障がい現役!【分冊版】1~8 (金山カメ著、笠倉出版社)は、知的障碍者のグループホームではたらいた作者のコミックエッセイです。「ダウン症の人って、天使じゃないからね」など、障碍者を美化も見下しもせず、ありのままに描く思いやりを感じます。
グループホームというのは、高齢者、障碍者など、社会的弱者が、小人数で支援を受けながら一般住宅で生活する施設です。
何人かの介護支援員がついて、その人たちのお世話をします。
お世話の内容は、障碍によっても違うので様々です。
軽度と重度では、全く違いますよね。
まあ、軽度の場合、自立可能とみなして、グループホームには入所しないかもしれませんが。
一応、本作はフィクションとのことわりがあります。
といっても、名前を変えるとか、1人の障碍者に他の人のエピソードも加えるとかした「創作」で、本当に体験したことがベースであろうと思われます。
ダウン症の人って、天使じゃないからね
物語は、作者が知的障碍者グループホームで、支援員として働く初日のシーンから始まります。
「はじめまして。主任の家主(いえす)です。みんな良い人ばかりだから、大丈夫よ」
主任さんも良い人そうでよかった、とホッとする作者。
「とりあえず、今日は1号室のリエさんを、お風呂場まで誘導してもらおうかしら。リエさんて、ダウン症の人で、素直で人懐っこくて可愛らしい人よ」
ダウン症の人って、よく「天使の子」って形容されるもんなぁ、と作者。
「リエさん、ちょっといいかしら」とテレビ鑑賞しているリエさんに声をかける主任。
リエさんは、「家主さん、こんにちは~」と、主任に抱きつきます。
それを見た作者は、「カワイイ」と一瞬思いますが……
「金山です。よろしくおねがいします」というと、ギロッと睨みつけ、
「うるせーよ。バーカ」と返します。
ショックをウケる作者。
「あらもう会議の時間。じゃあ、お風呂への誘導よろしくね」と部屋を出ていってしまう主任。
困った作者ですが、とりあえずお風呂に誘導しなければと、「あの……」と声をかけると、その瞬間、
「うるせー」の返し。
「テレビの邪魔するな」
作者は部屋のドアを開け、
「お風呂へいきましょうよ」
すると、リエさん、リモコンを作者に投げつけました。
「開けるんじやねーよ。バーカ。シね」
……どこが天使だ。この姿、誰がどう見たって、反抗期こじらせたオタクじゃねーか、と思う作者。
仕方ないので主任に相談しますが、
「言い忘れたけど、リエさんて、『ドアの開けっ放し』に強いこだわりがある人なのよ。でも大丈夫。神様が助けてくださるわ」
こういうときに神頼みと言われても……。現実的な対応をアドバイスしてもらわないと。
それはさておき、脳関係の障碍、つまり発達障害とか高次脳機能障害の一部には、「こだわりの強さ」という特徴があります。
いつも同じところにないと気がすまないとか、いつも同じことをシないと気がすまない、というやつね。
これは、必ずしも悪いことではありません、
たとえば、仕事とか、正確にしますから。
後片付けなんかもね。
チリ一つ落ちてても我慢ならないわけですから。
その日のルーチンも絶対守るとかね。
だらしない人は、見習うべきでしょう。
とにかく、作者は、「神頼みじゃ解決しねー」と悟ります。
ここで、洗身介助の元ヤンに相談します。
「裏ワザ教えてやっから、覚えときな」
元ヤンは、「お風呂ですよー」と戸をガラッと聞こえるように開けます。
リエさんは、「あけんじゃねー」といって、戸まで走ってきます。
すると元ヤンは、「せっかくここまで来たんだから、お風呂入りましょ」と言います。
リエさんの、こだわりを逆手に取った誘導法だそうです。
現役の支援員にも参考になるかも。
そして、風呂から上がったリエさんは、すっかり機嫌が良くなっています。
元ヤンが、「リエさん、ごきげんだからコミュニケーションとるといいよ」と作者に耳打ち。
作者が、「金山カメと申します。どうぞよろしく」と挨拶すると、
「カメさん?よろしくねー」と抱きついてきました。
元ヤン曰く、「
ダウン症の人って、天使じゃないからね 」
決して悪い意味ではありません。
「ダウン症だからって、皆同じじゃないよ。明るい人もいれば暗い人もいて当然でしょ。人間だから」
つまり、多様な人間性を見ずに、天使などという「綺麗な言葉」でごまかしてはならない、ということです。
ごまかすから、本当のことが見えなくなって、やまゆり園のような事件になるのです。
障碍者を、美化も見下しもせず、ありのままに描く
本作についての感想は、
障碍者を、美化も見下しもせず、ありのままに描く、というところがすばらしい
これにつきます。
施設での日常なので、障碍者だけでなく、職員の観察もなされています。
主任の家主さんを、「いい人過ぎてアレな人」と表現しているのは笑いました。
もちろんそれは、職員をバカにしているわけではないんです。
凡人ではなく「突き抜けている人」というのは、どこか「変人」なわけですが、障碍者の支援をするという、並外れた「いい人」は、いい意味で「突き抜けている変人」という意味ですからね。
それと、福祉関係には元ヤンが多い、とも書かれています。
いずれにしても、介護施設の職員が、いかに心身を使う大変な仕事かがわかります。
「いや、そんなとこ、自分は関係ないよ」
なんて言わないでくださいね。
人間は皆、いずれは衰えるし、事故や病気で中途障碍者にならない保証もありません。
将来、もし“そうなったとき”にどうするか、考えてますか。
予備知識として、グループホームの日常を描いた本書をおすすめします。
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元ヤンは心根が優しいのでしょう(・∀・)
by 赤面症 (2024-01-18 01:16)
アレな人、確かに紙一重だろうなぁ(^_^;)
by pn (2024-01-18 06:18)
おはようございます!
長らく ”障害者”でしたが最近は表記も
変っていますね (^-^)!
by Take-Zee (2024-01-18 08:38)
自分も後天的に障害を持ちました。
ダウン症の方、アスペルガーなどの方と接する機会もありましたが、
判っていても、相手はこちらが傷つくことをしたり、言ったり悪さもしますから、正直言って腹が立ちます。
簡単に受け入れるのには抵抗がありましたね。
by コーヒーカップ (2024-01-18 18:59)
リミッターが外れているので、ある意味パワーも
必要なのかと・・・。
by tai-yama (2024-01-18 23:26)