SSブログ

ムショ医(佐藤智美著、佐藤漫画製作所) [文学]

ムショ医(佐藤智美著、佐藤漫画製作所)

ムショ医(佐藤智美著、佐藤漫画製作所)は、女子刑務所の非常勤勤務になった女医が経験する、受刑者のトラブルや人間模様を描いています。受刑者という立場の患者が起こすトラブル、精神状態、熱血医師が自分から巻き込まれる事件の数々が描かれています。



本作主人公の、粂川晶(28)は大学病院の医師。

非常勤で、自分の故郷にある女子刑務所で働くことになりました。

大学医局の医師が、所属する病院以外に、非常勤で仕事をすることはめずらしいことではありません。

しかし、刑務所は、一般の病院や学校の保健室とは違います。

塀の中という未知なる医療現場で、受刑者という立場の患者が起こす出来事、精神状態、もの好きの粂川医師が好き好んで巻き込まれる事件の数々。

全5巻プラス「再診」の6巻が、KindleUnlimitedの読み放題リストに含まれています。

裏切られながらも受刑者にのめり込む女医



大学病院で働く医師の粂川晶(くめかわあきら)は、実家のある北浦刑務所の非常勤医師になりました。

北浦刑務所は、約450人の女囚がいる女子刑務所です。

着任早々、タクシーの運転手に、門前のポーズを撮ってもらったり、白衣も着る前に、受刑者同士のトラブルによる傷の手当てをさせられたりと、いきなりあわただしくストーリーが動きます。

傷を負った受刑者は模範囚で「看病婦(病舎で働く受刑者)」したが、それゆえ、トラブルに巻き込んで仮釈放させないようにする他の受刑者の作戦でした。

この模範囚は、元看護師だったということもあり、粂川晶は俄然関心を持ちます。

私語をかわしたり、模範囚が洗うべき洗濯を手伝ったりして、刑務官に睨まれることも。

しかし、本来刑務所医は、個々の受刑者に入れ込んではいけないのです。

主任刑務官の早乙女からも、「深入りすると先生が傷つく」と、善意の忠告もされるのですが、どうもやめられず、毎回それでストーリーがこじれていきます。

すごく情熱的な主人公ですが、とうとう最後まで、刑務所医の常勤になるとか、なりたいとかいった話はでてきません。

逆に言うと、非常勤のくせに、首突っ込みすぎです。

そんなに深入りしたいのだったら、自分も退路を断って、専従になれよ、と思いました。

それと、主人公の粂川晶の家族関係が、謎めいていて、でも完全には解明されませんでした。

途中から弟が出てくるのですが、どうやら本当の弟なのに、“弟”と、ちょんちょんかっこ付きで書かれています。

母親とも、イマイチ関係がぎこちないのです。

晶を長子に、長男を含めて3人姉弟で、腹違いかなと思ったのですが、そうとも書かれていません。

長男を大事にする、カビの生えた家制度を大事にする家で、それが家族間のギクシャクをうんでいるらしいのですが、下の弟だけが今の母親の子なのかなとか、なんて考えました。

これは、続編を作って明らかにしてくれるのでしょうかね。

版元の力を借りずにネットを使った販路だけで成功


「佐藤」姓と画風を見ると、どうしても思い出してしまうのが、『ブラックジャックによろしく』(佐藤秀峰作、佐藤漫画製作所)です。


キャラクターねちこくて、わざわざ起こさなくていいトラブルを起こすところもそっくりです。

佐藤秀峰さんと佐藤智美さんは、Wikiによると「元夫婦」とありますが、本書も『ブラックジャックによろしく』と同じ佐藤漫画製作所刊行になっていて、元夫婦であることと、仕事上の連携関係をどうやって両立しているのか、などと要らぬことをつい詮索してしまいます。

それはともかくとして、本作は、佐藤漫画製作所刊行という、既存の出版者を通さない「自社出版」です。

佐藤漫画製作所は、やはりWikiによると、「電子書籍のロイヤリティだけで5億円を越すことができたことを報告し、二次利用のフリー化における収益の可能性を自ら体現した。」とあります。

要するに、版元の力を借りずにネットを使った販路だけで、数字を挙げたということです。

在庫も抱えないからリスクもないし、出版者に差配されずに自分の作品をマネタイズできているわけです。

これは、ネット時代の表現者にとってのビジネスモデルです。

以前、漫画村という海賊ブックサイトが問題になった時、佐藤さんは、「漫画村を糾弾しても漫画家にはメリットがありません。それより、それを批判する出版社の目的に利用されてしまう」との懸念を示していたのを覚えていますか。


出版社(Amazon kindle含む)が、漫画村を悪者にすることで、ドサクサに紛れて作品の権利を漫画家から奪ってしまう、ということを指摘していたのです。

私もその意見に賛成であることを、当時このブログで述べたところ、私のアンチ某が、「漫画村の味方だとは思いませんでした」などと書いていたので、その悪意もしくは読解力のなさに、思いっきり椅子から転げ落ちました。

「漫画村を批判しない」ことはイコール「賛成」なのではなく、批判するものの企みのほうが作者には現実的にはデメリットが有る、という指摘に賛成しただけなのです。

つまり、漫画村の味方ではなく、漫画家の味方だと言ったんですけどね。

それはともかくとして、本作は全6巻ですから、読み終えるのにそんなに時間はかからないと思います。

女子刑務所の実態も垣間見える本作、1度読まれてはいかがでしょうか。

ムショ医1 - 佐藤智美
ムショ医1 - 佐藤智美
【中古】 ムショ医(1) 芳文社C/佐藤智美(著者) 【中古】afb - ブックオフオンライン楽天市場店
【中古】 ムショ医(1) 芳文社C/佐藤智美(著者) 【中古】afb - ブックオフオンライン楽天市場店
nice!(123)  コメント(6) 
共通テーマ:学問

nice! 123

コメント 6

赤面症

結構イライラしそうな予感
by 赤面症 (2024-01-19 01:10) 

pn

音楽業界も発売元に権限(でいいのか)あるんでしょ?制作者蔑ろにされ過ぎなのでは。
by pn (2024-01-19 06:15) 

Take-Zee

おはようございます!
南岸低気圧で大雪が心配です!!

by Take-Zee (2024-01-19 09:02) 

tochimochi

女子刑務所の実態も垣間見える、と聞くと興味深々です。
by tochimochi (2024-01-19 11:16) 

コーヒーカップ

売るってやっぱり大変です。

by コーヒーカップ (2024-01-19 18:39) 

t-yahiro

首を突っ込むなら退路を断つ
気構えと責任の持ち方ですね。
読んでみます。
by t-yahiro (2024-01-19 23:12) 

Facebook コメント

Copyright © 戦後史の激動 All Rights Reserved.
当サイトのテキスト・画像等すべての転載転用、商用販売を固く禁じます