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師匠、御乱心! (三遊亭円丈著、小学館文庫) [芸能]

師匠、御乱心! (三遊亭円丈著、小学館文庫)

師匠、御乱心! (三遊亭円丈著、小学館文庫) は、かつて三遊亭圓生一門による落語協会からの分裂騒動を当事者の一人として回顧した書籍です、師匠への愛憎、テレビと違う兄弟子たちの「素顔」、亭号の三遊亭に対する著者の思いなどが綴られています。



三遊亭圓丈(さんゆうてい えんじょう、1944年12月10日 - 2021年11月30日)をご存知ですか。

新作落語家として活躍。

また社会評論的には、反自民でしたが、特定の政治勢力の代弁者というわけではなく、自称「新左翼」でした。


「三遊亭」というのは、三遊亭圓生一門ということ。

6代目三遊亭圓生以下、5代目三遊亭円楽(『笑点』の先々代司会者)、6代目三遊亭圓窓などの弟子がいる一門です。

1978年、その一門が落語協会を脱退し、世間を騒がせました。

その後、師匠の三遊亭圓生は亡くなり、残った弟子たちは、落語協会に復帰した人と、「初志貫徹」した人に分裂。

後者の人々は、五代目円楽一門会として、現在も細々活動しています。

しかし、彼らは現在も、鈴本演芸場・新宿末廣亭・浅草演芸ホール・池袋演芸場といった、落語の定席興行に出演できません。

先日亡くなった6代目三遊亭円楽は、『笑点』出演によって知名度こそありますが、実は落語家としては、こうしてオフィシャルな寄席興行には、ついに出演できなかったのです。

本書の著者は、落語協会に復帰しました。


五代目円楽一門会とたもとを分かったということは、当然、そこには問題があったわけです。

本書には、当時の真相が書かれており、落語ファンにとっては貴重な証言です。

真打ちの昇進方法をめぐり対立


今から45年前になります。

落語協会において、当時会長だった5代目柳家小さんら執行部が、若手の真打大量昇進の方針を決定。

それに対して、前会長で最高顧問の6代目三遊亭圓生が、これに反発する形で一門ごと落語協会を脱退しました。

背景には、2人の「真打ち」に対する考え方の違いがありました。

柳家小さん師匠は、落語家の真打昇進はゴールではなく入り口で、そこからの頑張りが大切という考え方で、まずは真打ちにしてから、あとは本人次第という方針でした。


つまり、真打ち自体のハードルを高くして挫折させてしまったら、本末転倒というわけです。

一方、6代目三遊亭圓生は、真打ち自体が芸のひとつの到達点と考えました。


ですから、大量にトコロテン式に真打ちにすることは我慢ならなかったようです。

落語家としての6代目三遊亭圓生は、20世紀を代表する名人落語家3人のうちの1人といわれています。

3人を生まれた順に列挙すると、5代目古今亭志ん生、8代目桂文楽、6代目三遊亭圓生です。

しかし、その人柄については評価が分かれるようで、6代目三遊亭圓生の他の落語家らとの人間関係は、必ずしも良いものではなかったといわれています。

一方、5代目柳家小さんの性格は非常に穏やかなもので、落語協会会長時代は理事との合議制をとりました。

当初は、若手の中でもっとも注目されていた、古今亭志ん朝(1938年3月10日~2001年10月1日)も執行部の「大量昇進」に反対。立川談志は採決を棄権、つまり事実上の反対表明をしました。



ほかにも、先代林家三平、橘家圓蔵(月の家円鏡)など、メディアの売れっ子たちも反対に回ったために、質的には協会が真っ二つに分裂、というより外部からは、反対派の方が勢いがあるのではないかとすら思えました。



ところが、先程書いたように、6代目三遊亭圓生は、落語はうまいけれど人間関係の築き方がうまくありません。

志を支える人がいればよかったのですが、本書によると、師匠をそそのかしたのが、自分だけが目立ちたい5代目三遊亭円楽だったために、このうねりは大きくならず、次第に同調者も協会側に戻ってしまいました。

しかも、一門の中でも不協和音が発生。

5代目三遊亭円楽は、旗色が悪くなると、師匠のハシゴを外すような形になりました。

円生は、自分が頑張らねばというプレッシャーが芸にはプラスに働き、芸には一段と凄みが増したものの、過酷なスケジュールから心不全を起こして亡くなってしまいます。

結局、5代目三遊亭円楽一門以外の人たちは、著者を含めて落語協会に戻りました。

5代目円楽が最大の悪役というが……


円生の落語協会脱退には、真打ち問題がありますが、脱退の背中を押したのは、円生が唯一信用していた円楽であると書かれており、本書では5代目円楽が最大の悪役として描かれています。

ただ、かばうわけではありませんが、5代目円楽は落語協会に復帰せず、私財を投げ打ち、1億4千万円の借金(総額6億円以上)をして、1985年4月に寄席若竹をオープン(現在は閉鎖)しているわけですから、とにかく筋は通したのではないでしょうか。


それはともかくとして、本書は兄弟弟子に対する言動や著者の評価は事細かに書かれていて、大変興味深い展開になっています。

いずれにしても、著者はこれで歴史と伝統の三遊亭は崩壊してしまったと嘆き、自分が一番守りたかったのはその亭号であることを告白しています。

落語家もいろいろあるんだなあということがわかる一冊です。

師匠、御乱心! (小学館文庫) - 三遊亭円丈
師匠、御乱心! (小学館文庫) - 三遊亭円丈
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赤面症

若竹ありましたね。東陽町でしたっけ
by 赤面症 (2023-08-02 01:09) 

萌田かずきち

掛布さんの金鳥蚊取りマットのCM、懐かしいですね。
この頃ファンになりました(*´ω`*)。
by 萌田かずきち (2023-08-02 03:35) 

Take-Zee

おはようございます!
懐かしいなあ~!
この顔ぶれ・・・(^-^)!!

by Take-Zee (2023-08-02 08:00) 

pn

子供の頃笑点で若竹ネタ聞いてたけど分裂話は知らなかったからやくやるよなーくらいにしか思ってなかった。
一つしかないグループが幅を利かすのは害も出るから落語協会ももっと増えてもいい気もします。
by pn (2023-08-02 08:43) 

よいこ

懐かしい写真がいろいろでした。
芸と人間性は別物なので、人とうまくしゃべれないから、芸を通してしゃべっていた本物の落語家の師匠が利用されたようで悔しかったから書いた本ですかねぇ
by よいこ (2023-08-02 08:56) 

コーヒーカップ

両親が観ていた笑点などに出た人たち見覚え有ります。
by コーヒーカップ (2023-08-02 11:02) 

青い森のヨッチン

こうした落語業界の内情も実は落語を楽しむ一つのスパイスですね
談志一門が脱退した際には一人だけ協会に残した弟子の名が有名なロシアのスパイの名前だったのですぐに協会から追い出されたというのも笑い話として伝わっています。
by 青い森のヨッチン (2023-08-02 11:40) 

そらへい

相撲協会の貴の乱とはまた少し違うようですね。
by そらへい (2023-08-02 20:36) 

tai-yama

サバッシュは今のゲームからしたらくそ難しいレベル(笑)。
笑点に出ていた人も反対派真打ちだったのかな?
by tai-yama (2023-08-02 23:35) 

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