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『戦前の少年犯罪』少年事件は凶悪化などしていないという反証本 [社会]

『戦前の少年犯罪』(管賀江留郎著、築地書館)という書籍を読みました。川崎の事件を受けて、少年事件が凶悪化しているという議論が、またぞろネットでは始まっています。量的(犯罪件数)にそのようなことは言えない、というのはこれまでにも多くの識者が明らかにしていますが、同書は質的にもそれを否定しています。



「昨今、続発する少年凶悪犯罪……」

新聞や週刊誌の記事にありがちな書き出しです。

今回の川崎の事件によって、こうした書き出しを安易に使う媒体がまた増えているのではないでしょうか。

まるで、現代は凶悪犯罪がより頻発しているようです。

凶悪犯罪

が、この表現は、統計的に多くの人から否定されています。

たとえば、このブログでは以前、『現代日本のテレビでは放送できない話』(山口敏太郎著、彩図社)という書籍をご紹介したことがありました。

同書には、殺人検挙者数は、60年代と比べて現代の方が少ない。

だから、「昔の方がよかった」「昔に比べると今は……」と嘆く者はトンデモだという話が書かれています。

私は、この記述に対して、一応留保をつけています。

少なくとも、現代は60年代よりも「豊か」で「非暴力」の方向にあるはず。「にもかかわらず」現代に起きているこの「凶悪犯罪」はなんだろうか、少し多すぎやしないか、悪すぎやしないか、という視点は否定すべきではないという意味です。

が、それはあくまでも社会発展という経時的なことを含んだ解釈です。

定量的な比較では、山口敏太郎氏の書かれているとおりで間違いありません。

そして、今回の『戦前の少年犯罪』は、実は個々の事件も、昔のほうがずっと凶悪であったことを示した書籍です。

目次だけでも、十分に「閲覧注意」といえるでしょう。

文言や表現など、Googleの見解もあるので、今回は具体的には書きにくいのですが、目次の一部をご紹介します。

章ごとのタイトルが、「戦前は~の時代」で統一されており、その「~」の部分は、「脳の壊れた異常犯罪」「親殺し」「老人殺し」「主殺し」「いじめ」「キレやすい少年」「教師が犯罪を重ねる」「教師を殴る」などが入ります。

本文では、該当する具体的な事件を極めて詳細に追っています。

戦前もそうした凶悪事件がわんさかあったということです。

重い内容で、読み終えた時は疲れを感じました。

それにしても、「教師を殴る」なんて、ちょっと意外だと思いませんか。

戦前の教育は、教師が一段高いところからエラソーにしていたイメージがありますよね。

でもむしろ、エラソーにしているのは現代のほうかもしれません。

だって、教師が生徒に暴力を振るったり暴言をはいたりする事件が、しばしば報道されているじゃないですか。

現代の少年は、逆におとなしくなっているという気もします。
(おとなしいから、ときにはトンデモないことをする陰湿さもあるわけですが……)

同書も特定の事件を取り上げているだけなので、戦前に対する解釈として絶対的な正解であるとはいえません。

ただ、とにかく昔はのどかで凶悪犯罪なんてなかった、という認識は事実ではない、ということです。

民事の芽を摘み取った「私刑」


当時の少年に比べて、今の少年犯罪は、少年法を計算して大した罪に問われない事を前提に事件を起こしているという意見もあります。

私も、そうしたある種の狡猾さについて否定はしません。

ただ、そこまで指摘するのなら、ぜひ「私刑」に対する対処も考えて欲しいと思います。

「私刑」

たとえば、今回の川崎の事件。

主犯の父親が、「私刑」の影響で依願退職したというニュースがありました。

それでいちばん困るのは誰だと思いますか。

これによって、民事裁判をしても、おそらく賠償金を取れない被害者の親権者です。

もし、主犯の父親がそのまま働いていたら、賠償金をとれたかもしれません。

「私刑」がその芽を摘み取ったのです。

少なくとも、父親は「私刑」を口実に責任回避できますから。

民事の賠償金は一般債権ですから、被告に支払い能力がなかったら、いくら賠償の判決になっても何の意味もなくなってしまうのですよ。

今回、被害者は2度被害にあったのかもしれません。

1度目は事件の犯人。

2度目は「私刑」した連中。

今回「私刑」に熱中した人は、そのへんも考えてみてください。

戦前の少年犯罪

戦前の少年犯罪

  • 作者: 管賀 江留郎
  • 出版社/メーカー: 築地書館
  • 発売日: 2007/10/30
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


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