『死に花』(2004年、「死に花」製作委員会/東映)を観ました。山崎努、宇津井健、青島幸男、谷啓、長門勇、藤岡琢也という、映画やドラマや舞台で功成り名を遂げた人たちが、老人ホームの入居者としてひと早咲かせようとする役に取り組んでいます。森繁久彌や青島幸男は、本作が遺作になりました。(画像は『死に花』から。左から谷啓、宇津井健、青島幸男、山崎努、藤岡琢也)
↑左から谷啓、山崎努、青島幸男、宇津井健、長門勇
老人ホーム“らくらく長寿園”の入居者、源田金蔵(
藤岡琢也)は、以前から自分が亡くなった時のための棺桶や骨壷などを用意していました。
そして、恋人・貞子(加藤治子)を遺して亡くなります。
金蔵が準備していた自分の葬式は、生前に撮っておいた自分がジャズを歌うビデオを流す演出が。
リアルの藤岡琢也は、ホームドラマで父親役を長く演じてきました。
が、本当は、そういう枠から少し外れた“ちょい悪おやじ”で、ジャズと犬が好きな人だったのです。
その次のシーンでは、何と、高橋昌也と加藤治子という、元夫婦の2ショットシーンが……。
恩讐を超えた共演も、「死に花」だからこそなのでしょう。
劇中、穴池好男(青島幸男)が、女性をナンパするとき、「俺も中野に住んでたんだよ」などと話しており、どこまで脚本かアドリブか、また脚本だとしてもかなり演者のリアルを意識したものだと思いました。
ストーリーに戻ると、源田の遺品には、銀行の地下に穴を掘り、金を強奪する計画が記された「死に花」というタイトルのノートがありました。
映画プロデューサーだった菊島真(山崎努)は、そのノートの内容を、入居者の恋人・明日香鈴子(
松原智恵子)に打ち明けると、彼女はやはり入居者の元銀行員・伊能幸太郎(
宇津井健)、穴池、庄司勝平(
谷啓)らに話してしまい、彼らによって計画を実行することにします。
途中、穴を掘る隅田川沿いに住んでいた、水道工事職人のホームレス・先山六兵衛(長門勇)や、老人ホームの女性職員・井上和子(星野真里)も仲間に加わり、九分通り掘りますが、そこで台風が。
しかし、それが幸いして、穴への浸水から地盤が緩んでビルが倒壊。彼らは17億3千万円をいただくことに成功します。
後日、穴を掘っている時に発見した防空壕にあった人骨と写真が、99歳の入居者・青木老人(
森繁久彌)の妻子のものだったことが判明。
源田は、青木から生前そのことを聞いていたので、「死に花」は、銀行現金強奪を口実にした、実は青木の家族の人骨探しの計画でした。
奪った金をどうするかという話になり、今度はそれを元手に武田信玄の埋蔵金探し、という話になってみんな賛成しましたが、菊島はすでにボケ症状が急激に進み、子ども帰りしてしまったところでエンディングです。
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出演者も歳とったなあという感慨
先日ご紹介した、『
まあだだよ』は、黒澤明監督が遺作と思って何の野心もなく作った作品のように見えましたが、今回の『死に花』は、出演者たちがまさに「最後の仕事」のつもりで演じているように見えました。
DVDには、メイキングも収録されています。
メイキングを見せることには賛否両論ありますが、今回のメイキングは興味深いものがありました。
山崎努との共演を喜んでいた宇津井健でしたが、たしかにラストシーンを撮り終えると、真っ先に出てきて山崎努に握手を求めています。
折り目正しい真面目な人だったのかもしれませんね。
それだけに、亡くなる直前に再婚して、
泉ピン子にもっともな皮肉を言われたのは惜しまれますが……。
谷啓が、この時点で、すっとセリフが出てこない、というような話をしているのも興味深い。
すでに認知症が始まっていたのかもしれません。
森繁久彌が、演技かリアルかわからない「怪演」でしたが、少なくともメイキングでは普通にしていました。
まあ、そうじゃないことがあっても収録はされないでしょうが。
今春、ビートたけしの映画が高齢者ばかりというので話題になりましたが、あちらは失礼ながら、全盛期がよくわからない俳優も「主演8人」の中には含まれていました。
こちらは、以前何の作品に出ていたかが思い出せる人ばかりです。それだけ感情移入もしやすい。
とくに青島幸男。
Gppgle検索画面より
この人の都知事時代は、残念ながらとくに後半は支持できませんでしたが、だからといって、60年代~70年代の放送作家、作詞家、俳優としての仕事を否定する必要はないと思います。
胸を患って学業を中退。1度は人生に絶望したものの、どん底で悩んで自力で吹っ切れてから人生が開けたという生きざまは、たいへん励みになります。
東宝クレージー映画はどうして明るく前向きな気持になれるのか
ですから、この方も、宗教や自己啓発セミナーやポジテイブシンキングなどを一切必要としない人です。
本当に窮地に陥った時、それらは何の役にも立たない。現実と向き合い自分で答えを出して進むしかない、という悟りが作品に反映されていると思います。
それにしても、2015年現在、男性陣の主要な出演者のうち、存命なのは、ボケてしまった菊島真役の山崎努だけになってしまいました。
すべてのものは生成・発展・消滅の道をたどるのでそれは仕方ありませんが、「消滅」直前の仕事ができた出演者たちは、俳優冥利に尽きるのではないでしょうか。
私も、生涯現役の気持ちを持って、前向きに頑張ろうと思いました。
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