『無責任遊侠伝』と『社長紳士録』が、それぞれ『東宝昭和の爆笑喜劇DVDマガジン』のVol.36、Vol.37として発売されました。どちらも1964年、東宝の配給です。これまで何度か取り上げてきた東宝クレージー映画と森繁久彌社長シリーズでしたが、ケラリーノ・サンドロヴィッチ氏の解説で両シリーズの違いがわかりました。
何度かこのブログでご紹介している『東宝昭和の爆笑喜劇DVDマガジン』。隔週ごとに、1960年代の東宝喜劇映画黄金時代を築いた、クレージー映画、社長シリーズ、駅前シリーズ、さらにてなもんやシリーズ、コント55号主演作品なども加えた合計50作品を読み物を付けて雑誌コードで講談社から発売しています。
最近は、かつての人気映画やドラマに関連読み物を付けたこういう売り方が流行っているのですね。
このやり方なら、1度DVDとして発売した作品をまた売ることができますからね。
同誌の中で、クレージーキャッツのファンであるテリー伊藤が、すでにクレージー映画のDVDは揃えたけれども、このシリーズも買っているという談話も掲載されていますが、まあたしかにファンというのはそういうものです。
今年8月の後半は、クレージー映画の『無責任遊侠伝』と、
社長シリーズの『社長紳士録』が発売されました。
どちらも1964年の配給です。
『無責任遊侠伝』の方は、クレージー人気が急上昇中で、植木等があまりのハードスケジュールで過労で倒れてしまい、復帰した作品です。
このシリーズをご覧の方はお気づきと思いますが、いつも植木等の化粧がものすごく濃いのです。真っ白。
理由は、ハードスケジュールで顔色が悪いからです。
週3日は『
シャボン玉ホリデー』の収録で徹夜。それ以外の日も別のレギュラー番組をこなしながら昼間は映画の撮影です。
売れなくても困りますが、売れたら売れたで大変ですね。
ストーリーは、博才のある主人公・植木等らクレージーキャッツの面々と、いつものようにヒロイン役の浜美枝と淡路恵子が、自分たちから金を騙しとった平田昭彦らのグループを追いかけて香港に行くという話です。
一方、『社長紳士録』は社長シリーズ20作目。製紙会社の常務から子会社である製袋会社に就任した森繁久彌社長は、いつものメンバーと、取引先のフランキー堺と契約をまとめる話です。
いつも怪しい日系バイヤーのフランキー堺は、今回は自分の出生地である鹿児島の人を演じています。マダムズは草笛光子と池内淳子です。
社長シリーズは、クレージー映画がドル箱シリーズになったことと、マンネリ化からこの作品をもって終了することが決まっていました。
しかし、その後も根強い支持でシリーズは続き、その後16作が1970年まで作られます。
結局、両シリーズは車の両輪のような位置づけで、60年代の東宝喜劇映画黄金時代の隆盛を支え切ります。
今月中に「続編」がまた発売されるので、そのときまた記事を書きます。
社長シリーズとクレージー映画は“合わせ鏡”
今回、Vol.36の『無責任遊侠伝』に掲載されている、ケラリーノ・サンドロヴィッチ氏のコラムに興味深い記述がありました。
ケラリーノ・サンドロヴィッチ氏。ご存じですか。緒川たまきと結婚した劇作家。本名は小林一三だそうですね。阪急東宝グループの総帥と同じ字です。読み方は違うようですが。東宝つながりで縁があるということですか。
クレージー映画(特に初期)と「社長シリーズ」の絶対的な違いって、前者はヒーローもので、後者は群像劇だと思うんです。
子どもの頃は、三木のり平さんの宴会芸とフランキー堺さんのインチキな外国人の面白さぐらいしかわからなかったんですよ。だけど今、あらためて観ると、森繁さん、加東大介さん、小林桂樹さんのトリオの含みのあるやりとりが面白くて仕方ない。3人のシーンになるとカメラが長回しになり、急に緊張感が出てくる。ソファーでのズッコケひとつとっても、これは絶対リハーサルではやってなかっただろうって感じですよね。
ケラリーノ・サンドロヴィッチ氏は、「クレージー映画」と「社長シリーズ」は「“合わせ鏡”のような存在」であったとしています。
さすが劇作家だなあと思いました。
一見、クレージー映画というのは、『クレージー作戦』シリーズなど、7人いるクレージーキャッツ全員が主役の映画のようですが、実際にはそのほとんどが植木等主演です。
『クレージー黄金作戦』より
それ以外の場合も谷啓が主演。3人以上の人物の葛藤やドラマを描いた群像劇としての作品は、植木等、ハナ肇、谷啓の3人を中心にストーリーが展開した『
クレージー黄金作戦』、あとは強いていうなら初期の『
クレージー作戦、先手必勝』ぐらいかなと思います。
『クレージー黄金作戦』より
メンバーは70年代以後、それぞれ単独で活躍しました。それぞれ仕事はできるはずなのに、当時人気絶頂だった植木等を光らせるために、あえて脇に回ってほとんど自分の個性を発揮していません。
一方、社長シリーズというのは、社長が森繁久彌ですから、そりゃ、森繁久彌が主役だろうと思うしそれはもちろん間違いではありませんが、作品を見ていると、レギュラー陣がそれぞれ見せ場を持って光るシーンがあるのです。
宴会芸はもちろん三木のり平。ドラムや外国人の歌マネは、学生時代から進駐軍を回っていたフランキー堺の世界。劇中(『社長漫遊記』)、森繁久彌がフランキー堺のドラムに感心したように首を振るシーンはリアリティがありました。
『社長漫遊記』より
小林桂樹の「食べ芸」は地味ですがあれも見せ場の一つですし、加東大介の端唄や、歌劇団出身の草笛光子の声量感たっぷりに歌い上げるオペラのシーンは、「ああ、芸のある人は華があっていいなあ」と、何の芸もない私は羨ましく思いました。
いずれにしても、“合わせ鏡”ですから、どちらも存在してこそその価値は相乗的に高まります。
人道を外れているように見えるけれど、実は挫折や裏切りを何度も経験している植木等演じるヒーロー。
高度経済成長時代に、ときには牽制しあったり失敗したりしながらも、力を合わせて大きな仕事をやり遂げていく森繁久彌軍団。
私にとっては、21世紀になった今も、この両シリーズは精神的に大きなよりどころとなっている作品です。
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