実力も運のうち 能力主義は正義か?(マイケル・サンデル著、鬼澤忍訳、早川書房)は、能力主義が公平かを様々な観点から考察します。本書では、能力主義がもたらす問題点や、能力主義に代わる新しい価値観の提唱が行われています。
以前、本書『実力も運のうち 能力主義は正義か?』については、ちらっとブログ記事でご紹介したことがあります。
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「親ガチャ」というキーワードがトレンドに、人生は必然と偶然
そのときは、まさに「ちらっと」で、「能力主義は正義か?」という部分が、十分にご説明できなかったこともあるので、今回は本書レビューという形で、改めてご紹介します。
『実力も運のうち 能力主義は正義か?』は、アメリカの哲学者、マイケル・サンデルさんによる哲学書です(鬼澤忍さん翻訳)。
本書は、
「実力社会」というけど、それって本当にその人の「実力」なのか?という話です。
さらに、能力主義が正義であるかどうかについても、様々な観点から考察。
能力主義がもたらす問題点や、能力主義に代わる新しい価値観の提唱が行われています。
親ガチャとはなんだ
能力主義って言葉は、昔の、士農工商の身分社会に比べたら、自由で開かれている感じしますよね。
結果さえ出せば、実績さえ残せば評価される。
貧乏で学校を出ていない親に生まれた子でも、試験に受かれば上の学校に行けて、博士の学位を取ったり官僚になったりできる。
……理屈ではね。
ただ、それが実際にそうなっているか。
そもそも、それが本当に人が目指すべき自己実現なのか、というところまで本書は言及しています。
本書の中で、マイケル・サンデルさんは、能力主義がもたらす問題点について、以下のように指摘しています。
1.能力主義は、人々を単なる生産性の向上手段として扱い、人間の尊厳を踏みにじる。
2.能力主義は、人々の能力に基づいて報酬を与えることで、社会的不平等を助長する。
3.能力主義は、人々の能力を測定する方法に問題があるため、公正な評価ができない。
「1」と「2」だけですと、単にイデオロギー的なスローガンや批判(マイケル・サンデルさんは政治哲学者)にとられてしまうかもしれませんが、もっとも大事なところは「3」です。
能力主義は、ポテンシャリティの公正な結果ではない。 ということです。
では、なぜ能力主義が「公正」でないか、という論考が本書の肝です。
身分とか家柄ではなくて、能力なんだから本人次第だろ?公正だろ、と思いますか。
なぜ公正でないかということですが、それは以前もご紹介した、「親ガチャ」だからです。
といっても、本書に「親ガチャ」という単語はありません。
私が鬼澤忍さんにかわって、平易に翻訳したのです。
本書では、「
実力も運次第」と表現しています。
何の運か。
どういう親かという「当たり外れ」で子の人生が変わる、ということです。
それを親ガチャと言います。
ところが、以前も書きましたが、そういう話題になると、おおよそこのような反論があります。
自分は貧乏で無学な親のもとに育ったが、努力したから東大に行けた。
だから、親ガチャなんて関係ない。親のせいにするなと。人生本人の頑張りが全てだと。
もちろん、努力は大切です。
しかし、その努力の動機や質は、「生まれ持った」部分を否定できない。
というのが、マイケル・サンデル先生の言い分なのです。
たとえば、努力が開花できる知能は、遺伝でしょ?
自分の意志による「進学」を許してもらえる家庭環境自体が、実は大変恵まれている幸運だということにその人は気づいていない。
大学に行きたくても、学力以外の諸事情で、行けない人もいるのですよ。
親からは、今日の飯を盗んでこい、なんて命令される環境の子弟もいます。
マブチモーター社長サツ害事件の犯人は、そういう環境でした。
長澤まさみ主演で映画化されましたが、川口祖父母サツ害事件のように、息子に祖父母をコロさせて強盗をさせ、裁判では知らんぷりする母親だっています。
こういう親に生まれたら、大学どころじゃないんですよ。
そう書くと「極端な例だ」と反発する人もいるのですが、極端だろうがハチノアタマだろうが、そういう親がいるのは事実なのです。
「実力も運のうち」とは?
本書では、結論として、能力主義に代わる新しい価値観として、以下の提唱も行っています。
1.公正な分配:人々が持つ基本的な権利やニーズに応じて、資源や報酬を分配する。
2.社会的貢献:人々が社会に貢献することを重視し、その貢献に応じて報酬を与える。
3.人間関係:人々がお互いに尊重し、共同体としての関係を築くことを重視する。
人々はこれを、マルクス主義に変わる、21世紀の新しい共生社会主義だと言います。
たしかに、利他と平等と公平を唱えていますからね。
ただ、「運」に恵まれて、成功している人は、面白くないでしょうね。
「確かに自分の『ほしのもと』は恵まれていたかもしれない。しかし、それに加えて自分の努力があったことは確かなんだから否定したくないんだ」と。
否定は、しなくていいんです。
ただ、こう考えてはいかがでしょうか。
私は、「実力も運のうち」というサンデル先生の教えに、仏教(諸法無我)の世界観を感じました。
諸法無我とは、すべては因縁で繋がっていて、独立した固有の「我」などはない、という考え方です。
努力も、それにともなう自己実現も、スバラシイことだと思いますよ。
でもね……
「オレが立派だからこそ、努力でき、成功もしたんだ」と、「我」を過信して思い上がるのではなく、そのように努力できた環境や出会いなどがあってこその自己実現、という謙虚な気持ちが大切だということです。
「親ガチャ」という考え方に馴染めない方、どう思われますか。
実力も運のうち 能力主義は正義か? - マイケル サンデル, 鬼澤 忍
子ガチャというのもあるらしいですね
by 赤面症 (2023-12-14 01:13)
おはようございます^^
努力だけではどうにもならないことは確かですね。
やはりどういう親のもとに生まれたかはかなり重要な要素だと思います。わたくしの子供のころの周りを見渡しても「羨ましい」と思う人もいれば「気の毒ね」と思う人たちもいましたからね。
by mm (2023-12-14 06:10)
のし上がってきた人は努力を否定されてるように受け取っちゃうんだろうなぁ。
by pn (2023-12-14 06:26)
おはようございます!
私は間違って使っていたかな・・
“運も実力”と思っていました (*-*)!
by Take-Zee (2023-12-14 07:36)
21世紀の新しい共生社会主義・・・
この世の全ての人が善人であればの話で
そうでない人が混じると崩壊ですね
by ムサシママ (2023-12-14 10:03)
昔知り合いから、教員免許の授業で「学習能力は親に左右される」のような内容の講義があったと聞いたことがあって、なるほどなと思った記憶があります。
能力主義ではこの世の中回らなくなってます。
結局、資本主義貴族を生み出し庶民は30年間不況に苦しむ結果。治安も悪くなりますね。
社会的弱者、障害者などを大事にできる社会になることは治安が良くなり安定すると思います。
by コーヒーカップ (2023-12-14 17:29)
上司ガチャもあるし(笑)。
結局、運ガチャと。
by tai-yama (2023-12-14 23:06)