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お墓、どうしますか? 変容する家族のあり方(米澤結、ディスカヴァー・トゥエンティワン) [仏教]

お墓、どうしますか? 変容する家族のあり方(米澤結、ディスカヴァー・トゥエンティワン)

『お墓、どうしますか? 変容する家族のあり方』は、家族と墓の在り方が、江戸時代から現代までどう変わったか、をまとめています。著者の米澤結さんが、大学院時代の研究テーマとして調べたデータがたくさん含まれた実証的書籍です。

今年も、お盆がやってきました。

2023年は、新盆が7月13日(木)~16日(日)、旧盆が8月13日(日)~16日(水)となっています。

新盆は、東京を中心とした一部の地域のみで、大多数の地域は旧盆らしいですね。

「お盆」の由来


お盆というのは、故人や先祖の霊を迎えて供養する、1年に1度の日本独自の行事ということになっていますが、「日本独自」でわかるように、仏教はオフィシャルには霊魂を認めていません。

また、日本で一番門徒(檀家)が多い浄土真宗は、お盆だからといって特別な行事はありません。

原典は、盂蘭盆会(うらぼんえ)経というお経に書かれているといわれますが、なにが書いてあるか。

お釈迦様の弟子のひとりである目連尊者が、ある日地獄に堕ちて逆さ吊りの苦しみを受けている自分の母親を見付けました。お釈迦様に「どうすれば、母を救えますか?」と尋ねると、修行の終わった僧侶を招き、供物を捧げて供養すれば、その功徳で母親が救われるだろうと諭されて、その通りにすると、母親は極楽浄土を遂げたというのです。

これが、お盆の始まりだというのですが、まあ作り話でしょう。

お釈迦様は、在家信者ならともかく、修行している僧侶に対しては、妻子も親も捨てて修行に励めと言っていたわけだから、これは明らかに偽経です。

ただ、日本に伝わった大乗仏教は、中国の儒教と、日本の家制度の影響を強く受けているので、先祖供養だの親孝行だのを、ことさら強調したのです。

宗教的行事というより、イデオロギー的な行事のように思えます。

その一環として、墓や位牌までが、霊魂が宿っているかのように述べる向きもあるのですが、とくに墓については、一族の象徴としての意味合いが明治時代に強まりました、



『お墓、どうしますか? 変容する家族のあり方』は、米澤結さんが、ディスカヴァー・トゥエンティワンから上梓した書籍です。

「家」を意識させられたのは明治時代から


本書によると、江戸時代以前は、「家族」という意識は薄かったそうです。

絆はイエやムラ、親族などの共同体が提供するものだったとか。

商家は、奉公人を含めた大家族でしたが、跡継ぎは、長男ではなく、奉公人から抜擢するなど婿養子が基本だったそうです。

血縁よりも、事業継承が大事だったということです。

一方、華族、士族などは、のちの家制度につながる父系長男主義だったそうです。

明治時代になると、家父長と長男・長子への相続が、すべての国民に決められたそうです。

つまり、華族や士族だけだった「家制度」が、いよいよ国民全員を対象にしたそうです。

ですから、「ナニナニ家」という血統による一族の考え方は、明治時代に刷り込まれた、歴史の浅いものなのです。

みなさん、いいませんか。「鈴木家の跡取り」とか「佐藤の名前を誰が継ぐか」とかさ。

それ、明治時代に刷り込まれたイデオロギーなんですよ。

ドラマ『渡る世間は鬼ばかり』で、藤岡琢也と山岡久乃の一介のサラリーマンの家で、「娘の中で誰が岡倉の名前を継ぐ」とかなんとか毎回揉めてたから、馬鹿臭くて失笑しながら見ていました。


長男だからどうした、ナニナニ家は誰が守る、という話が、5人姉妹大なり小なりどこでも延々と続いていました。家制度の考え方を引きずる限り、長男もしくは末娘にとばっちりが行くということが、よくわかるドラマです。

男女差別だけでなく、生まれた順で差別や役割分担が宿命付けられるなんて、トンデモない話です。

そんな差をつけるから、相続や介護で揉める話が、今も後を絶たないじゃないですか。

戦後は民法が変わり、家制度から家族制度になったため、戸籍は三代続かない、夫婦と未婚の子弟だけでひとつの単位になりました。旧弊な家制度ではなく、こんにちの原則を忘れないでほしいです。

第2章では、家族のあり方が変わることで、墓も変わってきていることを紹介しています。

外国はどうか、という話もあります。

たとえば、日本と同じく火葬の割合が高いイギリスでは、散骨が主流だそうです。

ドイツでは葬儀のとき、火葬が始まると遺族は帰ってしまい、係員が遺骨を骨壷に納めて、公営墓地の納骨堂に持っていってくれるのだとか。

火葬で骨になるところは、あまり見たいものではありませんから、ドイツ方式が良いのかも知れません。

日本も、希望者にはこうしてくれないかな。

いずれにしても、墓の在り方は絶対的な正解はないのですから、いろいろあっていいというのが結論です。

誰でも事情や考え方がある


私は子供の頃、亡くなったら墓に入るのは当たり前。

墓もないのは、その人が生きた証が残らないし、墓は子孫が自分のルーツを意識する、一族の大切な象徴ではないかと思っていました。

しかし、おとなになったら、考えが変わりました。

先祖とは同じ墓に入りたくない、配偶者とは同じ墓に入りたくない、宗教が家族や先祖と変わったので同じ埋葬は望まない、子どもも配偶者もいないので墓を作っても墓守がいないから友人に散骨して欲しい等々、埋葬に対する心づもりは実に多様です。

いずれにしても、一族がひとつの墓に入るという、旧弊な家制度の考え方にとらわれる必要はないし、もうそういう時代ではないと思います。

だいたい、今や子孫は、先祖の墓の墓じまいに苦労しています。

少子化で核家族の現代、家制度の名残と思えるものは、いちいち迷惑なのです。

子孫がいらっしゃって、墓を守るというお考えの方を否定するわけではありませんよ。

でも将来的な墓守のめどがたたない一族は、すみやかに墓じまいできるような文化が、我が国で確立していただきたいものだと思います。

みなさんは、親や先祖の墓を、どうされていますか。

お墓、どうしますか? 変容する家族のあり方 (ディスカヴァー携書) - 米澤 結
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コメント 12

赤面症

ドイツ方式に一票
そして特別な希望がなければ、誰でも地域の公営共同墓地みたいなところに入れるようにしたらいいと思います
by 赤面症 (2023-07-15 01:11) 

よしあき・ギャラリー

何とかしなくては、と思っているうちに歳をとってしまいました。
本気で考えよう!
by よしあき・ギャラリー (2023-07-15 05:58) 

コーヒーカップ

家は父が次男だったのでお墓は自分の代からです。
姉が亡くなってるので本来姉が一番先に入ってるはずでしたが、寂しがるだろうと暫くお寺に預けてました。
自分は離婚し子供達は女房側に引き取られたので、お墓はどうするか分かりません。
誰も継承しなくても、盛岡市の墓地なので7年間管理料が払われなければ強制的に墓じまいになります。

by コーヒーカップ (2023-07-15 05:59) 

そら

私は散骨で良いけどな。と、思っています。一人っ子の上に婚姻予定もないのでw
散骨も大変なら、もうお任せで。
お墓に…。って概念は個人的にはないけど、お墓や儀式に対する妄執が緩やかに変化していけば良いと思っています。
by そら (2023-07-15 07:53) 

HOLDON

おそらくですが日本ほど宗教、宗派が多い国は無いでしょう。
身近な親族でも。
だから同じ墓に入りたく無い人も多いでしょう。
近くでも無縁仏になって放置されている墓も多々見られます。
いつの間にか「墓じまい」という言葉も聞かれるようになりました。
これからは永代供養が増えて家族はそれぞれ家にある仏壇などにに手を合わせる・・・
それでよいのでは、と最近思っております。
by HOLDON (2023-07-15 08:56) 

扶侶夢

子供の頃から染みついていた墓の概念。古希を迎えて変化が起こり、ようやく解放されました。
by 扶侶夢 (2023-07-15 10:15) 

pn

人の葬式には行かなきゃって気になるんだけど、いざ自分が死んだ時葬式いらないかなと思うのはわがままかなぁ(笑)
by pn (2023-07-15 11:31) 

Take-Zee

こんにちは!
家は30年ローンで買って継ぐ者なし、空き家に
お墓も同じくで墓じまい。
そろそろ、考えを変える時代になりました・・・(^-^)!

by Take-Zee (2023-07-15 14:18) 

tai-yama

父親が母の墓じまいの話をしていました・・・・
そのままにしておけば一緒に入れるのに(笑)。
by tai-yama (2023-07-15 18:02) 

そらへい

明治からという古い家父長制などは
田舎でも崩壊しつつあります。
ただ、神仏に根差した儀式や様式などが
そのはざまに取り残されて悲鳴を上げています。
by そらへい (2023-07-15 19:21) 

kmama

我が家は私たちの代で墓じまいをしなくてはいけません
元気なうちにそろそろ考えないと……
頭の痛い話です
by kmama (2023-07-15 21:55) 

よいこ

若い頃に当たり前と考えていたいろんなことが、最近よく日繰り返されていくので戸惑います。
お墓もしかり
by よいこ (2023-07-16 17:56) 

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