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配偶者控除「見直し」で思い出す「アグネス論争」 [社会]

配偶者控除「見直し」が話題になっています。専業主婦世帯の所得税を軽減する配偶者控除について、安倍総理が「縮小や廃止を検討する」と報じられました。メディアは「働く女性を後押し」と肯定的に報じていますが、実態はたんなる社会保障削減に過ぎないと指摘する識者もいます。そういえば、26年前には「アグネス論争」なるものが花盛りでしたが、いずれも真の女性尊重の立場に立たないことで共通しています。日本はいったい26年間何をやってきたのでしょうか。

配偶者控除「見直し」については、エコノミストの高橋乗宣氏が、『日刊ゲンダイ』の連載「日本経済一歩先の真相」(3月29日付)で言及しています。
日刊ゲンダイ・高橋乗宣.png
現行制度では、配偶者の所得が103万円以下の場合、本人に所得税がかからない上、会社員の夫の課税所得を38万円減らせる。この救済措置をなくし、家庭から追い出そうというわけだ。
 だが、それによってどれだけの人たちをどんな仕事に就かせたいのか。働くことを希望しながら職に就いていない人は668万人に上るとされる。はたして、これだけの数を受け入れる職場はどこにあるのか。(中略)
 そもそもすべての専業主婦が働きに出られるわけではない。育児や家事、介護に追われている人たちも大勢いる。専業主婦が支えてきた家庭にとって、控除見直しは死活問題だ。育児や介護の公的サービスが充実しているのならまだしも、それもアテにならないのだから、いったい、どうやって暮らしていくのか。控除カットの一点で「女性の社会進出」「成長戦略の柱」とするのは詭弁である。
全くそのとおりだと私は思います。

私はむしろ、103万円の控除があるからこそ、主婦が「103万円までは働こう」という選択をできるのだと思います。103万円の控除がなくなったら、専業主婦に戻る人も相当数出てくるのではないでしょうか。つまり「社会進出」とは逆行するのです。

学生時代、学習塾や家庭教師で教えていた私は、103万円を超える収入を得ていましたが、あとになって会社員だった母親に課税が来て慌てたことがあります。

当時の経験からいうと、「103万円」など気にせずバンバン働く、ではなくて、扶養家族のうちは母親の課税との兼ね合いで考えようという気になりました。

ですから、控除見直しは、少なくとも働く人自身にとって前向きな選択となるような効果をもたらすかどうかは疑問です。

残念ながら、配偶者控除「見直し」については、以前から普通の主婦の生活を知らない女性識者の一部が、積極的に求めてきました。

それに対して、一部の誇り高き“働く女性”は、専業主婦に対する敵愾心というか優越感というか、そのような気持ちからよく考えもせず賛同しています。

高齢出産に対する、必要以上のバッシングもそうですが、

女の敵は女って、ホントなんですね。

それはともかく、安倍総理もマスコミも、これは通せるとタカをくくっているのではないでしょうか。

「アグネス論争」とは何だったのか


今から26年前の今頃、やはり「働く女性」をめぐる論争とされた「アグネス論争」がありました。

『文藝春秋』5月号(1988年4月10日発売)に、「いい加減にしてよアグネス」という林真理子氏の寄稿が掲載されたのが始まりです。内容は、アグネス・チャンの「子連れ出勤」をめぐる是非でした。

当時、多くのレギュラーを抱えていたアグネス・チャンに対して、テレビ関係者が子連れでもいいから仕事を再開して欲しい、と懇願したのが「子連れ出勤」の始まりといわれています。

彼女はタクシーかお抱え運転手付きの自家用車で、子守役のスタッフまで帯同して通勤できるご身分でした。人気タレントと、テレビ局の力関係を見るエピソードとしてならともかく、「子を持つ市井の女性労働者」の普遍的な矛盾と、彼女のケースとを単純に重ねるのはいささか疑問が残りました。

一方、林真理子氏は、「働く女が子連れ出勤をしないのは、働く人間として自負心が許さないからである」と宣りました。

その心意気自体は否定しません。が、問題の核心は個々の「自負心」の有無ではなく、子連れ出勤の選択肢がない現実を、社会のあり方としてどう見るかということですから、論点が違うように思いました。そもそも、お勤めをしている女性には(男性にだって)、そんな「自負心」などは許されないのです。

ただ、ここまでは彼女たちの立場や体験に基づく限り真面目な話で、聞くべき点はありました。

問題は、ここに、いわゆるジャパニーズ・フェミニズムの人たちが参戦してしまったことです。

たとえば上野千鶴子氏は、「この論争の真の敵は、高見の見物をしている男性である」とぶちあげました。

当時の私は独身の若造でしたが、いいかげんしろよ、と憤りました。

「女性の子連れ出勤」問題は、性的役割分担からの解放、託児所、母性保護を前提とした労働政策など、社会的な整備を抜きに語ることはできません。

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男女がともに手を携え、共通の課題に対する共同のたたかいを進めることでしか、社会を変えていくことはできないのに、それを提案するのではなく、男女の対立を煽ることで、結局企業や為政者のすべきこと、しなかったことを国民が考え求める機会をうやむやにしてしまった。

上野千鶴子氏らの責任はきわめて重いと思いました。

その後、この上野氏の劣化コピーを田嶋陽子という人がやっていますが、この人たちは結局、ネトウヨがいうような「サヨク」ではなく、為政者や企業を安泰にしている“体制の用心棒”だと私は思っています

話は戻りますが、今回は控除が廃止されるのですから、男性だって「高見の見物」などはしていられません。

“進歩的な”女性には、女性全体にとって普遍的な進歩の道筋とはいかにして掃き清めるものなのか、ということをよく考えていただきたいな、と思います。

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