『山本小鉄の人生大学プロレス学部』(山本小鉄著、実業之日本社)を読みました。今日(8月28日)は、山本小鉄(1941年10月30日~2010年8月28日)の祥月命日です。同書は、プロレスファンにとって興味深い話と、ファンとは限らない一般の人向けの話と、2つの読みどころがあると思いました。
山本小鉄は、
力道山が生前、最後に入門を許可したプロレスラーです。
Google検索画面より
日本プロレスを、
アントニオ猪木とともに脱退して
新日本プロレスを設立しました。
以来、レスラーとして、レフェリーやテレビ解説者として、そしてときにはアントニオ猪木失脚時の社長として、さらに子会社代表として支えながら、タレントとしても、時々テレビやラジオに登場しました。
『山本小鉄の人生大学プロレス学部』を、プロレスファンとして読んで興味深かったのは、一人のレスラーとしての本心を語っていたことです。
具体的には、あれだけ長く連れ添った、アントニオ猪木の人間性をあまりよく言っていません(笑)
そして、新日本プロレス時代はさんざんケナしていた、
ジャイアント馬場に対して、親愛の情を込めた論評をしています。
それまで出した書籍で山本小鉄は、「新日本プロレスこそ一番」という、広告塔的な主張を繰り返してきました。
ファンはきっと、山本小鉄の本というのは、そういうものだと思っていたのではないでしょうか。
新日本プロレスを去ってからの上梓だったからか、本書はこれまでとは全く立場の異なる書籍になっています。
もっとも、古いファンには、これは不思議な話ではないかもしれません。
もともと山本小鉄は、ジャイアント馬場の付き人をしていたマシオ駒と仲が良く、その関係でジャイアント馬場にはずいぶん可愛がられています。
プロレス雑誌で、たまに出てくる日本プロレス時代の写真では、山本小鉄はいつもジャイアント馬場に寄り添っています。
当時(1969年)のNWA世界ヘビー級選手権者、ドリーファンクジュニアが初来日した時、ジャイアント馬場がジャンピングネックブリーカーによって1本先取した時、エプロンで真っ先に拍手していたのは山本小鉄です。
セコンドについている者は、たいがいマットをパンパンと叩いてピンフォールを祝福しますが、拍手というあからさまな態度をとったのは山本小鉄が初めてです。
また、名勝負の一つとして、第6回ワールドリーグ戦(1964年)の前夜祭に行われた、ジャイアント馬場対カリプソ・ハリケーンのフルタイムの攻防をあげています。
1964年のジャイアント馬場(『週刊実話』2014年2月13日号より)
いきさつがあって、新日本プロレスにいったものの、山本小鉄のレスラーとしての本心は、全盛時のジャイアント馬場に対する憧れがあったのだということがわかります。
プロレスにかぎらず、立場を離れると、自由に発言するということはよくあります。
最近では、野中広務氏、加藤紘一氏、古賀誠氏といった自由民主党の歴代幹事長が、日本共産党機関紙『しんぶん赤旗』に登場して話題になりました。
彼らは、いわゆるタカ派ではないという立場の標榜とともに、対抗勢力とも手を結ぶよ、というところを見せて、現執行部を牽制して、自分たちの存在価値を主張しているわけですが、山本小鉄はそうした野心ではなく、レスラーとしての本音から、そう述べているのではないかと私は思います。
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逃げたり、あきらめたりしないでやれるところまでやってみる
山本小鉄は、身長は公称170センチ。
横浜の商業高校を卒業しましたが、背が小さく、スポーツ選手としての実績もないので、この時点ではプロレスラーなんて夢のまた夢。
そこで、会社勤めをしながらボディビルで体を鍛えて入門しました。
それでいながら、相撲、野球、柔道などを経験して入門した、他の大型レスラーに伍して、中堅レスラーとしての地位を確立した生き様を感じさせる名文句が同書には並びます。
「あれこれと悩んでいてもことは解決しません。まず決めてしまう。そして一心不乱に努力する。疑念などはさむ余地もなく目標に向う。そうすれば夢が現実のものになるのです」
「逃げたり、あきらめたりしないでやれるところまでやってみる。そうすればできない悔しさがわきあがってくる。その悔しさがさらなる努力につながり、自分を一歩先に進めてくれるのです。」
「自分の環境は自分にしか変えられないのだ」
「簡単なことでいい。耐えて達成できるものを見つけてください。そして地道に努力すること。そうすればいずれチャンピオンベルトを手にすることができるはずです。」
昭和プロレスファンにはお馴染みの、日本プロレス主力選手が並ぶ写真。
山本小鉄の足元を見ると背伸びをしています。
長身の坂口征二や上田馬之助にはかないませんが、隣の星野勘太郎には負けまいとしているのでしょうか。
少しでも自分を大きく見せるという努力をしているわけですね。
このへんにも、山本小鉄の気骨を感じます。
自分はツイてない、恵まれていない、と思う人を、前向きな気持にさせる書籍だと思います。
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