SSブログ

自称iPS細胞施術事件は誰のせい? [(擬似)科学]

今日は学術スキャンダルの戦後史です。
ノーベル賞で注目されている「iPS細胞」が、少し違う形で話題になっています。

医師資格のない看護師資格者が、iPS細胞から心筋の細胞を作って自身の医療行為から患者の心臓に移植したかのような説明をしたことを、読売新聞が報じました。

翌日になって読売新聞は訂正、というか記事の撤回。

自称iPS細胞施術者は、経歴や肩書きについて組織自体が存在しないものがあること、研究実態が不明な論文があること、山中伸弥・京都大教授の論文を盗用した疑いがあることなどが報じられています。

すでに関係機関は、iPS細胞による施術であることを否定しており、さっそくネットでは、虚言癖だの助成金ゴロだのと、断罪書き込みがかまびすしい。

この件、発覚したばかりで全容は明らかになっていないので、まだ以下のことを結びつけるのははやいかもしれませんが、「捏造」や「虚言」の学術スキャンダルということなら、12年前に考古学分野で旧石器捏造事件があったことを思い出します。

民間の考古学研究家が、日本の前期・中期旧石器時代の遺物や遺跡を次々発掘して時の人になったものの、実は捏造だった事件です。

民間考古学研究家は「神の手」と学界でももてはやされ、それゆえに新しい発掘をしなければならないようなプレッシャーから、捏造を繰り返していきました。

今回の自称iPS細胞施術者は、「手柄」を積み重ねる前に発覚しましたし、民間考古学研究家は肩書きまで偽ってはいないので、本人のキャラクターや経緯は違うかもしれませんが、いずれにしても学術界にあってはならない不祥事という点で共通しています。

スポンサードリンク↓

民間考古学研究家は、でっち上げの発掘演出のために学界を混乱させ、遺物や遺跡も壊したため、一部では刑事告訴せよという意見もありましたが、私はそれに対して懐疑的でした。

もちろん、明らかに刑法に違反する疑いのあることは別ですが、学界を騙して「神の手」としてのし上がったことは、考古学界にも責任があることだと思ったからです

自由な討論の中で、何が正しいのかゆっくり詰め寄っていくのが学問であり、それが無いまま「新しい発掘」を鵜呑みにしたところで騙されたのですから、議論すべきなのは、学術界のずさんさであったはずです。

ですから今回の事件にしても、事態を重く見た東大病院や東京医科歯科大が、自称iPS細胞施術者の論文や研究そのものの再検証に乗り出したと報じられていますが、なぜ、今回の「虚言」の報道になったのか、学術界の論文評価のシステムや研究機関への採用の仕組み、さらには「スクープ」でいい気になった読売新聞の報道体制もあわせて徹底検証すべきだと思います。

余談になりますが、蓮舫という議員が、「仕分けショー」の中で、「2番じゃだめなんですか」と食い下がったことが、今回のノーベル賞受賞で改めて叩かれています。

私は、蓮舫議員の意図や自覚は知りませんが、叩いている人たちとは少し異なる見解を持っています。

仕分けというのは、ただ予算を削るということではなく、ふさわしい予算をつける、ということだと思います。そのために、旧弊を指摘してより健全な仕組みにすることを求めるものだと思います。「無駄金」の搾り出しはその結果なのだと思います。

「1番2番」云々はともかくとして、蓮舫議員が学術界のあり方に迫るという意思があったのなら、それ自体は間違っていなかったと思います。

ところが、当時学術界は、ノーベル賞受賞者たちに会見パフォーマンスをさせました。そうじゃないだろう、学術界がフェアで合理的な社会であることを示し誓うことが大事だろう、と私は歯噛みする思いでした。

私は学者ではないので当事者ヅラしては語れませんが、学術界が前近代的な仕組みや人間関係であることを指摘する者は絶えず、小説やドラマなどでもあかされています。

そんな社会の弱点が、今回の事件に関係しているのではないか、とはいえないでしょうか。

原発と御用学者―湯川秀樹から吉本隆明まで― (さんいちブックレット008)

原発と御用学者―湯川秀樹から吉本隆明まで― (さんいちブックレット008)

  • 作者: 土井 淑平
  • 出版社/メーカー: 三一書房
  • 発売日: 2012/09/06
  • メディア: 単行本


タグ:iPS細胞
nice!(153)  コメント(14)  トラックバック(0) 
共通テーマ:学問

nice! 153

コメント 14

DouxSoleil

先日は、心安らぐお見舞いのお言葉を
本当にありがとうございましたm(__)m

いっぷく様もご家族様も大変な経験を
されたのですね。。
知らなかった事とは言え、心よりお見舞い申し上げます。
皆さま、ご無事でしょうか。

心安らかな日々が続きますように。
これからも、どうぞよろしくお願いいたします^^


by DouxSoleil (2012-10-14 00:36) 

chima

せっかくのノーベル賞なのにこの騒ぎで、
ケチがついてしまったように感じて残念です。
色々見た感じやっぱりねつ造かなと思うので、
どうしてすぐばれる様なことを…と思ってしまうのですが、
原因が個人の資質によるものだけではないとしたら、
そのうちまた起こるんだろうな~と考えてしまいます。
by chima (2012-10-14 00:40) 

bamboo

「2番じゃだめなんですか」の方は、
ただ売り言葉に買い言葉だっただけでは?
by bamboo (2012-10-14 01:23) 

1stdmain

人間がやることですから、学者も政治家も一般の会社もヤクザもみな弱いところも悪いところも同じですよ。
でも医学とか学問は、人の命とか権威とか信用とか背負ってやってるわけだから、間違いに対する風当たりが強いのは当然でしょう。今回も当人の虚言だけで幕引きしちゃったら、じゃあその虚言が通る医学界ってどうよっ、てな話になるわけですね。

by 1stdmain (2012-10-14 01:30) 

旅爺さん

動物実験はおろか、世間にも発表せずに人体で行ったなどあり得ない事と思います。手術された人体を調べればわかるのでは? 1億円拾ったと言えば「俺のだ!”」と名乗り出る人が何人もいるのと同じですね。
by 旅爺さん (2012-10-14 04:47) 

pandan

どうして今回のようなことになったのか
しっかり検証して欲しいですね。
by pandan (2012-10-14 05:23) 

hatumi30331

最近の記者やメディアの質の低下・・・
裏を取らずに載せたという・・・
基本的な、ミスです!
すっかり言いなり? 情けない・・・・^^;
by hatumi30331 (2012-10-14 05:30) 

デジカメ

税金で研究している先生方は、もっと国民や政府に感謝を表明するべきだと思いますよ。
by デジカメ (2012-10-14 06:04) 

リキマルコ

せっかくの受賞が霞んでしまって残念です。
ややこしい世の中ですね。
by リキマルコ (2012-10-14 08:12) 

rtfk

虚言(?)の人は見た感じでは
詐欺師や嘘つきにはどうしても見えないので
何か可哀想な病気ではないかと
心配すらしてしまいます。。。

by rtfk (2012-10-14 09:11) 

えのみ

今回の「iPS細胞」に数十億円投入されるそうですが・・・

by えのみ (2012-10-14 10:15) 

さといも野郎

2番じゃダメなんですか?は、最初から2番狙うつもりで、というのでは、ダメだとおもいますね。
結果的に、2番になってしまうのは、実際ありえる話ですし、仕方ない事もあると思います。
ただし、1番を目標に努力をすることが大事だと思います。

by さといも野郎 (2012-10-14 10:31) 

よいこ

とても不思議な事件ですね
誰かがうそをついているんでしょぅが、本人にまことの部分はなかったのかなぁとも思います
by よいこ (2012-10-15 11:39) 

Ayakikki

ご無沙汰しています。
本稿にご指摘のとおり、確かに現在の学会は閉鎖的すぎますね。
大変な「村社会」です。
しかし、「村社会」だから「専門的価値観」を共有・維持している側面もあり、開放的にしすぎると荒廃するかもしれません。
「構造改革」が必要だとは感じますけど。。。

by Ayakikki (2012-10-20 07:35) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

Copyright © 戦後史の激動 All Rights Reserved.
当サイトのテキスト・画像等すべての転載転用、商用販売を固く禁じます