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永島勝司氏の『まぁだま~って読んでみてよ』を黙って読む [スポーツ]

永島勝司

アントニオ猪木の誕生日は2月20日です。そこで今日は、東京スポーツ社の整理部員から、新日本プロレス取締役にヘッドハンティングされた“永島オヤジ”こと永島勝司氏の、プロレス回顧本『プロレス界最強仕掛人 永島オヤジの まぁだま~って読んでみてよ』(晋遊舎)を読んでみました。(画像はGoogle検索画面より)




永島勝司氏は、アントニオ猪木に誘われて、新聞記者から新日本プロレスに転職しました。

以後、アントニオ猪木、坂口征二ら歴代社長といい関係を築き、渉外・企画チーフプロデューサーとして、旧ソ連や北朝鮮でのプロレス興行、「新日本対全日本」「UMFインターナショナル全面戦争」などのヒット企画を生みだし、新日本プロレスの隆盛に貢献しました。

しかし、プロレスファンはご存知かもしれませんが、WJという団体を失敗して味噌をつけ、少なくとも、プロレス界を離れた現在の永島勝司氏の発言は、あまり信用されていません。

そこで、私もそれほど大きな期待はせずに本書読んでみましたが、私が見る限り、「ちゃんとしたこと」が書いてあるように思いました。

252ページ、びっちり組まれています(たぶん15万字ぐらいはある)。

細かい内容をご紹介しても、プロレスファン以外は「何のことやら」と思われるので、詳細が気になる方は実際に読んでいただくことにして、このブログ記事では、永島勝司氏が、アントニオ猪木をどう評価しているかについて、ご紹介しましょう。

「ストロングスタイル」というショーマンシップが旺盛だったアントニオ猪木


アントニオ猪木といえば、プロレスマニアの間でも、ストロングスタイルを標榜し、強さを求めたプロレスラーのようにいわれています。

少なくとも、ジャイアント馬場らと一緒にファイトしていた日本プロレス時代は、誰よりも真面目にトレーニングを積んでいたようです。

ですから、私は、「強さ」を否定するわけではありません。

ただ、そこだけに重きをおくアントニオ猪木論は、本質ではないように思います。

なぜなら、アントニオ猪木は強いといっても最強ではなく、おそらく坂口征二と「ガチ」で戦っていれば、元柔道日本チャンピオンで体位も勝る坂口征二のほうが強いだろうと本書にも書かれています。

猪木信者としたら、受け入れ難いかもしれませんが、格闘技の世界は、体の大きさが武器になります。

さきごろ引退した天龍源一郎は、大相撲という激しい世界で揉まれてきたはずなのに、元野球選手で格闘技経験のない(しかも晩年の)ジャイアント馬場との対戦が「キツかった」と振り返っています。

週刊大衆・天龍源一郎.png
プロレスって、自分より大きい相手とやると、本当にキツいんです。(中略)皆さんは意外と思うかもしれないけど、馬場さんと闘うのもしんどかったですよ。手足が長いし、体は重い。馬場さんがグラウンドでふざけて体重をグーツとかけてきたときは、「コノヤロー!」って本気で頭に来ましたよ(笑)。(『週刊大衆』11月25日号より)

永島勝司氏が言うには、アントニオ猪木にあって坂口征二にないのは、「自分を売り出せると思うものはどんどん利用して打って出る」というプロとしての貪欲さだといいます。

坂口征二は、大学を出て旭化成のサラリーマンだった「普通の人」の時代が長かったからか、常識人です。

生真面目です。

たとえば、アントニオ猪木が、ハルク・ホーガンに“舌を出した失神”で敗れた試合がありました。

本当に失神したら舌など出ません。

猪木は自分の独断で、わざと負けたのです。

IWGPという、団体の看板タイトルがかかった大試合です。

アントニオ猪木が勝たなければ格好つきません。

副社長の坂口征二は、「そんなことは聞いていなかった」と怒り心頭。

「人間不信」と書き置きをして出社拒否をした、ファンの間では有名なエピソードがあります。

アントニオ猪木は、社内の人間も騙してそのような「期待はずれの試合」をして、坂口征二のような常識人の信頼を失い、また観客からは一気にブーイングを喰らいましたが、永島勝司氏にいわせれば、そんな周囲を興奮させたことは大成功なのです。

いい試合とか、良いレスラーとか、そんなことはどうでもいい。

興行に大切なのは、名勝負ではなく好勝負。

しかもその「好」というのは、美しい技を出しあうことではなく、「裏切り」でもいいから観客を興奮させ、また観たくなるようになる「勝負」だといいます。

新宿のデパートで、タイガージェットシンに襲われてみたり、万難を排してとうとうモハメド・アリと試合したりなど、常識人・坂口征二には、最後までアントニオ猪木のショーマンシップやバイタリティーは理解できず、真似もできなかったでしょう。

つまり、ただ自己顕示するというだけでなく、観客をヒートアップさせるドラマツルギーを、なければ自分から作り出していたのがアントニオ猪木の真骨頂なのです。

それは、アントニオ猪木が、有名外人の招聘ルートも持たないところから、新日本プロレスをスタートしたことも一因としてあるでしょう。

一方のジャイアント馬場は、テレビ局や外人ルートをしっかり確保してから、全日本プロレスをスタートさせたために、猪木のように、デパートで襲われるようなことはしなくてもよかったのです。

来日する外国人選手は一流ばかりなので、その個性を生かすことを大前提に試合を組み立てていればよく、外国人レスラーも、アントニオ猪木のように「裏切られる」ことがないので、「ババのオールジャパンのリングは安心できる」という人が多かったわけです。

もちろん、アントニオ猪木のドラマツルギーに魅力を感じていた外国人レスラーもいるでしょうが……。

既存の有力レスラーの商品価値を上手に観客に表現するジャイアント馬場。

既存の商品価値を壊してしまうかもしれないけれど、新しい価値観を創出するアントニオ猪木。

どちらがいいかというのは、プロレス界というより、人間の価値観として永遠のテーマとも言えます。

プロレス界最強仕掛人 永島オヤジの  まぁだま~って読んでみてよ

プロレス界最強仕掛人 永島オヤジの まぁだま~って読んでみてよ

  • 作者: 永島 勝司
  • 出版社/メーカー: 晋遊舎
  • 発売日: 2012/06/08
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


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