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鬼熊事件、マスコミが同情して住民たちが匿った連続殺人犯の話 [社会]

鬼熊事件、マスコミが同情して住民たちが匿った連続殺人犯の話

鬼熊事件てご存知ですか。『殺人犯の正体』(鍋島雅治 (著), 岩田和久 (著)、大洋図書)という、殺人事件9件をマンガにまとめた本の中に収録されています。1926年、荷馬車引きの岩淵熊次郎が、千葉県香取で復讐から4人を殺害したものの、村の人々は彼を捕らえさせまいと匿い続けたという特異な事件として知られています。



『殺人犯の正体』(鍋島雅治 (著), 岩田和久 (著)、大洋図書)は、実在の事件をまとめています。

一家支配解体殺人事件、愛犬家連続殺人事件、池田小児童殺傷事件、ロボトミー殺人事件、尊属殺人事件、レッサーパンダ通り魔事件、宗教殺人事件、ホームレス襲撃事件、そして鬼熊事件。

どれも、なぜそのような犯罪に走ったのかを考えるためのよすがになるものですが、実際にあった殺人事件ですから、絵柄そのものは全体的に控えめであるものの、やはり凄惨さを感じます。

ただ、その中で唯一、鬼熊事件だけが、嘘のような本当のエピソードによっていささかユーモラスにストーリーが進んでいます。

鬼熊事件のあらすじ



荷馬車引き(今で言う運送業)の岩淵熊次郎は、大酒飲みで気が荒いものの、高齢者や病人、女手しかない所帯など困っている人を見ると放っておけないような性格で、いつも弱い者の味方であることから、村人たちから好感を持たれていました。

ただひとつ、欠点は女性に見境がないこと、といわれていました。

妻とは律儀に5人の子をなしていますが、妻だけでは物足りず、いろいろなところで、今で言う愛人を作って不倫も盛んだったのです。

私が見るところ、鬼熊にはもうひとつ、欠点というべきか、性善説で動いては煮え湯を飲まされる気の毒なところがありました。

旅館ではたらくおはなという女性が、借金のカタに働かされていることを知った鬼熊は、自分の商売道具の馬を売り払って自由の身にさせ、知人に預かってもらうことにしました。

ところが、知人からはあわせてもらえず、おはなは夫のもとに帰ってしまいます。

しかも、借金という話自体が嘘だったのです。

まんがでは、知人がおはまと通じて、鬼熊が激昂したシーンがあります。

鬼熊は、いったんは「金輪際女にゃ惚れぬ」と誓ったものの、今度は小料理屋(漫画では小間物屋)のおけいを見かけて、またしても惚れてしまいます。

しかし、おけいは村の人々の評判が悪く、「熊さんは、あの女にだまされている。熊さん、あの女だけはやめたほうがいい」と忠告されている“札付き”でした。

鬼熊は、おけいにも随分貢いだようですが、恋人がいたため、またもや道化に。

おはな、おけいと続けざまにフラレて、鬼熊は復讐の鬼と化しました。

おけいを殴殺すると、おはなの関係者や駐在など、2人を殺し、4人に怪我を負わせ、1軒に火をつけて逃亡。

千葉県下、1000名以上の警察官と、6000名以上の消防団・青年団が動員され、未曾有の山狩りが行われたそうです。

鬼熊は、自分に煮え湯を飲ませたやつ全員に恨みを晴らすまでは捕まりたくないと逃亡。

マスコミは鬼熊に同情的に報じました。

普段世話になっていた村人たちも逃亡を手伝ったため、逃走劇は40日を超えています。。

逃げ切れないと思った鬼熊は、新聞記者を呼んで自殺を宣言。

しかし、なかなか死ねず、すると毒入り最中が村人から差し入れられ、鬼熊はそれを食して“無事”自殺を遂げました。

匿った上に“介錯”まで関わった人々は、後に裁判にかけられますが、すべて執行猶予か無罪で済んだそうです。

鬼熊事件が掲載されている『殺人犯の正体』は、Amazon Unlimited読み放題でも読むことができます。


仇討ちを容認する文化が映画やドラマに?


映画ファンならピンとくると思いますが、鬼熊であることは明言していなくても、明らかにモデルとしていると思われる作品があります。

『馬鹿まるだし』(1964年、松竹)に始まる、山田洋次監督、ハナ肇主演の馬鹿シリーズです。

『馬鹿まるだし』ハナ肇と渥美清の関係、山田洋次監督の“毒”

『馬鹿まるだし』の『馬鹿』は、損得や他人の評価などを計算せずに突っ走る直情的な生き方をそう呼んでおり、鬼熊ぴったりです。

松竹の喜劇映画ですから、人様に手はかけませんでしたが、たとえば、『馬鹿が戦車でやって来る』(1964年、松竹)では、地主に土地を巻き上げられたことをきっかけにハナ肇が怒り心頭に発し、旧陸軍のタンクを走らせ、村中の家屋を壊してしまうシーンがあります。

ほかにも、『鬼熊狂恋の歌』という演歌や、『馬車引き熊公』という映画など、鬼熊がモデルと明らかな作品も登場。

比較的最近のテレビドラマでは、2時間ドラマの火曜サスペンス劇場において、『下弦の月~鬼熊殺人事件~』(1990年)というタイトルでテレビドラマ化されました。

事件の加害者が、後世にもこれほどこだわりをもたれるというのは、どうしてでしょうね。

一昨日の日野OLは、何の罪もない子どもを焼き殺しており、被害者扱いは大いに違和感があります。

炎は私の叫び~日野OL不倫相手愛児放火焼殺事件~、関係者その後

が、鬼熊はあくまで自分を騙した当事者と関係者だけが対象だったので、その点が違います。

といっても、犯罪には違いないはずです。

要するに我が国は、仇討ちを心情的に容認する価値観があるのかもしれません。

殺人犯の正体
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殺人犯の正体

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  • 出版社/メーカー: 電書バト
  • 発売日: 2012/04/07
  • メディア: Kindle版



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コメント 7

HOLDON

う~ん、知りませんでした。
憎むべき犯罪ではあるけれど時代を感じさせるものが惹きますね。
アマゾンプライム会員だから読んでみますね。
by HOLDON (2019-10-16 17:36) 

ヨッシーパパ

それは知りませんでした。
by ヨッシーパパ (2019-10-16 19:21) 

pn

敵討ちしたい気持ちはよく分かる。カミさん殺されたとかになったら復讐鬼になる自信あるけどいざとなったらチキンだから殺せないだろうなぁ。
by pn (2019-10-16 20:11) 

なかちゃん

弱者のために頑張るというのは素晴らしいと思いますが、女性に見境がないというのが『バカタレが…』ですね。
ま、度が過ぎるのは別として、女性が好きでないという男はあまりいないとは思いますが(^^;

by なかちゃん (2019-10-16 22:51) 

ナベちはる

やったことが犯罪そのものであることは間違いないのですが、仇討ちしたいという気持ちも否定できませんね…
by ナベちはる (2019-10-17 00:23) 

Rinko

女性関係で起こした事件だったんですね。
おっしゃる通り「仇討ち」容認文化が彼を匿った要因のひとつでしょうねー。
by Rinko (2019-10-17 08:08) 

えくりぷす

昔は女性にだらしない男は許されていたような印象があります(羨ましくはありませんが…)
被害者が嫌われ者だったこともあって、村人も応援していたのかなとも思いました。
誰か有名な知識人(失念しました)も、仇討ち復活を提唱していましたね。
by えくりぷす (2019-10-17 09:20) 

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