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村上さんのところ、「原発NO!に疑問」で行った数字比較の意味 [(擬似)科学]

原発NO!に疑問

村上さんのところ、という村上春樹氏が回答する期間限定公式サイトに人気があるそうですね。その中で最近、検索が急上昇したキーワードがありました。「原発NO!に疑問を持っています」という質問をどう見るか、という話です。その質問には、為政者やマスコミや御用学者が使うトリックが含まれていたので、このブログでもご紹介します。

まず、村上春樹氏への質問から引用します。
早速ですが、村上さんは海外でのスピーチで原発反対を訴え、メディアもそれを伝えていました。ただ私自身は原発についてどう自分の中で消化してよいか未だにわかりません。親友を亡くしたり自分自身もけがをしたり他人にさせたりした車社会のほうが、身に迫る危険性でいえばよっぽどあります。(年間コンスタントに事故で5000人近くが亡くなっているわけですし)。文明と書かれたおもちゃ箱の様な物の中から、一つ原発を取り出して「これはNO!」と声高に叫ぶことが果たしてどこまでフェアなのかがよくわからないのです。もちろん原発なんてない方がいいとは思うのですが、世界を見渡せば増える傾向にしかないですし。原発反対=正義のような図式も違うと思うし……。
この先スーパーエネルギーが発見されて、原発よりも超効率がいいけど超危険、なんてエネルギーが出たら、それは止めてせめて原発にしようよなんて議論になりそうな、相対的な問題にしかどうしても思えないのですがどうでしょうか……。(アジアンタム、男性、38歳、鍼灸師)

それに対する村上春樹氏の回答は、福島を立ち退かなくてはならなかった人々の数はおおよそ15万人で、交通事故の5000人よりも多いと、まず数字から反証。その上で、「福島の悲劇は、核発の再稼働を止めなければ、またどこかで起こりかねない構造的な状況」と述べました。

村上春樹さんに読者が聞いてみた 「原発より交通事故の方が問題では?」.png
http://www.huffingtonpost.jp/2015/04/09/murakami-haruki-nuclear-power_n_7030608.html より

村上春樹氏は、福島原発の禍根が忽せにできないものである、ということを表現したかったのだと思います。

ただ、この質問は、そもそも数字のトリックを使うこと自体に問題があります。

質問者は、原発事故の被害は交通事故より少ないんだから、大したことないじゃないか、といっているわけです。

でも、それでは、「交通事故と原発事故に何の関係があるの?」という反問を抱かざるをえないでしょう。

つまり、本人の意図や自覚がどうあれ、物理的、質的になーんの関係もないことを、「数字の大きさ」だけで比較して、原発の影響は「よりまし」なんだよと印象づけているのです。

為政者、企業、役人、マスコミ……、

彼らの発する情報は、多かれ少なかれ、そうした手法を使うことで国民を信じこませてきたのです。

にゃろう

質問者が本当に「鍼灸師」であるのなら、そんな「権威・権力ある人達」の真似はしてほしくないですね。

めやすも含めて一切比較するなとはいいませんが、いきなり比べるのは唐突です。

交通事故と原発事故を比べる「悪しき相対主義」


そうした「悪しき相対主義」や「唐突」さを批判しているのが、このブログでも何度かご紹介していますが、定期的に福島の放射線被曝を調査している安斎育郎氏です。

『福島県下での放射能調査に取り組んで』安斎育郎氏が訴えることは?
福島の人びとの被ばく線量はそんなにキケンなのか
『2015年2月福島放射能調査報告書』樽葉町の水はセシウム不検出

安斎育郎氏は、自動車の利便性を活用する過程で事故を起こしたとしても、それが100代、1000代先の子孫まで深刻な影響を残すことは考えにくいが、原発は長寿命放射性廃棄物を100代、1000代先の子々孫々まで遺すだけのものであること。そして、電力は「消費と同時に生産しなければならない特殊な商品」で、原発の恩恵は現世代だけが享受し、「負の遺産」だけを将来世代が負わなければならないものであり、「交通事故」と「原発事故」は全く質の異なるものであるという指摘を行っています。

また、安斎育郎氏は、原発事故の影響は、「避難住民」以外にもあることを常々述べています。

原発を54基もつくりながら、国は放射線のリスクについて、義務教育年次までにリテラシーをつける系統的な教育に取り組んできませんでした。

そのため、福島県民は未だに科学的根拠のない偏見や差別に苛まれ、生産者は深刻な風評被害にも直面しています。

大量の汚染水や、除染廃棄物の処分の見通しは4年たっても定かでなく、廃炉へのロードマップも確かな根拠がないという「危機的な状況」が続いていながら、国や電力企業は何の対策もとっていません。

質問者は、そのへんが全くわかっていないのでしょう。

結論


ただし、私は、村上春樹氏が「数には数で」反論したことに対して、批判的な気持ちは持っていません。

短い文章の中で解決しなければならないのです。相手の土俵にたつのは、その数字が間違いでなければ、わかりやすく反論する有効な方法のひとつだと思います。

ただ、村上春樹氏の回答を額面通り受け止めてしまうと、そうした「数字のトリック」が見えにくくなってしまうので、同じ土俵に立って論破するというのはわかりやすいのですが、その土俵そのものがおかしい、ということも補足しておいてもいいかなと思い、今回書いてみました。

安斎育郎氏からは、3月の調査報告(南相馬市、福島市)についてもいただいているので、それはまた日を改めてご紹介したいと思います。

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