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『大学の若大将』高度経済成長の日本に全面開花した青春喜劇 [東宝昭和喜劇]

大学の若大将

『大学の若大将』を鑑賞しました。若大将シリーズの記念すべき第1作目です。シリーズはWOWOWで5月11日から全18作を一挙放送するそうです。昨秋はBSジャパンでも毎週1作ずつ放送していました。若大将シリーズのコンテンツとしての価値は今も高いんですね。(画像は『大学の若大将』より)



若大将シリーズとは、これまでこのブログで何度も取り上げてきた、社長シリーズ、クレージー映画、喜劇駅前シリーズとともに、1960年代の東宝を支えた人気シリーズです。

青春時代が舞台で、途中加山雄三が黒澤明監督の映画に出演して1年ブランクがあるなどして、本数的には他の3シリーズより少しだけ少ない合計17作(81年の『帰ってきた若大将』を入れて18作)です。

ただ、基本的な設定が毎回同じであるのは、若大将シリーズだけです。

主人公の加山雄三演じる田沼雄一は通称“若大将”。飯田蝶子を祖母、有島一郎を父、中真千子を妹に持つすき焼き店「田能久(たのきゅう)」の長男です。

前半は京南大学の大学生。後半は自動車会社に就職し、敵役の“青大将”田中邦衛は会社をいくつも持っている父親の倅。ヒロインは前半が星由里子のすみちゃん。後半は酒井和歌子のせっちゃん。

若大将は、頼まれたら嫌と言えない人のいいボンボンで、喧嘩も強く楽器もできるのだけれど、無謬万能というわけではなく、父親に迷惑ばかりかけて勘当も年中行事です。

それが原因で途中ピンチに陥るのですが、最後は必ずハッピーエンドです。「必ず」なんです。

清く正しく明るく楽しい東宝映画ですが、クレージー映画や駅前シリーズは、必ずしもハッピーエンドとはいえない場合もあります。

社長シリーズも、最後の成約はできるのですが、もうひとつのテーマである浮気はとうとう最後まで成功しませんでした。

しかし、若大将シリーズだけは、すべてがハッピーエンドに終わり、観客を安心して映画館から返してくれます。

具体的には、勘当が解かれ、大学の部活のスポーツ大会で勝ち、青大将にとられかけたすみちゃんと仲直りするだけなんですが(笑)

いえ、他愛無いからといって馬鹿にはできません。

他愛ないからこそ、観る者は安心できるのです。

若大将シリーズも、クレージー映画や社長シリーズ同様、高度経済成長の日本を象徴する映画作品であると思います。

そして、こうした過去の映画が今も求められているのは、なかなか出口の見えない「失われた○年」状態の中で、右肩上がりの時代を知る中高年層が、作品からうかがえる当時の文化や価値観を思い出して、前向きな気持を取り戻そうというニーズがあるのではないかな、なんて思います。

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ネタバレ御免のあらすじ


京南大学法学部政治学科の田沼雄一(加山雄三)は、水泳部のエースで1日5食の大食漢。

講義は代返と早弁のために出ていますが、実家の田能久の常連である教授(左卜全)は、弁当のおかずをひと口ふた口つまんで許してしまいます。

若大将はバンドを作るために月謝を使い込み、水泳部主催のパーティを開いた部員の慰労をするために、常得意の客先にだす霜降りを、祖母・りき(飯田蝶子)からこっそり受け取り、また、集金の金を使い込んだ妹(中真千子)の身代わりにもなったために、父親(有島一郎)から勘当されます。

マネージャーの多胡(江原達治)は、霜降りの鉄板焼きに使う鉄板を探していましたが、トイレに入った時、浄化槽のフタを見て、それを使うことにします。

食べているとき多胡はとぼけていましたが、フタのない浄化槽に足を突っ込んだ管理人(沢村いき雄)が、においをつけたまま部室にやってきて、フタを見つけたことで部員にバレてしまいます。

糞溜めのフタを使ったことがバレる
『大学の若大将』より

いやー、このシーンは、54年も前の映画なのにキョーレツです。

昔の映画は結構すごいシーンがありますね。

若大将は、海のアルバイトをしている時に、溺れていた野村社長(上原謙、加山雄三の実父)とその息子を助けます。

夫人(久慈あさみ)がポラロイドカメラで若大将を撮っていたので、それをもとに若大将の身元を割り出し、娘・千枝子(藤山陽子)の結婚相手にと考えます。

しかし、千枝子は多胡が好きな相手でした。

そこで、若大将は千枝子と見合いをした時に自分に結婚する気はないといい、多胡を紹介します。

一方、水泳大会当日。青大将(田中邦衛)は、すみちゃん(星由里子)とドライブをしています。

すみちゃんは、若大将と、クラブで歌っている北川はるみ(北あけみ)との仲を誤解したのです。

誤解したからといって、すぐ別の男に走るすみちゃんというのも、なんともすごい人です。

でも毎回そういうパターンです。

そして、青大将は不注意からりきをハネてしまいます。

知らせを受け、大会会場から駆けつけて血を提供する若大将。

りきの意識が回復すると、また青大将の運転で大会会場に戻って泳いで優勝するという、スーパーマンの活躍でハッピーエンドです。

病院を往復して、血までとって、自分の出番に間に合って泳げるのか、というツッコミをしてはなりません。

青大将が起こしたのは人身事故なのに、警察の取り調べは?という疑問も棚上げします。

肉親の生血の輸血は医学的には禁忌ではないか、なんていうマジレスも不要です。

観客はハッピーエンドを望んでいるのですから、むずかしいことを考える必要はありません。

このパターンが17作続くのです。

平和で、右肩上がりの時代にピッタリの作品だと思いませんか。

為政者がマスコミに睨みをきかせるような、こんにちの息苦しい時代では、ぜったいに作れないおおらかな作品です。

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