいけません。
台本も渡されず、どんなストーリーの映画かもわからず演じます。
しかし、とにかく彼らは映画会社専属のプロの俳優です。
どんな作品でも、小さなほころびで興ざめすることはありますから、通行人といえども、本当のシロウトの通行人を使うわけにはいきません。
ですから、「〇〇が主役の映画」を観に行っても、端役にお馴染みのメンバーがいるとホッとします。
1970年ぐらいまでの映画には、主役だけでなく、端役やエキストラも、専属のプロがかためていたわけです。
さて、大部屋俳優は員数扱いの「日雇い」のため、出演者に名前が出ないこともめずらしくなく、カラダがあいていれば、同一の作品に違う役で何度も出ることもザラでした。
加藤茂雄は、たとえばゴジラシリーズなどはひとつの作品に4役で出ています。
私がこのブログでご紹介するクレージー映画でも、1作品3役ということがありました。
ちょっとそれを確認してみました。
クレージーの大爆発
#クレージーの大爆発 1969年に公開されたクレージーキャッツ主演作品。 pic.twitter.com/IaffwAVBxj
— 畠中由宇・相互フォロー100% (@hata_follow) June 18, 2020
『クレージーの大爆発』(1969年 古澤憲吾監督)は、クレージーキャッツの7人が、金塊の眠る銀行の地下を、ダイナマイトで爆破したり、ロケットで宇宙に飛んだりなど、当時の「3億円事件」や「アポロ月面着陸」を意識した大胆なストーリーです。
Wikiによると、加藤茂雄は、競馬場の男・工事作業員・記者の3役をこなしていると記載されています。
改めて観たのですが、まず、「競馬場の男」。
植木等がツキまくり、競馬場で大穴をあてましたが、その札束の一部をバラ撒くと、通りすがりの人々が拾うというシーンで、それらしき人はメガネを掛けて歩いていました。一瞬の出演です。
次に、「工事作業員」。
金塊の眠る銀行の地下を爆破するために、植木等はその設計をした石橋エータローを仲間に引き入れるのですが、研究室を追い出されて現場監督になっていた石橋エータローはビルの屋上に居たため、植木等はわざわざヘリコプターで空から屋上に降りてくるシーンがあります。←現場で石橋エータローを取り次いでもらえばいいと思うのですが……
そのとき、降りてきた植木等にびっくりする作業員の一人かと思われます。
向かって左側。これも一瞬ですね。
映画の後半になって登場する「記者」で、やっとセリフが一つ入ります。
金塊を盗む「仕事」の後、ロケットで逃げたクレージーキャッツの面々は、二子山に不時着します。
しかし、飛行機には水爆を積んでいるので、おいそれと近づけません。
そこへ取材に来た記者です。
「そうしますと、金の延べ棒との関係はどうなりますか」
このセリフを終わるとカメラから消えます。
ま、普通に鑑賞していたら、同一人物が3度も出ているとは思わないでしょう。
私の経験した「1作品3役」
映画は斜陽化し、1970年代には、各社とも俳優の専属契約制を次々解除しました。
つまり、自前の俳優を抱えなくなりました。
しかし、その後も、映画は制作されており、そこで劇団、もしくは端役・エキストラ専門の芸能プロダクションが、「仕出し」といって、ちょい役を撮影現場に提供するようになりました。
加藤茂雄さんは、新星プロというところに所属して、漁師と兼業で役者を続けていたようです。
何度か書いてますが、私も青春の一時期、そうした事務所のお世話になったことがあります。
今回加藤茂雄さんの3役をご紹介しましたが、実は私も、『CHECKERS IN TAN TAN たぬき』(1985年、東宝)という映画で、3役演じたことがあります。
一番上が「記者」。
右で踊っているのが財津一郎、真ん中の赤いネクタイがヨネスケ、一番左で撮影している記者役が私です。
このときも、ストロボをたくタイミングを財津一郎さんから念押しされ、えらく緊張したものです。
真ん中が「食堂で親子丼を食べる肉体労働者」。
手前は尾藤イサオです。映っていませんが、横のテーブルでチェッカーズが食事しています。
このとき私は、折込広告のモデル派遣会社にお世話になっていて、そこから来た仕事でしたが、この画面で向かい合っている人に、端役・エキストラ事務所を紹介してもらってそこに移りました。
一番下は、テレビ局の食堂の「客」。
手前でカレーを食べているが財津一郎。これは河田町にあった頃のフジテレビの食堂で撮影。
別のスペースでは、『夕やけニャンニャン』のオーディションに残った人(要するにおニャン子クラブのメンバー)が打ち合わせしていました。
夜中までかかったので、タクシー券が出たことを覚えています。
私は、正直なんとなくやっていただけなので、2年ぐらいで“引退”しましたが、当時お仲間に話を聞いてみると、みなさん役者稼業が好きな方々ばかりでしたね。
加藤茂雄さんが何歳まで現役の役者だったのかはわかりませんが、こうした方々がしっかりと演じることで作品が成り立っていることを知り、私も楽しい時間を過ごさせていただきました。
これからも、スター俳優だけでなく、こうした端役・エキストラ中心の役者の訃報も報じていただき、現役時代を懐かしみたいと思います。
加藤茂雄さんの生前のご遺徳をお偲び申し上げます。
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加藤茂雄さん、私の亡き父と誕生年が一緒です。生きていれば今年満95歳なのですね。
いっぷくさんの出演されていた『CHECKERS IN TAN TAN たぬき』、一度作品を観てみたいものです。
by 十円木馬 (2020-06-19 15:16)
いっぷくさんの映像鑑賞力(っていう言葉が適切かどうか分かりませんが…)の深さには本当に感心してしまいます。大部屋俳優の一人三役の登場シーンなんて簡単には分かりませんものね。私の姉もかつて(昭和30年代)大映の大部屋女優やってましたので彼等の苦労は少し理解できます。五社協定なんかもあったりして今とはシステムが全然違ってましたからね。
by 扶侶夢 (2020-06-19 17:37)
この方は、存じ上げませんでした。
by ヨッシーパパ (2020-06-19 18:29)
存在感を出さずに画の中の一部を演ずる、エキストラも大変だなぁ。
by pn (2020-06-19 19:54)
加藤さんの訃報は、端役やエキストラでもニュースバリューを認められたことですから、意義があると思います。考えさせられます。
by skeptics (2020-06-19 20:41)
声優さんでも何役もやりますよね。
by mau (2020-06-19 22:04)
1つの作品で3役、かなり器用で演技力のある方ですね。
by ナベちはる (2020-06-20 01:09)
天国でご本人もブログに取り上げられて、脇役ながら役者冥利に尽きると思います。
by beny (2020-06-20 07:22)
この方は存じませんでしたが、器用な役者さんだったんですね。ちょっと調べたら93歳で映画の主役をしてますが、こういう俳優さんのお陰で映画が成り立っているのだと思います。
by kou (2020-06-20 07:48)