『4522敗の記憶 ホエールズ&ベイスターズ 涙の球団史』(村瀬秀信著、双葉社)という書籍を読みました。現在、横浜DeNAベイスターズと名乗る旧大洋ホエールズ、横浜大洋ホエールズ、横浜ベイスターズ球団の「敗者の歴史」を、その当時の主力選手の談話から構成している書籍です。
私は、左門豊作が在籍したことになっている、そこそこ強かった別当薫監督の頃から川崎球場での観戦歴がありますが、とくにホエールズ&ベイスターズのファンというわけではありません。
ただ、私がこの本を手にとったのは、「敗者の本」だったからです。
もし、これが巨人についての本だったら、「4522敗」ではなく「○○勝」というタイトルになっていたと思うんですね。
そして、巨人は、選手は、いかに素晴らしかったかというキレイ事が延々とかかれる。
いや、それほど嫌味な意図はなくても、結果論で美談になっちゃうんですよね。勝てば官軍で。
でも、ちょっとまてよ、と私は思うのです。
そりゃ、勝者が振り返って、ここでこう頑張ったから、と語れることはあるでしょう。
でも、12球団、だれでも頑張ってるわけなんで、ではなぜみんなががんばっている中でその球団が勝者になれたのか。
勝者を勝者たらしめるもっとも根本的なことは、ひっきょう、コインに表と裏があるように、敗者がいるからではないのか。
ということは、敗者がなぜ敗者なのか、を見たほうが、勝者の本質が見えてくるのではないのか、という弁証法的な考えが私にはあるわけです。
野村克也氏がいう「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」こそ至言で、要するに必然の「負け」から見ていけば、「勝ち」も可能な限り合理的に推理することができるというわけです。
で、同書の内容は、野球部出身のライター村瀬秀信氏が、自らが以前から応援していた面白困った弱い球団、ホエールズ&ベイスターズについて、初優勝した三原監督の時代から現在の横浜DeNAベイスターズまでを、その当時の主力選手のインタビューを証言としながら振り返っています。
大洋漁業の「漁師体質」が球団にはしみついていて、かつ、中部謙吉という家父長的なオーナーのやり方もあって、勝つことに貪欲でない、前近代的で、でもファミリー的な魅力がある、勝負の世界に存在するにはおもしろ困った球団である、という話ですね。
その後、スポンサーはかわっても、球団の体質は変わりきれてはいないようなので、同書の上梓は、現在のチームに対する激励やヒントという意味もあるのでしょう。
同書で私が印象に残ったのは、古葉竹識氏の功績をきちんと書き残しているところです。
古葉竹識氏が指揮をとった1987年~1989年は、5位、4位、6位と、成績は芳しくありません。
私は素人ですが、広島時代の古葉野球が根本的にかわったようには見えませんでした。
参考にはならないかもしれませんが、その後、古葉竹識監督はマスターズリーグで最下位だった札幌アンビシャスを優勝させており(2004年)、ご本人の中でも采配がブレたわけではなかったのでしょう。
要するに、横浜大洋の戦力やチームの体質に問題があった。
その古葉竹識氏が監督就任の翌年、これではいかんと連れてきたスカウトが木庭敦氏です。
以後、盛田幸妃、野村弘樹、進藤達也、谷繁元信、石井琢朗、佐々木主浩ら、90年代の必勝メンバーをドラフト指名しています。
それまでの横浜(大洋)は、著者に言わせると捕鯨の感覚(つまり大雑把)で補強。その時々のチーム状態や話題性だけでチームの編成を考える。
たとえば、投手が強いと野手ばかりとる。打っていると投手をかき集める。そんな補強を繰り返していたといいます。
もちろん、弱点を補強するためにトレードや即戦力の補強としてそれは「あり」です。
しかし、「打線が強い」といっても、その打者がいつまでも現役でいるわけではないし、故障者だって出るかもしれない。昨今のようにボールが変わることでチーム打率はかわってしまうかもしれない。
今だけでなく、長期的なことも視野に入れたチーム作りが必要なのに、それが大洋時代からできていなかったと、当時の選手のインタビューによって同書は何度も強調しています。
それをかえたのが古葉竹識氏の時代なのです。
さらに、チームをきちんと耕したのが近藤昭仁氏。そこに種をまいたのが大矢明彦氏。
しかし、2人ともチーム成績を上げたところで解任されてしまいます。
結局、もっとも美味しいところ(日本一)は次の権藤博氏(1998年~2000年)に。
もちろん、権藤博氏は何もしていないということではありません。
ただ、ダメなチームを38年ぶりに勝たせるには、権藤博氏だけでなく、少なくとも3人の監督がその土台となる仕事をしたからこそだ、というのが同書で改めてわかります。
秋山登、土井淳、平松政次なんて懐かしい名前も出てきます。
ホエールズ&ベイスターズのファンならもう読まれているとは思いますが、野球ファンなら、面白く読める一冊だと思います。
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