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『長崎犯科帳』勧善懲悪の中にも友情が描かれる娯楽時代劇 [懐かし映画・ドラマ]

長崎犯科帳

『長崎犯科帳』(1975年4月6日~9月28日、ユニオン映画/日本テレビ)を久しぶりにDVDで鑑賞しました。萬屋錦之介が、長崎奉行・平松忠四郎を演じた時代劇です。町民から収奪を行っているのに、諸事情からお白州で裁けない町年寄(現在の地方議員)や悪徳商人などを、平松忠四郎自らが仲間と「闇で裁く」ストーリーです。



萬屋錦之介といえば、中村錦之助時代から、映画、テレビでたくさんの時代劇に出演していますが、私がもっとも印象深いのが、この『長崎犯科帳』です。

リアルタイムではたったの半年・全26話の放送でした。

当時の人気ドラマ『子連れ狼』の合間に製作されたもので、当時はそれほど注目されていなかったと思うのですが、同じユニオン映画製作の石立鉄男主演ドラマのように、何度か再放送するうちに、多くの人が傑作であると気づくインカムゲイン型の人気ドラマです。

今は検索すると、このドラマについて書かれている個人ブログの記事をたくさん見つけることができます。

ストーリーとしては勧善懲悪の「私刑」(←今議論になりそうな言葉ですね)ものですから、当時人気があった『必殺仕事人』シリーズの亜流です。

ただ、それだけではなく、江戸時代の長崎という特殊な舞台で、悪人や被害者も、唐人、オランダ人、キリスト教徒などが絡むため、江戸を舞台とした勧善懲悪ものよりも、複雑で史実性のある展開になっていました。

あらすじネタバレ御免


萬屋錦之介演じる平松忠四郎は、参勤交代で長崎にやってきた奉行です。

公務中にオランダ凧を上げたり、釣りをしたり、チェスを楽しんだり、カステーラを装った賄賂を受け付けたり、夜は円山(遊興街)で遊んだりして、与力・三島与五郎(御木本伸介)や、同心の加田宇太郎(新克利)、猪俣安兵衛(高峰圭二)らは呆れ顔。

しかし、禄高800石取りで、長崎奉行になれたのは当時としては出世であり、何があるのか、町年寄のドン・福島六左衛門(小沢栄太郎)は警戒しています。

その真相は、表の仕事(白州)では裁ききれなかった悪人を、闇で裁くことで、その町から悪人を一掃していたことにあります。

平松忠四郎
『長崎犯科帳』(第6話)より

長崎に赴任早々、平松は、シーボルト門下生のアル中医師・小暮良順(田中邦衛)の、メスを使って「人を仕留める力」が気に入り、小暮良順と組んで、事件の黒幕にアプローチします。

小暮良順は、内縁のおぎん(磯村みどり)が経営する「せいろん」という飲み屋の2階に住んでいますが、その店に立ち寄る、円山の客引き・三次(火野正平)や、大道で花売りと奇術を行う娘・おぶん(杉本美樹)も仲間に加え、4人は法で裁けない悪人を仕留める「闇奉行」として26話に渡って活躍します。

長崎犯科帳の見どころ


時代劇は、そのほとんどが勧善懲悪ですが、このドラマ独自の見どころも何点かあります。

肥筑方言の様式美


長崎が舞台のため、平松忠四郎、小暮良順、三次、奉行所の同心たちをのぞく登場人物は、肥筑方言を使っています。

少なくとも悪人たちは、例外なく肥筑方言です。

「ばってん」「~のごたる」「~たい」「しんしゃった」……

方言とともにストーリーが動き、観るものは感情移入していきます。

5話ぐらい続けて見ると、私は脳内の思考で肥筑方言を使ってしまうほどです(笑)

これは、『仁義なき戦い』の広島弁と並んで、方言によるコミュニケーションの様式美を知らしめた点で意義深いことではないかと思います。

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友情


勧善懲悪のシリーズではありましたが、たんなる切った張ったではなく、もうひとつのモチーフが「友情」でした。カネと仕事だけでつながる必殺シリーズと違い、人間的なつながりが前提になっているのです。

当初、「闇奉行」は正体を絶対に知られてはならないため、平松忠四郎はいつも顔を頭巾で覆い、三次やおぶんにも自分の顔を見せていません。

それが、あることでわかってしまうのですが、口の軽い三次に平松はヒヤヒヤ。殺しはしないものの遠くへ行ってもらおうかと思っているところ、小暮良順は彼らをかばい、三次にも、「自分なんか鉄砲玉でいいから奉行にはこの仕事を続けていほしい」と言われ、平松忠四郎は彼らにほだされて、闇の仕事を引き続き三次たちと続けることにします。

また、賄賂が好きで遊んでばかりの奉行を装っていますが、有事の際の判断力に猪俣安兵衛は驚き、江戸に帰る際は、加田宇太郎に惜別の涙で送られるなど、人間性も才覚も慕われています。

剣の達人


平松忠四郎は剣の達人です。毎回、悪人の斬り方が少しずつ違います。萬屋錦之介か監督かわかりませんが、工夫しているんですね。ですから毎回、「今度はどんな切り方なのだろう」と飽きないのです。

そして、『桃太郎侍』のようにああだのこうだのと長い口上はありません。「ツラぁ、見せてやる」といって頭巾を取って顔を見せたらバサッと斬ります。

平松忠四郎が、いくら欲張りな怠け者をよそおっても、デキる人であることがわかっているので、同心たちは尊敬している面もあると思います。

先日、イケダハヤト氏のところで書いたように、人はまず、正論よりも実績や権威に跪くのです。

こういうドラマを見ていると、人を黙らせるには、それだけの実力が必要なんだよな、と改めて思います。

その他、オープニングが実相寺昭雄監督というのも、マニアではおなじみですね。

リンクは貼りませんが、Youtubeで「長崎犯科帳」で検索すると、長崎を舞台にしたドラマであることが象徴的に表現された素晴らしいオープニングがアップされています。

DVDは全7巻です。

長崎犯科帳 VOL.1 [DVD]

長崎犯科帳 VOL.1 [DVD]

  • 出版社/メーカー: キングレコード
  • メディア: DVD


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