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損したくないニッポン人(高橋秀実著、講談社)価値判断の損得勘定に懐疑的感想 [生活]

損したくないニッポン人(高橋秀実著、講談社)価値判断の損得勘定に懐疑的感想

損したくないニッポン人(高橋秀実著、講談社現代新書)をご紹介します。日本人がしばしば「損したくない」という思考に基づいて行動することに焦点を当て、それは本当に損をしていない「賢い」選択なのか、懐疑的に論考しています。



賢い節約術

ポイントを集めて賢い買い物

といった雑誌の記事を、しばしば目にします。

しかし、本当にそれは「賢い」のでしょうか。

本書の著者は、日常生活でのさまざまな状況を通じて、日本人がどのようにして無意識のうちに「損」を避けようとするか、そしてその結果として実際には「得」を逃してしまうかを探求しています。

すでに古本も出ていて新刊ではないのですが、挙げている例がこんにちでも「あるある」なのでご紹介します。

損か得かは価値判断の範疇


損とは何か、得とは何か。

みなさんはどう答えられますか。

本来のコストよりも支出が多くなることが「損」で、逆にそれが少なくなることが「得」というところでしょうか。

でも、人間の生活というのは、あるひとつのコストだけでは損得を語れません。

たとえば、2000円以上買い物をすれば、400円の駐車場料金が無料になるスーパーで買物をします。

すると、本当は1500円しか必要な物がなくても、駐車場代欲しさに、500円の余計な買い物をしてしまう経験はありませんか。

駐車場代を「無料」にしなければ、「損」をしてしまうと考えがちです。

ただ、その「500円の余計な買い物」が、買い置きできる必需品ならいいのですが、そうでないと、無駄遣いに終わってしまうかもしれません。

他の店では、それが500円よりも安い値段で売っているのを後から知って、ホゾを噛むことになるかもしれません。

私はあります、サ×ットで買ってから、やっぱりオー◯ーストアの方が安かったじゃないかとか。

だとすれば、「損」といえるのではないでしょうか。

しかし、他の店に行く時間やエネルギーのコストを考慮したら、かりに価格自体が少しぐらい高くても、そこで買ったことは「損」とはいえない、という考え方もあるかもしれません。

ですから、値段、時間、その時々の市場の動向など、買い物をする本人がどこまでを基準とするかによって、「損」か「得」かは解釈が分かれます。

つまり、損か得かは、一見数字を基準としているようでいて、実は価値判断の範疇にあるということです。

このような視点で、著者は、実在する経済書や、節約本、さらに商店の商品などを次々取り上げ、「うわべの経済性」に対して、素朴なツッコミを行いながら、「損」と「得」について考えています。

本書に出ている一つの例をご紹介します。

著者は、ブラウン管テレビ時代に共同アンテナで使っていて、調子が悪くなったので電器店に行ったそうです。

そこで気づいたのは、本当は30インチくらいでいいのに、売れ筋は40インチ液晶テレビ。

店員が言うには、生産効率から大量生産できる40インチが良い。

32インチでは、歩留まりから割高になる。

つまり、40インチの方が価格的には「得」ということです。

しかし、家庭の6~8畳程度に、そんなサイズが果たして必要なのか。

そもそも、大画面ハイビジョンでは、昔のドラマの再放送など、逆にきれいにうつらないものもあります。

それに、部屋が狭くなったり、大きな映像による圧迫感があったりして快適でなくなれば、消費者にとっては「最適でない」ことが「損」になってしまうのではないか? と疑問を抱いています。

「節約」が目的化している「節約術」につッこむ


既存の「節約術」についても、いくつかツッコミを入れています。

合理的な節約というよりも、「節約している自分が好き」な状態を皮肉っています。

たとえば、『シンプル節約生活の正解』(主婦の友社)。

「風呂のガス代節約になるということで、バケツ2杯に水を入れて日向に置いてあたため、「太陽熱おふろ」に入りましょうと勧めている」ことをとりあげ、こう突っ込んでいます。

「ゴミが入らないようにバケツにシャワーキャップをかぶせるそうだが、ウチにはシャワーキャップがない。あったとしても風で飛んでしまうのではないかと日がな一日心配になるし、パケツを運ぶ途中でこぼしたら掃除の手間が増えるではないか」

また、「耐水性にすぐれた牛乳パック」の底の部分を高さ10mほどで切り出して、そこで卵をとけば、「そのまま捨てられ、水きれもいいので食材をムダなく使いきれ」る「牛乳パックで卵とき」なるアイデアも、

「なぜわざわざ牛乳パックを使うのか。牛乳パックはそのまま捨てて、素直にボウルで卵をとけばよいではないか。牛乳パックの有効利用のために、無効な家事を増やしているとしか思えない」と切り捨てています。

そりゃそーだ、と思います。

「節約料理本の類いもへン」といい、たとえば『もっとここちいい! 節約ライフ』(ハー・ストーリイ編著 アンドリユース・プレス)という書籍に書かれている、「外食するよりコストもかからず、経済的」としているホームパーティーの勧めにも、

「確かにレストランでパーティーを開くより金銭的に節約になるのかもしれないが、本当に節約するならパーティーをしなければよいのだ」とあっさり突き放し、

節約する人たちは、果たして何を節約しているのだろうか?

と、節約のための節約が、真の節約になっていないことを疑問視しています。

このへんはもう、笑いながら読むところです。

末章では、国民は損をしたくないことが「一種の強迫観念」になっているのではないかと分析。

本書は「損したくない」「貧乏くさい」を追究した、ひとつの思考実験であるとまとめています。

損得を現実的に考えていて「そうだよな」と思うことも多く、ユニークな書籍だと思います。

みなさんは、メディアに出てくる「節約術」は、参考にされますか。

実家で飯食って食費を浮かせたとかね。

いや、それ浮いてないですから(笑)

損したくないニッポン人 (講談社現代新書) - 高橋秀実
損したくないニッポン人 (講談社現代新書) - 高橋秀実
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コメント 10

pn

何か買うためにどこが安いか調べて遠い所に買い物いくのは金額は低いのかもしれないがかかった時間と移動手段を考慮すると時間がもったいないと判断したので執拗なまでの節約やめた(笑)
by pn (2024-04-24 06:23) 

mm

おはようございます^^
あまり考えないですね。特に歳を取るにしたがって、自分の体が楽なのが一番。ご近所のスーパーで買い物します。そう言った類の本も買ったことないです。
by mm (2024-04-24 06:48) 

夏炉冬扇

むかしは家で鶏飼っていました。田舎のごちそうは鶏の鋤焼きでした。お砂糖たっぷりで。
by 夏炉冬扇 (2024-04-24 07:08) 

mayu

節約は、楽しくしたいものです(*^_^*)
苦行になっちゃいけませんね。
by mayu (2024-04-24 07:13) 

Take-Zee

こんにちは!
今でも小銭を残しています・・・
老後のためですよ (^-^)!
70過ぎた爺さん、老後はいつかなあ~??
by Take-Zee (2024-04-24 13:08) 

ムサシママ

節約は殆ど考えたことがないです^^;
ポイントも気にせず買い物をしています
欲しい物を買う、これに付きます
節約をすると言う熱量を他に回したいだけです
by ムサシママ (2024-04-24 15:32) 

コーヒーカップ

結局平たくすれば同じですよね。

by コーヒーカップ (2024-04-24 18:35) 

tai-yama

千葉にいた時は、サミットは高い、余計なポイント多すぎ
と思ったのですが、引っ越し先のヨーク◯ートの方がサミ
ットより(特に弁当)高かったと言う・・・・
by tai-yama (2024-04-24 23:07) 

mau

駐車券といいながら無駄なものよく買ってますねー
by mau (2024-04-25 00:26) 

そらへい

何が損で何が得なのか
お金だけでは測れませんね。
今損してもあとで得だったこともあるし
その反対もありますからね。
by そらへい (2024-04-25 20:21) 

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