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暴力団壊滅論ーヤクザ排除社会の行方は? [社会]

戦後史上、「生かさず殺さず」を続けてきたわが国の“ヤクザ行政”ですが、今ほどヤクザに対し、「殺」しにより近いほうに振り子が振られているときはないでしょう。

警察とヤクザが、かつては持ちつ持たれつといわざるを得ないような時期があったことは、これまでにも書いてきました。

終戦直後のドサクサの時、いわゆる第三国人の暴力的振る舞いを鎮めるため、警察はヤクザに取り入って利用したといわれています。

ところが、警察は恩を忘れて(?)戦後の「民主」化を進める1950年に、団体等規制令によって暴力団解散を目指しました。

それが朝鮮戦争が勃発したり、安保闘争などが起こったりすると、規制はいつのまにかうやむやにされ、そのつど「共存」の方針がとられました。

昭和40年代の高度経済成長時代に入ると、今度はまた暴力団追放にシフトし、暴力団新法や暴力団排除条例などで、昨今は暴力団の「弱体化」をすすめています。

しかし、暴力団排除条例については、暴力団そのものだけでなく「周辺者」とされるヤクザとかかわりのある人までが取り締まりの対象となっており、「法の下の平等」などに反すると、田原総一朗氏ら一部文化人が反対声明を発表しています。

そんな中で出たのが、『暴力団壊滅論ーヤクザ排除社会の行方』猪野健治編/宮崎学編(筑摩書房)という書籍です。

「不純」なものを排除する「清潔」な社会は果たして理想の社会なのか。格差社会・高齢化の波はヤクザ社会にどう影響をあたえているのかなどを複数のライターが書いています。
第1章 正義と利権
第2章 ヤクザ社会の行方
第3章 格差社会とやくざ
第4章 ヤクザ対策はなぜ効かないのか
第5章 ヤクザに人権はあるのか
第6章 やくざコミック規制
終章 歴史のなかから-やくざと地域社会
日本の暴対法とアメリRICO法との比較表

いわゆる、やくざものを上梓したライターには、溝口敦氏、飯干晃一氏などがおなじみですが、歴史という視点でヤクザを語らせたらピカイチなのは編著者の猪野健治氏です。

そして、もうひとりの編著者である宮崎学氏といえば、1984年の「グリコ・森永事件」で指名手配の「キツネ目の男」と酷似していたことでブレイク。「近代ヤクザ肯定論」「ヤクザと日本」などを上梓した「ヤクザ肯定派」です。暴力団排除条例の文化人反対声明を行う一人でもあります。

暴力団排除条例については、批判的な人が多いのですが、ただその結論については識者の間でも考え方はふたつに別れています。

宮崎学氏のように、その条例自体をなくそうとする暴力団肯定派・擁護派と、問題のある条例だが、反社会的勢力におびえない非暴力化の社会にするために頭から否定はしない溝口敦氏の立場です。

ひところは、コンビニに山口組を描いたピカレスクロマンの漫画が売られていましたが、条例もあって姿を消したのは、正直言うと残念です。

といっても、私は暴力団肯定派でもピカレスクロマンファンでもありませんが、ヤクザと警察の戦後史という視点で調べたいと思ったとき、漫画は導入として非常に便利だったんですね。

いきなり難しい本だと、組名やヤクザの名前がスッと頭に入らないのですが、漫画だと入りやすいのです(笑)

そういう意味で現在の暴力団排除条例は、宮崎学氏らのいうとおり、ヤクザとは関係ない一般人にも何がしかの制約を強いる「悪法」なのかもしれません。

一方、溝口敦氏は、暴力団の存在を認めた上で抑圧するから「法の下の平等」に反するのであり、はじめから法律で暴力団の存在自体を禁じればいい、といいます。

しかし、わが国はなぜかそれをしません。

今回の条例も、暴力団の「弱体化」を目指すものであって「撲滅」ではないので、今もまだ「生かさず殺さず」の範疇にあります。

警察が、天下りや暴力団との癒着があるから、暴力団を完全に撲滅できないので中途半端な条例しか出せない、、という指摘も当たらずといえども遠からずなのかもしれません。

最近は、暴力団の抑圧の反動か、半グレこと愚連隊が問題になっています。

反社会勢力の問題、まだ解決しそうにありません。

「暴力団壊滅」論 ヤクザ排除社会の行方

「暴力団壊滅」論 ヤクザ排除社会の行方

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2010/06/19
  • メディア: 単行本


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はる

漫画が導入として便利というのは意外でした。私の場合、ゴルゴ13は難しい世界情勢などを体に染み込ませてくれる貴重な書籍です。(笑)
by はる (2012-10-15 00:58) 

1stdmain

コンビニ本が消えた替わりに、DVDの仁義なきたたかいが売れてるらしいですよ。
by 1stdmain (2012-10-15 01:50) 

pandan

広島出身なのですが、
自分が小学生の頃は繁華街に
一目でその筋の人っていう人多かったような気がします。
by pandan (2012-10-15 06:49) 

tooshiba

警察が全面的に民事不介入=手抜きを止めるというのなら、話は違いますが。
恐らくは、警察(または司法、すなわち国家=官側)だけを頼りにするように、“国民を調教”しようとしているだけですよね。

反社会的勢力とひとくくりにされても、そのうち、例えばコンビニで暴力団員が買い物をしたら、その店は潰されて、店長は逮捕。とかになったら。とんでもない管理社会ですよね。
by tooshiba (2012-10-15 09:32) 

アニ

いっぷくさんこんばんわ
先日は訪問とnice!ありがとうございました

またお邪魔させていただきますのでよろしくお願い
いたします。
by アニ (2012-10-15 18:18) 

chima

やくざものの映画とかも怖くて見られません
セーラー服と機関銃でギリギリ^^;
by chima (2012-10-15 21:00) 

ackylacky

初めてコメントします。
暴力団撲滅と警察はいってますが、どうも撲滅したいのは関西系の暴力団みたいですね。東京にも暴力団はいるのでしょうが、あまり事件にもならないし、マスコミも取り上げない。
どうも、東京には警察やマスコミと仲のいい、「ヤクザ」が存在するようです。
あと、暴力団員関係者ってなんですか?殺人犯の家族にだって人権はあるのに。
by ackylacky (2012-10-15 21:38) 

uryyyyyy

いっぷく さん、こんばんは。

出来ることであれば
ヤクザとかかわり合いのある人生にはなりたくないです。
by uryyyyyy (2012-10-15 22:32) 

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