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週刊文春、ASKAの記事で思い出した文藝春秋社名誉棄損裁判の真実 [マスコミ]

週刊文春今週号が、「シ●ブ&飛鳥の衝撃」という見出しの記事を今週号に掲載しました。深刻な薬物依存に陥っている「CHAGE and ASKA」(チャゲアス)のASKAが、薬物を吸引するビデオをネタに暴力団関係者からゆすられているという内容の記事です。

週刊文春 2013年 8/8号
ASKAの所属事務所は週刊文春発売日の夜、「報道の内容は事実に反しており、大変遺憾です」「弊社としてはこれらの報道に対し、厳重に抗議いたします」というコメントを公式サイトで発表していますが、週刊文春編集部は、「記事には十分自信を持っている」と回答しています(デイリースポーツ 8月2日配信)

今のところ法的な話にはなっていないようですが、今回に限らず、週刊誌が衝撃記事を発表すると、そのうちの一部は書かれた者が名誉棄損裁判を起こし、ネットでは「マスゴミ」といういい方でメディア側をせめたてます。

しかし、その一方で、自分たちに都合のいい記事、たとえば普段叩いている人物を書きたてた記事については、記事を疑うこともなくそれを前提にさらにその人物を叩いて溜飲を下げています。

勝手なものですね。

それはともかく、週刊文春は本当にマスゴミなのでしょうか。

週刊文春編集部を擁する文藝春秋社といえば、月刊誌や週刊誌、さらには書籍も発行する日本でも有数の総合出版社です。

同社の社長室の中には、法務・広報部というセクションがあります。

名誉棄損裁判が起こった場合の対応や、名誉棄損にならないための予防措置を行うところです。

もちろん顧問弁護士もつけているし、配属されている社員もいます。

普通、名誉棄損裁判で訴えられると、その媒体の編集人が受けて立つように思われるかもしれませんが、訴訟については、会社として対応することが同社に限らずメディアでは多くなっています。

以前、同社の『マルコポーロ』という雑誌に、「ナチ“ガス室”はなかった」(1995年)という論文が掲載されたとき、全世界のユダヤ人から批判を受けたことがありました。

その時は、ユダヤ人→ユダヤ傘下の企業→関連する日本の企業と反発が広がり、文藝春秋社は『マルコポーロ』以外の媒体まで広告出稿が止められたことがあります。

また、最近の法的な責任の取り方として、当事者(記事を書いたライターや編集部)だけでなく、会社も「使用者責任」が問われるようになってきました。

そうしたことから、全社的に取り組むべきである、という方針によってそうしたセクションができたのです。

少なくとも同社には、『マルコポーロ』という手痛い経験がありますから、記事のネタについては、社内的な議論があって採用されるかどうかの結論が出ているはずです。

商業メディアは、一記者の勝手な書きトバシがそのままフリーパスで掲載され全国で販売されるような単純な仕組みにはなっていないということです。

そうしたメディアからすれば、なんらチェック機能もない垂れ流しの、個人ブログや匿名のネット掲示板などでいろいろこき下ろされても、何をぬかすか、オマエらの方があぶねーだろ、といいたいのではないでしょうか。

もちろん、いくら社内議論しても、記事の作り方や裏付けの甘さなどから、記事には間違いもありえます。

同誌のバックナンバーを調べれば、書いたことが結局間違っていた、ということは少なからずあります。

たとえば、同誌が過去に訴えられた名誉棄損裁判の結果はどうだったのか。

私は、ふだんは表に出ないで社内各編集部を支えている、文藝春秋社の法務・広報部を、はじめて表舞台に引っ張り出したことがあります。

2004年のことですが、ある書籍に掲載するインタビューのアポイントメントに成功しました。

過去に文藝春秋社が記事に書いた相手から訴えられた裁判の結果は、その時点で、29勝15敗5分けだったと聞きました。

「勝」は勝訴および主要な部分で言い分が認められた和解。「敗」は敗訴および主要な部分で言い分が認められなかった和解です。

引き分けというのは、「和解」の中でも結果的に意味がない終わり方のもの。原告の訴えも退けるかわりに被告も訴えがあったことを真摯に受け止めるということで終わりにしよう、という「無効試合」のようなものだそうです。

とにかく「勝率」として、文藝春秋社は名誉棄損裁判で3回訴えられて2回は勝っているということです。

この勝敗。それ以後2008年ぐらいまでは私も数えていたのですが(笑)、最近は裁判所も判決文の公開が厳しくなってきたので挫折しました。

現時点で、この勝率、そう大きくは変わっていないと思います。

で、この「3回訴えられて2回は勝っている」という「戦績」をどう見たらいいでしょうか。

記事を書かれて傷ついた者の気持ちからすれば、3回書けば1回は「不法行為」というのは低過ぎる「勝率」だと思います。

同社の書き方を見ると、センセーショナリズムと同時に、相手がちょっとでも反論しようものなら、待ってましたと食い下がって反論キャンペーンを行う執拗さもあり、書かれた方は大変だろうなと思います。

そもそも、記事のすべてが裁判になっているわけではありません。書かれっぱなしで泣き寝入りすることもあるでしょうから、この戦績をもって、ただちに同社が「3回に2回は正しい」記事を書いていることにはなりません。

ただ、昨今の言論圧迫の傾向にある名誉棄損裁判の流れの中で、これだけの数字を残すのは大変だろうな、とも私は思います。

今はもう、名誉棄損は訴えられたら負け、といってもいいほど「プライバシー重視」の傾向にありますから。

勝った記事に限っていえば、弁護士の腕だけではなく、記事作成において裏付けなどきちんと行っているのだろうと思います。

マスゴミとののしるみなさん。マスコミ批判大いに結構!

ただ、無根拠・無責任にアタマから「どうせ、無も葉もないことをねつ造してる」と決めつけるのは、いかがなものでしょう。

なんだかんだ言いながら、私たちはマスメディアに理解を助けてもらってこの世の中を生きているのです。

ゴミ扱いは、その仕組みをも正しく機能させない憾みを抱かずにいられません。

マスコミをいかに上手に使うかは、私たち次第といってもいいでしょう。

ご都合主義の不毛な唾棄ではなく、報道は是々非々、事実と道理で向き合う姿勢で受け止めるべきではないかと私は思います。

週刊文春 2013年 8/8号 [雑誌]

週刊文春 2013年 8/8号 [雑誌]

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2013/08/01
  • メディア: 雑誌


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