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『その「つぶやき」は犯罪です』ネットリテラシーを法律から学ぶ [パソコン・ネット]

その「つぶやき」は犯罪です

『その「つぶやき」は犯罪です』(鳥飼重和監修、新潮社)を読みました。ブログの悪口やツイートの拡散、店の口コミ、SNSのタグ付けなどについて、どういう場合法律に触れるのか、また逆に触れないのか、ということを、IT問題に詳しい鳥飼重和、神田芳明、香西駿一郎、前田恵美、深澤諭史という5人の弁護士が紹介・解説しています。


『その「つぶやき」は犯罪です』には、気軽に「発信」できるインターネットにおける、著作権侵害、名誉毀損、個人情報漏洩、虚偽広告になり得る書き込みを具体的に紹介しています。



たくさん書かれているので、ここではひとつだけ例をあげます。

同書では、

同級生の○○はバカだ!」と「同級生の○○が0点を取った」を並べ、

どちらが名誉棄損罪になるかを問うています。

どちらだと思いますか。

これは、実は後者です。

名誉棄損罪とは、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する」(刑法第230条第1項)と定められています。

「バカだ!」というのはたんなる書き手の評価で、「0点を取った」というのは、「公然と事実を摘示」しているので、「0点を取った」の方が名誉棄損罪に該当するという理屈です。

一見、事実を示すことが正々堂々とした真面目な文章に見えますが、名誉棄損罪かどうかという点では、後者の方が罪になるというのです。

ただし、これはあくまでも名誉棄損罪であって、「バカだ!」は名誉棄損罪でなくても侮辱罪になる可能性があるので、「バカだ!」ならいいという意味ではありません。

名誉棄損と真実の関係


それにしても、ちょっとひっかかりませんか。

公然と事実を示したら名誉棄損罪になるというのなら、“憶測による主観”しか書けなくなってしまいます。

その方が、よほど無責任で、真実に迫らないものになってしまうでしょう。

そうなのです。

名誉棄損罪でいう「事実」とは、現象や事柄を述べたことであり、「その事実の有無にかかわらず」と定められているように、内容の真偽までは問われていません。

つまり、名誉棄損罪は、何も「真実」を表現することを否定しているわけではありません。

別の言い方をすると、「真実」なら名誉棄損罪にはならないのです。

名誉棄損罪(刑法第230条第1項)の構成要件に該当しても、以下の3つの条件をすべて満たせば、名誉棄損罪にはなりません。

1.公共の利害に関する事実にかかわるものであること(公共性)
2.専ら公益を図る目的があること(公益性)
3.真実であると証明されるか、真実であると信ずるについて相当の理由があること(真実相当性)

たとえば、マスコミの記事がしばしば名誉棄損で揉めるのは、3が立証したくてもできないからです。

その報道を行うにあたって、取材活動から証言をいくつも得ているとします。

つまり、報道としては何ら瑕疵はなかった。

ところが、取材源を秘匿するというマスコミの倫理を貫くと、証言者を表に出せない。

つまり、「真実であると信ずる」根拠を明らかにできなくなるわけですから、真実でありながら名誉棄損になってしまう、ということもあるわけです。

ネット民は、メディアが名誉毀損裁判で敗訴すると、すぐマスゴミとののしります。

たしかに書き飛ばしも多々ありますが、中にはそのような事情で名誉棄損を問われることもあるのです。

それから、よく個人ブログで、既存のニュース記事をもとに記事を更新することがありますが、もし、既存のニュース記事が名誉棄損をしていた場合、その個人ブログも同じく問われるかもしれませんし、おそらくニュース一つぐらいでは「真実相当性」を立証することはできないでしょう。その点は私も気をつけたいと思います。

ステマや口コミも気をつけよう


ところで、同書で扱っているのは、基本的に名誉棄損「罪」についてです。

名誉棄損は、まず親告罪と言って、告訴権者(原則として被害者)が訴えない限り公訴を提起できません。

つまり、名誉棄損罪の書き込みがあっても、直ちに裁かれるわけではありません。

そして、刑事の名誉棄損罪で逮捕されることは普通はありません。

では民事はどうかというと、名誉棄損は「不法行為」として扱われます。

刑事と民事の「名誉棄損」はどう違うかというと、たとえば、刑事なら書いた時点で既遂ですが、民事になりますと、その書き込みによって具体的にどのような損失があるか、それと書き込みとの因果関係があるのかなどを立証できないと成立しません。

極端な例としては、名誉棄損で有罪になったのに、民事的な事実は認められず賠償ゼロということもあり得ます。

本来ですと、ネットの書き込みというのは刑事よりも民事の方が一般的なのですが、同書は刑事としての名誉棄損があくまでもメインなので、実態よりも少し怖く書かれているように思います。

ネットの書き込みは、よくも悪くも「便所の落書き」扱いなのは、判例にも出てきますから。

もちろん、だから安心して何を書いてもいいという意味ではありませんが、ネットの情報としては、個人的には、名誉棄損よりは、薬事法違反やステマの類の方が問題じゃないかと思います。

悪口というのは特定の対象者の足を引っ張るネガティブな情報ですが、健康食品の過剰な宣伝やステマなどは、国民全体に訴求する生活お役立ち情報ですから、私たち生活者に対する影響力としては、後者のほうが切実でかつ深刻ではないかと思います。

同書には、ステマや、逆に「あの店はまずい」という書き込みに対する法的な問題についても書かれています。

気になるブロガーは、同書でご確認ください。

その「つぶやき」は犯罪です: 知らないとマズいネットの法律知識 (新潮新書)

その「つぶやき」は犯罪です: 知らないとマズいネットの法律知識 (新潮新書)

  • 作者: 神田 芳明
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2014/05/16
  • メディア: 単行本


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