よみがえった改心(とりもどされた改心)於『オー・ヘンリー短編集』 [文学]
よみがえった改心(とりもどされた改心)は、オー・ヘンリーの代表作のひとつとして、テレビドラマや映画に翻案されています。平穏な暮らしを得て足を洗おうとした腕利きの金庫破りと、「最後の仕事」を目撃した老刑事の葛藤を描いています。
オー・ヘンリーといえば、短編小説の作家として有名ですが、とくに
賢者の贈り物
警官と讃美歌
よみがえった改心
などは名作といわれています。
私が印象深いのは、酒井和歌子さんのナレーションで『賢者の贈り物』が演じられたシャディのCMです。
シャディ CM【酒井和歌子】1994 https://t.co/jjJPBMEX6y @YouTubeより
— 倉持 薫 (@l4ikwgs8) October 9, 2023
それは、このOGPをご覧いただくとして、今日は、『よみがえった改心』をご紹介します。
オー・ヘンリーの短編集は何冊もあり、本作はその多くに収録されていますが、翻訳者によっては『とりもどされた改心』『罪と覚悟』などと題している場合もあります。
今回ご紹介する短編集は『とりもどされた改心』です。
登場人物は、
ジミー・ヴァレンタイン:腕利きの金庫破り。ラルフ・スペンサーと名乗る。
アナベル:銀行主の娘
ベン・プライス:刑事
メイ:アナベルの姉の長女
アガサ:アナベルの姉の次女
アダムス:アナベルの父
の、6人です。
『オー・ヘンリー短編集』は2023年10月10日現在、kindleunlimitedの読み放題リストに含まれています。
少女の命を救った金庫破りを見逃した老刑事
金庫破りジミー・ヴァレンタインが、釈放されるところから物語は始まります。
「おまえは根っからの悪党じゃあない。金庫破りなぞもうやめて、まともな暮らしをするんだ」と、赦免状を手渡しながら言い聞かせる看守。
「旦那、あっしはこれまでに金庫なんか破ったこたありませんよ」と、とぼけるジミー・ヴァレンタイン。
いくらやり合っても、この調子なので、最後は看守のほうが説得をあきらめます。
1週間後、さっそく、鮮やかな手口の金庫破りが、インディアナ州のリッチモンドでありました。
犯人の手がかりはなにひとつありませんでしたが、犯行には特徴がありました。
錠の取っ手を、「雨の日に大根を引っこ抜くように、すっぽり」抜き取ること。
そしてたとえわずかでも紙幣は根こそぎ奪い、その一方でどんなに値打ちがあっても有価証券類、および硬貨には全く手がつけられないこと。
そして、高跳び、素早い逃走、共犯者はいない、上流社会を狙うこと……
ベン・プライス刑事は、その特徴から、今回もジミー・ヴァレンタインの手口であると推理します。
「高跳び」をしたジミー・ヴァレンタインは、次の仕事場・アーカンソー州の田舎町エルモアの銀行で、銀行主の娘アナベルと出会い、互いに恋に落ちます。
カタギのふりをするため、ラルフ・スペンサーと名乗りエルモアで靴商を開業。
すると、彼は商才もあったのか、店は繁盛し、町の人々の尊敬も得、アナベルの父アダムスにも気に入られ、アナベルとは婚約も成立。
もう、金庫破りをする必要がなくなりました。
そこで、金庫破りの道具を「なつかしき相棒」に譲って足を洗おうとします。
しかし、そうは問屋が卸さないとばかり、刑事のベン・プライスがエルモアへやってきて、ジミー・ヴァレンタインを見張ります。
「銀行家の娘と結婚するんだって?さあ、それはどうかな?」
そんなとき、銀行で、たまたま一緒にいたアナベルの姉の長女・メイが、次女のアガサ(アナベルの姪)を子供同士のふざけあいで、うっかり新しい金庫に閉じ込めてしました。
「このドアは開くはずがない。組み合わせ錠もセットしていなかった」と、絶望的に呻く銀行主のアダムス。
辺りはパニックに陥り、アナベルが思わず「ラルフ……『やってみてちょうだい』」と、何か試みることを求めます。
ジミーにとって、金庫を開けることは可能ですが、開けてしまったら自分が金庫破りであることがバレてしまいます。
しかし、人命第一と考えたジミーは、ベンもいる前で金庫を開けて、手際よくアガサを救出しました。
辺りは歓喜の渦に包まれる中、ジミー・ヴァレンタインは、ベン・プライス刑事のもとに近づき、「とうとう嗅ぎつけたな。じゃあ、行くとするか」
というと老刑事は、「なにか勘違いしているようですな、スペンサーさん。わたしがあなたに見覚えがあるなどとは思わんでください」と、踵を返して去っていきました。
それ以前の犯行について、引き続き捜査されたかどうかは定かではありません。
定年間際の「鬼刑事」と「義賊」でドラマ化
本作は、短編のため、エピソードを加えてテレビドラマ化や映画化されています。
私がもっとも印象に残っているのが、以前も書きましたが、老刑事が初代『水戸黄門』の東野英治郎、金庫破りが石立鉄男でキャスティングされ、『土曜ワイド劇場』(テレビ朝日)の枠内で放送された『最後の賭け~老刑事と金庫破り』(1977年10月08日、大映・俳優座映画放送/ANB)です。
自分は、どうしてもこのオープニングが印象に残ってます。幼少期、音楽に結構ビビった記憶が。(年代バレ)#土曜ワイド劇場 pic.twitter.com/Sq7m4jwCx8
— ひろっち (@negative_hiro) April 6, 2020
エピソードは、石立鉄男の金庫破りの理由が「義賊」であり、本人は1円も手にしていないこと。
東野英治郎が鬼刑事として、自らの人間性も「鬼」に徹したため、家庭が壊れ、娘(水沢アキ)になじられていたこと。
その東野英治郎には、定年が迫っていたこと。
石立鉄男には夫人(佐藤オリエ)がいて、「もうアブナイことはやめてちょうだい」と言われていたこと、などです。
心臓の弱い子どもが金庫に閉じ込められるアクシデントが発生。
老刑事の定年はいよいよ数時間後です。
「奴はきっと来る」
この時点では逮捕する気満々です。
妻の佐藤オリエは止めましたが、石立鉄男は来ました。
時々逡巡しながらも、金庫を開けて子どもを救い出します。
そして、両手を差し出し“お縄”を頂戴しようとしますが、東野英治郎は佐藤オリエを見て水沢アキの罵倒を思い出し、「何のまねだ」と言って立ち去っていきます。
原作をこれほどまでに、見事に脚色したドラマはないと思いました。
考えてみると短編集の中のひとつの作品ですから、比較的シンプルなストーリーです。
それを90分で展開したことで、老刑事と金庫破りのそれぞれの背景が丁寧に描かれて、良いドラマになりました。
その他、漫画『おそ松くん』でも、イヤミ刑事とチビ太の金庫破りが描かれています。
「チビ太の金庫やぶり」は、赤塚不二夫が最も気に入っていた作品だとか。愛読していたOヘンリーの「よみがえった改心」がベース。名優イヤミ。チビ太を慕ういじらしいハタ坊。キャラも絵も超一級品。バカボンは仏語の放浪者から命名したと語っていた。ギャグの裏に常に哲学的なものを感じる巨匠だ。 pic.twitter.com/k5Mp6d4fd9
— K Naka (@naka753) February 13, 2020
珠玉の名作、短編ですから時間はかかりません。
未読の方は、1度読まれてみませんか。
以上、よみがえった改心(とりもどされた改心)は、オー・ヘンリーの代表作のひとつとして、テレビドラマや映画に翻案されています。でした。
O・ヘンリー短編集1 - オー・ヘンリー, 大久保博
それ以前の犯行について、引き続き捜査されたかどうかは定かではありません。
そこが問題ですねw
by 赤面症 (2023-10-13 01:12)
>そこが問題ですねw
まあ手口が「同じ」というのをどう見るか。「状況証拠」のひとつだし、裁判官に「同じ」と思わせることはできるのか。たんなる模倣犯でジミー本人とは限らないと思われたらそれっきりだし。
指紋があるかとか、監視カメラに本人とわかる証拠が映っているかとかがないと起訴まで大変かな……とかいうマジレスは、いーっさい不要です(笑)文芸作品として楽しみましょう。
by いっぷく (2023-10-13 03:16)
どっかで聞いた内容だと思ったらおそ松くんで見たやつか(^_^;)
by pn (2023-10-13 06:26)
いっぷくさん、おはようございます!
45kmを1時間30分について
横須賀から平塚までは国道134号線。いわゆる
湘南道路で逗子の渚橋、鎌倉由比ヶ浜・行合橋
そして江ノ島と渋滞の名所の連続なんですよ (*-*)!
by Take-Zee (2023-10-13 07:07)
とてもいい話ですね~。短編にもかかわらず、感動する話を紹介いただき、ありがとうございました^^。
by drumusuko (2023-10-13 10:47)
登場人物が少ないので
演劇でやっても面白そうですね。
ちょっと今時のテーマではありませんが。
by そらへい (2023-10-13 20:23)