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Y氏の隣人完全版(吉田ひろゆき著、電書バト)1話完結の短編オムニバス作品 [文学]

Y氏の隣人完全版(吉田ひろゆき著、電書バト)1話完結の短編オムニバス作品

Y氏の隣人完全版(吉田ひろゆき著、電書バト)は、いじめられっ子が不思議な道具を与えられる1話完結の短編オムニバス作品。主人公が幸福になったり不幸になったりすることで、世の中の不条理や、生きることの難しさなどを描いています。

『Y氏の隣人』は、吉田ひろゆきさんが、1988年~2002年まで『週刊ヤングジャンプ』(集英社)に連載。

40代以上の方、覚えておられますか。

単行本は全19巻。文庫版全8巻(傑作選)も刊行されました。



2020年、著者監修完全版として復活!!

『Y氏の隣人』は2023年8月3日現在、全20巻がAmazonUnlimitedの読み放題リストに含まれています。

ストーリーは、1話完結の短編オムニバス作品です。

世の悩める者の元に、幸福の伝道師・ザビエール、トヤマ、阿多福化粧品といった妙な人が訪れ、不思議な道具を無料で与えて悩みを解消してくれます。

ところが、時としてそれは幸福ではなく、不幸な結果を招く事もあります。

と、聞くと、てっきり『ドラえもん』ののび太のように、ドラえもんから与えられた便利ツールを、調子に乗って使いすぎてしまうストーリーを想像するかもしれません。

本作は、それだけではないのです。

ときには、欲望に負けた人間の悲劇を描き、ときには欲望のない人間の無価値を嘆き、さらに世の中の生存競争から外れた人間の脱落をも無情に描いています。

たとえば、第1話は、その3つ目にあたります。

悲しいけどこれもハッピーエンドなのか



第1話の「幸福の木」を見ていきます。

主人公は「榎田くん」。

彼を、級友の「小柳くん」の視点で描いています。

榎田くんは青森から上京して、アパートを借りながら進学校に通っています。

しかし、気が弱くて、級友に金を貸してくれと言われると、返ってこないとわかっていても断れません。

その榎田くんが、1週間も学校を休んでいるので、友人である「ボク(小柳くん)」は榎田くんのアパートを訪ねます。

榎田くんの部屋には、たくさんの鉢植えがあります。

「外に出る気がしないんだ…。人に会うのが怖くって…」と榎田くん。

よく聞いてみると、新興宗教の人からツボを買わされ、英会話の教材セットをキャッチセールスに捕まり購入。

驚く小柳くん。

「君みたいなことやっていたら、それこそ尻の毛残らず抜かれちまうぜ!」

しかし、小さい頃からいじめられっ子だった榎田くんは、イジメっ子たちから身を守る処世術として、いつも言いなりになっていることが習性になってしまったというのです。

「自分でもなさけなくなってくるよ」と、榎田くん。

1週間、こもっている間は、鉢植えと会話をしていたそうです。

そんなとき、小柳くんは、クラスの原さんの写真を見つけます。

「好きなのかい?」と小柳くん。

「あ、でも憧れてるだけだから」と否定はしない榎田くん。

小柳くんは、榎田くんのために、原さんと2人きりで話せる機会をセッティングしました。

そして、2人はデートの約束をするところまでこぎつけたのですが、ある日、学校の黒板には、2人の関係を茶化す落書きが。

「榎田くん、殴れよ」

小柳くんは、落書きの犯人を指して言いますが、榎田くんは殴れません。

そのとき、犯人の頬をひっぱたいたのは、原さんでした。

榎田くんは、別の意味でショックを受けました。

本当なら、自分が怒らなければならないのに、自分は何もできなかった。

好きな娘があんなにひどい目にあって何もできないなんて……。

榎田くんは小柳くんに言います。

「最近思うんだ。植物になれたらなあって。こいつらは陽の光と水さえあれば生きていけるんだ。ボクには人間社会はちょっとしんどいや」

小柳くんは、気を取り直すように、山歩きに誘います。

そして、当日アパートに迎えに行くと、なんと布団には1メートルぐらいの木が。

枕元には書き置きがあり、その木を原さん宅の庭に植えておいてほしいと。

次の日の朝、原さんが雨戸を開けると、木はいくつも花を咲かせていました。

「よかったね、榎田くん」と言いながら、ちょっと泣けて来るようなエンディングでした。

宝くじのような人生のはかなさ


榎田くんのような弱者を、幸せにしてくれるのかと思いきや、作者は無情にも「木」にしてしまいました。

本作は、悪いことをするから不幸になる、という勧善懲悪でもありますが、さりとて悪いことをしなさすぎる消極的な生き方も支持していません。

それも、人生が破綻したりする未来を示唆するような、酷な結末も少なくありません。

人間は、どう生きても幸福を掴むのは難しい、と言わんばかりなのです。

仏教で言う、「一切皆苦」と「中道」の精神を訴えてもいるようです。

ただ、数えてはいませんが、全20巻のうち、何話かはハッピーエンドになります。

考えてみると、人生なんてそんなものかもしれません。

どうもがいても、うまくイカない。

でも、たまにはうまくいく人もいる。

本作には、そんな「宝くじのような人生の不条理さやはかなさ」を感じるのかもしれません。

かつてファンだった方も、未見の方も、読み放題リストに入っているうちに、いかがですか。

Y氏の隣人 完全版 1巻 - 吉田 ひろゆき
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Y氏の隣人 完全版 1巻【電子書籍】[ 吉田ひろゆき ] - 楽天Kobo電子書籍ストア
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赤面症

初めて気がついた。もしかしてY氏って作者のこと?
by 赤面症 (2023-08-03 01:05) 

pn

絵が嫌いだったからすっ飛ばしてたなー、こんな内容だったのか(^_^;)
ハッピーエンドが少ないってーのがなんかいいな。
by pn (2023-08-03 06:17) 

starwars2015

笑うセールスマンや銭天堂に似ているようで、すっとシュールな感じですね。
ちょっと怖そうで夏にピッタリかも。
by starwars2015 (2023-08-03 08:58) 

コーヒーカップ

人生破綻はキツイよ
経験してる自分から見るとまだまだ。
by コーヒーカップ (2023-08-03 09:15) 

tai-yama

原さんの気(木)になる存在になったと。
大木は実は落雷に弱いと言う・・・・。
by tai-yama (2023-08-03 22:50) 

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