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克美しげる、嘘の破綻と世評のプレッシャーで崩れた人生 [芸能]

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克美しげるさんが亡くなっていたというニュースが昨日ありました。7ヶ月前に脳出血だったそうですね。日本には、亡くなった人はだれでもみな仏様なのだと生前の悪いことは言及せず、美辞麗句で送り出す「文化」があるのですが、少なくとも政治家や芸能人など、社会的な関心や影響を持つ側の人についてそれは賛成できません。




ましてや、あの事件は刑事事件ですし、その背景には、私たち日本人の美学としている優しさが裏目に出た面もあったように思います。

追悼にはふさわしくないかもしれませんが、あの事件に触れざるを得ません。改めて総括を書き留めておきたいと思います。

事件は、今思い出しても衝撃的でした。

当時の夕刊は、政治を押しのけてこの事件をトップ面で報じ、泉ピン子や青空はるおらのレポートで人気番組だった「ウイークエンダー」(日本テレビ系)は、逮捕当日が放送日だったので、さっそくこの事件のレポートに差し替えられました。

往年のロカビリー歌手、克美しげるは1976年5月6日未明、ソープ嬢になって借金返済に尽くしてくれた当時35歳の愛人を絞殺しました。

むつみ合った後、寝入った被害者を絞殺する弁解の余地のない手口。さらに女性のマンションから、ダイヤや真珠の指輪、ライターなどを持ち去り質入れまでしていました。

死体はスコップと一緒に、知人に借りたトヨタセリカのトランクに入れて捨て場所を探すが見つからず、克美しげる自身が無免許(事故を起こして失効)で羽田空港の駐車場まで運転。車をおきっぱなしでそのまま付き人と落ち合い、札幌行の飛行機に乗りました。

しかし、車のトランクから血液(体液ともいわれる)がこぼれ落ちていたことが見つかり、所有者の割り出しから克美しげるが使っていたことが判明。翌々日の8日、新曲キャンペーン中の旭川で逮捕されました。




同郷(宮崎)の劇作家、山崎哲氏は、そんな克美しげるをこう評していました。

「決断を迫られたとき、その決断をいつも先送りすることで切り抜けようとする人間がいる。決断する勇気や能力をもたないからだが、克美もそのひとりだった。『うそ』をつくことで決断を先送りしてきた。そしてついに絞殺せざるを得ないところへ追いつめられていったのです」(1989年5月12日付)

克美しげるには、妻子がいながら、青山のサパークラブで知り合った女性と交際していました。

それだけならありふれた話かもしれませんが、問題はその交際の仕方です。

1975年8月、彼女は結婚するつもりで克美しげるを故郷の岡山に連れて帰り、両親に会わせています。そのとき克美しげるは両親に何と挨拶したか。

「やっと本妻の籍が抜けました。本当にご心配かけました。これからは彼女を幸せにするつもりです」

もちろん籍など抜いていないし、また抜くつもりもなかった。それでいながら岡山まで行き、こんな「うそ」を言っていたのです。

しかも、花嫁衣裳を着た結婚写真まで撮影していました。結婚写真は当時マスコミが取り上げています。

交際相手に適当なことを言ってるうちに、妻と女性の間でどうにもならなくなって取り返しの付かない行為に及んだのです。

しかし、克美しげるの当時の世評は、「腰の低い人」でした。

芸能人仲間は、そんな「人格者」に見えた彼をかばいました。

名前はあげませんが、テレビで活躍していた第一線の芸能人が、あろうことか減刑運動まで行っています。

判決は求刑より5年も短い懲役10年。しかも7年で仮出所しています。

では、その結果はどうだったか。

克美しげるさんは出所後、カラオケ教室を持たせてもらったり、高額のディナーショーを行ったり、新しい女性と家庭を持ったりと、支援者によって本人曰く「身に余る幸せな生活」を支えてもらいながら、今度は覚せい剤所持で逮捕されてしまいました。

事件は、「うそ」の身勝手な清算に過ぎないのに、温情判決の裁判官や嘆願運動をしたタレントたちは、彼の再犯をどう考えたのでしょうか。

自分たちが甘ちゃんで、克美しげるの物腰に真実を見る目を曇らせたとはいえないのか。

それが、克美しげるさんに、うわべだけの謙虚さで世の中を渡れると勘違いさせたか、もしくはそれが克美しげるさん自身に対するプレッシャーとなり、覚せい剤の再犯に走らせる一因になったのではないでしょうか。

芸能人が法を犯す事件がたまにありますが、必ず庇いだてる芸能人が出てきます。

仲間で慰め合うのは勝手ですが、やはりオフィシャルには行為の責任と更正を第一義的に求めるべきです

克美しげるさんが亡くなったことで、メデイアもこの事件を蒸し返していますが、ぜひそのことを教訓にしていただきたいものだと思います。

勝手にしやがれ―克美茂トルコ嬢殺人事件 (1983年)

勝手にしやがれ―克美茂トルコ嬢殺人事件 (1983年)

  • 作者: 山崎 哲
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