『巨人軍の巨人 馬場正平』(広尾晃著、イースト・プレス)を読みました。プロレスラーとしてのジャイアント馬場については、もうたくさんの書籍が上梓されていますが、本書はそれに比べてあまり語られることがなかった、「プロレス以前」の巨人症発症や巨人軍在籍時代について書かれた本です。
「脳下垂体腺腫」が発症した「空前絶後」な人生
ジャイアント馬場こと馬場正平が、あれだけ大きかった(209センチ)のは、いわゆる巨人症というホルモンの病気だったからです。
少年時代に発症した病気は脳下垂体腺腫といいます。
脳下垂体にできる原因不明の良性腫瘍で、ホルモンの過剰産生を起こしますが、遺伝性ではないことがわかっています。
15歳までに発症すると、身長が異常に伸びるほか、手足の先端が巨大化し、顔の形が変形するアクロ・ジャイガンティズム(下垂体性の巨人症)に。
成人になってから発病すると、身長は伸びませんが、手足の肥大化と、額や顎の形が変わるアクロメガリー(先端巨大症)になります。
アクロメガリーの発症率はきわめて小さく、年間100万人あたり5人。
40~50代に多いそうです。
15歳以下で発症して、アクロ・ジャイガンティズム(巨人症)になる人は2000万人に1人。
現代はアクロ・ジャイガンティズムの治療法は確立しています。
学校で頭一つ抜けて大きかったり特異な容貌だったりしたらすぐ検査をするし、成長ホルモンの病気であることがわかっているので、手術をためらう人もいないそうです。
ただし、馬場正平の発症時は、少なくとも一般にそこまで病気のことが明らかにはなっていませんでした。
巨人症を発症すると、左右の視野が欠け、適切な治療を受けないと糖尿病、高血圧、高脂血などの合併症が出て、心筋梗塞、脳血管障害、大腸がんなどを合併する可能性も高くなるといいます。
事実、馬場正平は若くして糖尿病の疑いがあり、惚れ惚れするような隆々とした肉体は、
原康史『劇録馬場と猪木1』(東京スポーツ)117ページより
30代であっという間に筋肉が落ち鶏ガラのようだなどと揶揄され、61歳で亡くなった死因は横行結腸がんでした。
しかし、巨人症を発症すると平均寿命は40代といわれ、馬場正平が61歳まで生きたのは、専門医ですら「信じられない」ことだそうです。
そして、巨人症は運動能力も影響を受け、最後は歩行や起き上がることさえ不可能になるとか。
本書では、こういう病気にかかること自体が確率的に「運命の子」であり、かつ巨人症でありながらも、アスリートとして亡くなる2ヶ月前までリングに立ち、経営者として発言し、人々の尊敬を勝ち得ていた「空前絶後」な人生を送った馬場正平は、「神に選ばれし子」と書かれています。
もっとも、もしかしたら、その61歳をさらに伸ばすことができた可能性はあります。
巨人2年目のシーズンオフに、腫瘍が大きくなって見えにくくなったために開頭除去手術を行い、奇跡的に野球に復帰しているのですが、その後も身長は伸び続け、つまりホルモン異常産生自体完治はしていませんでした。
ところが、医師からも定期的に検査を求められたにもかかわらず、馬場正平はそれを断ったそうです。
一般論ですが、直接の死因である腸のがんも、がんの中では比較的優しいものなので、早期発見をしていたらまた展開は変わっていたかもしれません。
きっと大変な手術で、もう病院と関わるのはゴメンだと思ったのかもしれませんが、惜しいことをしました。
早期発見。心がけましょう。
プロ野球の5年間
巨人症の話が長くなってしまったので、こちらは手短に。
馬場正平は、高校2年で硬式野球をはじめており、1年足らずで巨人にスカウトされています。
そのため、基礎的なトレーニングができておらず、また当時の1軍と2軍は派閥抗争があり、その関係で水原監督の覚えがよくなかった馬場正平は、順調に力をつけて3年目に2軍で7勝して1軍に上がったにもかかわらず、5年で整理されました。
早すぎるスカウトは一見不運に見えますが、当時だって天下の巨人に入れるチャンスはそうないし、しかもプロ野球生活で、自分に集客力があることを実感したことで、その後のプロレスラーとしての成功につながっていくので、意義のある5年間だったと言えるでしょう。
積極的に社会と関わろうとする気持ちが大切
本書では、馬場正平の「プロレス以前」の人生について、一貫して述べていることがあります。
巨人症発症による苦悩や、巨人時代の不遇などから、屈託はないわけではなかったが、決して本人は絶望せず、
積極的に社会と関わろうとしていた ということです。
たしかに、本書は、故郷の新潟時代の写真も掲載されていますが、楽しそうにしているものばかりです。
巨人症になると、うつや引きこもりになりがちだそうですが、ジャイアンツを自由契約になっても、週刊文春の取材に応じるなど、決して心を閉ざした生き方はしていませんでした。
だからこそ、「空前絶後」な人生の成功をおさめることができたのでしょう。
不遇、不幸、他人からの裏切りなどを経験すると、何も信じられなくなって、社会に背を向けてしまいたくなる気持ちはわからなくもありません。
2000万人に1人の難病なんてなったら、私はもう人生投げ出したくなるでしょうね。
が、先日ご紹介した、69歳の統合失調症の女性も心がけているように
⇒
「料理したい、恋したいー69歳の新生活」問われている社会的入院
心に壁を作らずに、人生辛いこともあるさ、でも生きとし生けるものは明日を前向きに頑張ろう、という気持ちが大切なのだなと思いました。
プロレスファンも、悩み事や障碍・難病のある方も、「
あのジャイアント馬場は、とてつもなく大変なものを抱えてたのに明るく生きて大成功したんだよ」ということがわかるので、ぜひ一度ご覧頂きたい書籍です。

巨人軍の巨人 馬場正平
- 作者: 広尾晃
- 出版社/メーカー: イースト・プレス
- 発売日: 2015/11/15
- メディア: 単行本
背が高いのはいいことだ、みたいな考えが発見を遅らせるかもしれないですね。
本人に責任はないけど、身長は高すぎても低すぎても、健康や寿命に影響があるんだそうです。
by skeptics (2019-12-14 16:30)
馬場正平さんがプロレスラーになる前は
野球のジァイアンツに居たことは知ってます。
でもご病気のことは知りませんでした。
by 旅爺さん (2019-12-14 17:41)
こんにちは。
ジャイアント馬場さん、何となく「ホルモンの病気」とは感じていました。
巨人症・病気を業界の方は知っていたと思いますが・・・
レスラーとして微塵も感じさせない印象です。
自立して生き抜く「人間力」を感じます。
何より?悪い噂を聞かないですね!?(=^・ェ・^=)
by Boss365 (2019-12-14 18:36)
反対に、小人症の人が「小人プロレス」をしていた時代がありましたね。
by ヨッシーパパ (2019-12-14 18:37)
>屈託はないわけではなかったが、決して本人は絶望せず、積極的に社会と関わろうとしていた
なかなか出来ないことですが、私もそうありたいと思っています。
by そらへい (2019-12-14 21:25)
大手術しても完治しなかった時点で医療不信になるのは仕方ない気もする。
by pn (2019-12-14 22:24)
早期発見、本当に大事ですね。
by mau (2019-12-14 23:14)
生まれつき恵まれた体型だったのかと思っていたけれど、巨人症という病気だったんですね。
その中でも、常に前向きの姿勢だったのは尊敬します。
by まゆりん (2019-12-15 02:09)
巨人症という病気は知りませんでした。その中でも長寿だったんですね。
継続的に治療して欲しかったですが、そればかりは本人の意思ですから仕方がない事ですね。
by kou (2019-12-15 07:33)
「馬場さん、大きいなあ」と言う周囲の意図が
賛辞だったとしても、ご本人は複雑な
心境だったのかもしれませんね。
by 犬眉母 (2019-12-15 19:48)