明暗(原作/夏目漱石、漫画/バラエティ・アートワークス、Teamバンミカス)は、人間の利己を追った長編小説で未完の絶筆となりました。結婚した会社員で親から独立しているのに、なお仕送りを受け、以前に付き合っていた女性が忘れられない自己愛の強い男の話です。
『明暗』は、夏目漱石が大正5年(1916年)5月26日~同年12月14日まで「朝日新聞」に連載された長編小説で、バラエティ・アートワークスが漫画化し、Teamバンミカスから上梓されています。
夏目漱石にとっては遺作であり、病没のため連載は188回までで未完となっています。
津田由雄(30)は、妻・お延(23)と東京で2人暮らしの新婚です。
周囲からは、幸せな結婚生活を送っているように見せていますが、由雄の心のなかではその世間体を守ることが大事で、お延のことを愛しているかどうかは自身の心の中でも懐疑的でした。
かつて突然姿を消した恋人、清子のことが忘れられないからです。
仲人のすすめもあり、自分の気持ちに決着をつけるため、昔の恋人の清子に直接会いに行きました。
そして、清子がいました。
では、由雄と清子はどうなるのか。
昔のこととしてお互い心のなかでけじめをつけるか、焼け木杭に火がつくのか。
夏目漱石は、胃潰瘍でなくなったため、その結末は書かれていません。
まんがで読破シリーズ全55巻の第16巻です。
本書は2023年12月14日現在、AmazonKindleUnlimitedの読み放題リストに含まれています。
突然去っていった恋人と温泉宿で再会
津田由雄は、就職して結婚もしているのに、まだ父親から仕送りをしてもらっています。
自分一人なら、そんなことはないのですが、苦労知らずで浪費家である妻のお延に対して、いい夫であるために、「お金があるあるふり」をしているのです。
といっても、お延を愛しているからというより、外聞のためです。
由雄自身は、どうしてこの人と結婚したのか、未だにもらいたいとももらいたくないとも思ったことはないのに、なんて今更考えています。
といっても、別に嫌いだからというわけでもなさそう。
要するに、好きでも嫌いでもないという、無気力で無責任な考えです。
そして、心の中には、自分のもとを去っていった、かつての恋人の清子が頭にあります。
津田はかつて清子という恋人がいましたが、清子が去る形で別れてしまいました。
清子はもう、よその人と結婚しています。
自分は結婚して半年という新婚でも、「なぜあの人は他の家に嫁ぎ、俺はあの女を嫁にもらったんだろう」などと未練たらたらたらです。
そんな由雄は、持病である痔の治療のために、手術と入院をすることになりました。
日曜日に入院しますが、お延は叔母夫妻の岡本一家と、芝居を見に行く約束をしていました。
この夫婦は、由雄の上司の吉川家と、お延の叔母夫妻の岡本家の取り持ちで婚姻したのです。
「ぜひ来いって言ってくれているのよ。ねえ、あなたも一緒にいけけない?」
入院の話をしているのに、そういうことを言い出すお延。
由雄の不服そうな表情を見たお延は、すぐに「嘘よ、冗談よ」と提案を引っ込めます。
いつも、夫の顔色をうかがって物を言うのは習性になっていました。
だったら、余計なことは言わなければいいのに。
しかし、由雄は、彼女には芝居に行ってこいといいます。
入院するから芝居にいくなとも、あなたが入院するなら芝居は断りますともいわない、どこなく噛み合わない夫婦です。
入院の翌日、2人の仲人の吉川夫人が見舞いに来ますが、夫人は、由雄が忘れられない清子とのけじめを求めてきました。
「清子さんへの未練を気取られたくないから、あなたはお延さんを甘やかすんです」
「そりゃ、未練だって残りますよ。理由も何もわからないままいなくなるんですから」
「あなたの気持ちなんてどうだっていいの。そうやってイジイジ過去にこだわっているから、いろんな人が迷惑するの。男らしく過去を清算しなさい」
夫人は、清子に会いに行って、話してこいといいます。
なぜか、夫人は清子のいどころを知っていました。
流産をしたために、湯河原の温泉に湯治に来ているというのです。
由雄は、自分も痔の手術後の湯治ということで、湯河原に向かいました。
大浴場につかった由雄ですが、広い旅館のために帰りは自分の部屋がわからなくなってしまいました。
「さて、どうやって部屋まで戻るか」
そのとき、廊下を歩くかすかな音が耳に入ってきました。
階段の上を見上げると、そこにいたのは、清子でした。
原作では、翌朝清子が津田を自分の部屋に招き入れ、2人は話をしているのですが、本書は、ここで終わっています。
『明暗』とは何についての明暗だったのか
物語としては、2人が会って、さあこれから、というところなんですね。
本作が今でも注目されているのは、「いったいどんな結末だったのだろう」ということととともに、かなり端折りましたが、それまでの登場人物の描写がなかなか人間臭いというか、夏目漱石先生お得意の(?)、エゴと倫理観を考えさせられる人たちが登場していることだと思います。
それにしても、
ストーリーはありがちな話です。
いい年になったから結婚はしたものの、青春の忘れ物のように後悔を残して、やっぱり昔のあの人が気になるとか。
恋人とか、深い関係でなくても、いにしえの同級生は、今どうしているだろうか、初恋のあの人の今をひと目見てみたいな、なんて考えることはありませんか。
同窓会とかクラス会だと、どうでもいいその他大勢とも会わなきゃならないので、あくまで個人的に再会できないかなとか。
口きかなくてもいいから、ちょっと遠くから眺めるだけでもいいからとか。
昔と今は別人のように違っていたって、諸行無常はお互い様ですから。
自分がもし由雄で、初恋の人が清子だったらどうだろう、なんて感情移入できるところが心地よい作品かもしれません。
私はモテ期がなかったから、そういうシミュレーションのネタは脳内にたくさんありますよ(笑)
それにしても、タイトルの『明暗』というのは、何についての明暗が分かれたのでしょうね。
明暗 (まんがで読破) - 夏目 漱石, バラエティ・アートワークス
明は清子、暗はお延
by 赤面症 (2023-12-13 01:13)
「突然去っていった恋人と温泉宿で再会」
正に同じ経験をしました。しかも彼女は子連れでした。
by お散歩爺 (2023-12-13 06:12)
うわぁ、とんでも無いところで終わっちまってるんだなぁ。
二次創作で色んな解釈見てみたい(^○^)
by pn (2023-12-13 08:50)
こんにちは!
12月も半分過ぎようとしています。
気ぜわしいです (*-*)!
by Take-Zee (2023-12-13 11:26)
確かに偶然にも意味ありげな所で終わってますね~。
この後どのような展開になるのか、そして漱石はこの後どのようにしたかったのか大変気になるところですが、「明暗」という題目も非常に気になる題目ですね。
by drumusuko (2023-12-13 17:06)
中学の頃の人を思うことあります
by コーヒーカップ (2023-12-13 19:46)
読みながら、あれ記憶と違うなと思いました。
「虞美人草」と勘違いしていました。
「明暗」は読んでいません。
誰かが続きを書いたと読んだ気がするのですが・・・
by そらへい (2023-12-13 20:10)
「痔」って結構な大病なんですよね。入院・手術もけっこう
かかりますし・・・。きっとこの後、話は暗転する予定
だったのかも。
by tai-yama (2023-12-13 22:54)
>誰かが続きを書いたと読んだ気がするのですが・・・
何人かの作家が、文体を真似して「続き」に挑戦していますが、しょせん「こうではなかろうか」という想像に過ぎません。
by いっぷく (2023-12-13 23:03)