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『科学と非科学の間(はざま)』科学はいかなる価値に使われるか [(擬似)科学]

『科学と非科学の間(はざま)ー超常現象の流行と教育の役割』(安斎育郎著、かもがわ出版)をご紹介します。初版は1995年でしたが、その後、オウム真理教事件や様々な非合理事件があとを絶たないので、2度増補改訂が行われています。超常現象や疑似科学について、多くの書籍を上梓されている安斎育郎氏の基本的な考え方や立場が示されている入門書的一冊です。

科学と非科学の間

Facebookには、小保方晴子氏ファンのグループがあり、いまだに、というより、ますます参加者が増えているんですね。

小保方晴子氏やSTAP細胞を信じる、という趣旨の投稿が並びます。

昨年の小保方晴子氏の会見の時は、STAP細胞に関する新しい話は何も出てこなかったのに、そんな声がありましたが、その残党なんでしょう。

STAP細胞はできなかったし、それはたんに科学者が発見できなかった「実験の失敗」ではなく、当初から「不正」が指摘され、さらに今年に入ってからは、ES細胞に過ぎない「捏造」であるとの告発も行われています。

もちろん、信じるだの、ファンだのはその人の自由です。

が、STAP細胞は観念ではなく、科学的に答えが出されなければなりません。

科学的に存在の有無をみることと、心のなかで「あるといいな」と願うこととは区別しなければなりません。

そのように、世の中には、科学的な命題と、価値的な命題とがある、というのが『科学と非科学の間(はざま)』の根本的なテーマです。



つまり、「在る」と「思う」は違うということです。

そんなことは当たり前ではないかと思われるでしょうが、小保方晴子氏の件を例に上げるまでもなく、私たちはタテマエしてはわかっていても、その時々でいつも冷静に見極めて判断しているとは限りません。

安斎育郎氏は何も、科学的でないものは全て否定すると言っているわけではありません。

同書で安斎育郎氏は、オカルト・疑似科学にだまされないためには、不思議なことが起こったからといって、すぐに「超」の字をつけるのではなく、なぜと問う心を持ってほしいとしています。
もし、さんざん調べた結果、やはり現代の科学とは矛盾する現象だということが分かったら、素晴らしいことです。そのときこそ、科学が飛躍的に進歩するチャンスです。

そして、科学がいかなる価値観で使われているかを、見極めなければならないとしています。

たとえば、科学者が自分の研究の成果ばかりを求めて、人を傷つける価値に踏み込んでしまった代表的なものが原爆や水爆だとしています。

安斎育郎氏は、原発問題について、デマや風評被害など非科学的な怖がり方を批判しながらも、反原発の立場であることはこれまでに2度ご紹介しました。

『福島県下での放射能調査に取り組んで』安斎育郎氏が訴えることは?
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それだけでなく、平和学者として、疑似科学、カルト宗教など世の中にさまざまはびこるオカルト的事象を、たとえばスプーン曲げなど、ご自身の手品の特技を活かして実際に示す、わかりやすいスタイルで合理的に解明することで有名な方です。

「超能力」で犯人を捜せるのか?
だまし世を生きる知恵、人はいつも何を考えるべきか

自然や社会の仕組みを理解した合理的な努力をする


以前書いたように、私は、安斎育郎氏に、ある団体で9年間お仕えしてきました。

そのせいか私には、何か悩み事があると、「こういうとき、安斎先生だったらどう判断されるだろう」と考えるクセがあります。

安斎育郎氏は、「確かな野党」の機関誌に支持談話を寄せていましたが、その一方で、企業人相手の講演会なども積極的に行っています。

かつて、自民党・公明党の支持を受けて東京都知事選に出馬したことのある、元国際連合事務次長の明石康氏が、立命館大学の国際関係学部に招かれた時は、その豊かな人脈を評価していました。

つまり、特定のセクト以外を排除するのではなく、かといって結局不可知論でしかないノンポリの「中立」でもなく、自分の意見を持ちながらも、異なる立場や考えの人に対しても肯定的、積極的な評価を行う、責任ある前向な考え方の持ち主なのです。

大学の助手時代は、原発に反対したことで、アカハラの経験をして、辛抱強さも身につけたそうです。

お仕えしていた頃、その団体の運営に不満をいだいて不貞腐れていた一本気な私に対して、ふた回りも年上の安斎育郎氏はずいぶん気を使っていました。今思うと、冷や汗がでる思い出です。

その安斎育郎氏は、同書で、自己実現についてこう述べています。

自分の価値を自覚し目標を定めたら、自然や社会の仕組みを理解した合理的な努力をすること。

そのためには、たくさんの本を読んだり、人の意見を聞いたりすることだと。

安斎育郎氏をメンターとする者として、私は決して人格や識見に優れるプロテジェではありませんでしたが、せめてこの「自己実現」のところは何度も見なおして、いつも心がけたいと思っています。

科学と非科学の間(はざま)―超常現象の流行と教育の役割

科学と非科学の間(はざま)―超常現象の流行と教育の役割

  • 作者: 安斎 育郎
  • 出版社/メーカー: かもがわ出版
  • 発売日: 2009/04/01
  • メディア: 単行本


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