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『日本一のゴマすり男』サラリーマンの出世を描くリアリズム喜劇 [東宝昭和喜劇]

『日本一のゴマすり男』(1965年、東宝)が、今月の16日から5日間連続で放送されます。日本映画専門チャンネルと、時代劇専門チャンネルの「戦後70年共同企画」だそうです。クレージー映画を何作もご紹介してきたこのブログですが、まだ『日本一のゴマすり男』は1度も書いたことがなかったので、今回は同作について記事にします。

日本一のゴマすり男
『東宝昭和の爆笑喜劇DVDマガジン』(Vol.4)より

日本映画専門チャンネルと、姉妹局の時代劇専門チャンネルの公式サイトには、同じページが表示されます。

それが「戦後70年共同企画」。

“戦後という時代を生き抜いた映画人と彼らが遺したもの”というキャッチコピーで、具体的には、「植木等劇場」「李香蘭そして山口淑子」「ある日本映画史~長門裕之と津川雅彦の場合~」「監督黒澤明の仕事」「役者仲代達矢の仕事」という、5つのシリーズが今年1月から進行しています。

何が「共同」かというと、この「企画」の開催中に、たとえば黒澤明の作品が、両局で放送されるということです。

その中の「植木等劇場」は、植木等主演、もしくはクレージーキャッツ全員が出演する、いわゆる東宝クレージー映画を1月から集中的に放送しています。

このブログでも、何度かご紹介した『東宝昭和の爆笑喜劇DVDマガジン』(講談社)には、東宝クレージー映画が、全30作中26作が収録されましたが、何と、今回の「戦後70年共同企画」では、30作全てを放送するそうです。

収録漏れした残りの4作を待っていた人も、『東宝昭和の爆笑喜劇DVDマガジン』に買いそびれた号があった人も、今回の企画でいよいよ全てを鑑賞することができるわけです。

「企画」は3ヶ月目に入り、今月放送する作品は、『日本一のゴマすり男』のほかには、『無責任遊侠伝』(1964年)『大冒険』(1965年)『日本一のゴリガン男』(1966年)『クレージーだよ奇想天外』(1966年)などが予定されています。

ネタバレ御免のあらすじ


本作は、植木等の「日本一」シリーズ第3弾にあたります。

植木等が、C調(軽薄で調子がいいこと)で困難をすり抜け、成功するストーリーです。

主人公の中等(植木等)は、社長(進藤英太郎)と同期だった父親のコネで、後藤又自動車に入社(ロケ地は港区のヤナセ自動車)します。

しかし、コネ入社なので期待もされず、仕事は宛名書き。ちゃんとした机もありません。

フルコミッションの直販営業社員・眉子(浜美枝)からは、「閑職正社員に甘んじるくらいなら、私のように独立した身分で車を売らない?」と誘われますが、植木等は、いったん入社した以上、サラリーマンとして成功してみせると啖呵を切ってことわります。

そこからは、植木等は徹底したゴマすり戦術を開始。

係長(人見明)、課長(犬塚弘)、部長(有島一郎)に次々とりいって、とうとう常務(高田稔)の夫人(京塚昌子)まで味方につけてしまいます。

その常務夫妻のパーティーでは、後藤又自動車の会長(東野英次郎)の娘(中尾ミエ)と知り合いますが、彼女が飛行機好きであることを知ります。

すると、アメリカから日本に横断して話題になっていた、日系三世のジョージ箱田(藤田まこと)の滞在するホテルに強引に訪問。彼女を紹介して仲をとりもち感謝されます。

仕事の方は、管理職者たちの嫉妬で、失敗のない宛名書きから、リスクのある営業職に異動になりますが、そこでも着々と実績を重ね、最後はアメリカ・ニューヨーク支社長に就任。浜美枝も射止めるハッピーエンドです。

ゴマすりもサラリーマンには立派な仕事


ゴマすりというと、本来の仕事の実力ではない、裏芸のような後ろめたさがあります。

実際に、映画やドラマでは、実力派がゴマすり野郎に勝つ、というストーリーが多いのですが、本作は違います。

中等の父親役、中村是好が植木等に対して、「ゴマも、すり様で出世の近道。でっかいゴマをすりあててごらん」と言う台詞があります。

当時は(今も基本はそうですが)終身雇用。上がいる限り、普通にやっていても上には行けません。

実力でのし上がるぞとイキがったところで、「出る杭は打たれる」で上司に嫉妬され、チャンスそのものが与えられなければどうにもなりません。

さすれば、サラリーマンが、出世して責任あるポストにつくためなら、敵を作らずゴマをするのも立派な仕事のうちなのだ、という前向きなモチーフでゴマすりが使われています。

考えてみれば、大変なリアリズム映画ですよね。

個人的には、脇役の女優が面白かったです。

一人は常務夫人役の京塚昌子。

京塚昌子
『日本一のゴマすり男』より

喜劇には定番の「近眼」。人が良くて初対面で植木等を信用してしまいます。

もうひとりは、植木等に封筒宛名書きの指示を出す宮田芳子。

宮田芳子
『日本一のゴマすり男』より

自分の仕事まで植木等に押し付けて、こっそり編み物をするお局役です。

「ほら、ちょっとこっちきて」というセリフが、どこにでもいるベテラン女性社員らしくて巧い!

一般には有名ではないかもしれませんが、この当時の東宝喜劇映画にはよく出演していました。

作品が面白くなるには、こういう脇役もきちんと仕事ができなければなりません。

当時の映画は、ニューフェース制度も専属制もあったので、出演者がみんなプロでしたから、安心して見ていられました。

16日から20日まで朝7時から放送です。録画してゆっくり鑑賞されたほういいかもしれませんね。

日本一のゴマすり男 【東宝DVDシネマファンクラブ】

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  • 出版社/メーカー: 東宝
  • メディア: DVD


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