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『スクラップ集団』高度経済成長への皮肉と諧謔 [懐かし映画・ドラマ]

スクラップ集団

『スクラップ集団』(1968年、松竹)をDVD鑑賞しました。渥美清、露口茂、小沢昭一、三木のり平の4人が、前職を様々な理由で挫折。大阪の釜ヶ崎と呼ばれるあいりん地区に集まり、4人でスクラップ業を営むものの、方向性の違いで仲間割れ。そこでも成功できなかった話です。あいりん地区という、実在の現業系労働者の町を舞台にし、人生や社会をシニカルに描いた点が印象的な作品です。



まず、顔ぶれがめずらしいですね。

渥美清小沢昭一、三木のり平まではいいとして、そこに露口茂が入っています。

太陽にほえろ!』のヤマさんです。


前列右端が山さん

このブログでは、露口茂が週刊誌のインタビューで、「いえ、役者としてもう1度、ということはとくに考えてはいませんね」と、“引退宣言”していることをご紹介しました。

あの人はいま、80年代に輝いていた露口茂、新田恵利など

そして、渥美清、小沢昭一、三木のり平と喜劇の重鎮が揃いましたが、喜劇というには異色のストーリです。

スクラップ集団
『スクラップ集団』より

強いて言うなら、ドタバタやギャグのスラップスティックではなく、諧謔(かいぎゃく)なのだと思います。

スクラップ業が順調だったが……


九州炭鉱地帯の汲み取り業者・ホース(渥美清)は、主婦(石井富子)の頼みでストライキ中に汲み取りをしたことがきっかけで、故郷を捨てざるを得なくなりました。

大阪のケースワーカー・ケース(露口茂)は、訪問していた老人(笠智衆)から、「社会復帰するのでここの最後の夜は娘に思い出を作ってやって欲しい」と依頼され、娘(宮本信子)と関係。ところが、その一家は心中してしまい自責の念で辞職します。

ゴミ拾いのドリーム(小沢昭一)は、ごみの匂いに執着して職務怠慢から解雇されました。

3人は、いわゆる釜ヶ崎といわれるあいりん地区にやってきます。

仕事が上がり、3人が飲んでいる時に知り合ったのが、安楽死を追求して病院にいられなくなったドクター(三木のり平)。

まだこの頃は、がんの告知も一般的ではありませんでしたから、「安楽死」なんて言葉が出てきたのでびっくりです。

ドクターの主導で、4人はスクラップを回収し処理する仕事を始めます。

サーカス団と話をつけ、栄養失調で死んだ象を道端に放置して、それを始末するというパフォーマンスで町の信頼を獲得。

事業は順調に発展しますが、ドクターは九州の廃鉱を買いとって、ホースを派遣して観光事業(炭坑テーマパーク)を開始。

異様な事業的野心に、だんだん他の3人はついていけなくなり、ドリームもゴミ収集場に戻り、ケースもあいりんの労働者になります。

しかし、ホースは炭坑テーマパークの落盤事故で死亡。あとに、ほんの少しだけ家族としての幸せな生活を送った、妻(奈美悦子)と妻の子どもが残されます。

ドリームはゴミ収集場で異常繁殖したネズミに食い殺されてしまいました。

ドクターはテレビ出演し、「わが社は地球すらスクラップできる」と暴走するシーンで物語は終わります。

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高度経済成長時代における消費文化の皮肉と揶揄


原作は野坂昭如。多彩な文化人です。

作品は、三種の神器が普及し始め、白黒テレビからカラーテレビに変わり始める時期で、消費文化に対する「戦後闇市派」としての皮肉や揶揄が込められているなあと思いました。

4人の末路ですが、自分のやりたいことに進んだ、ホースとドリームが死亡。

心中した女性と関係したケースは、その思い出を胸に抱きながら現業系労働者を細々と続けます。

事業欲をむき出しにして人間性が抜け落ちたドクターだけは、テレビCMに出るほど、経済的には成功したようです。

このへんにも、人間の自己実現と幸福の関係が描かれています。

右肩上がりの始まった、高度経済成長の時代に、こういうシニカルで難しい作品が上映されたというのは、当時の映画文化の豊かさや懐の深さを感じました。

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