ネットカルマ 邪悪なバーチャル世界からの脱出 (佐々木閑、KADOKAWA) Kindle版 [仏教]
ネットカルマ 邪悪なバーチャル世界からの脱出(佐々木閑、KADOKAWA)は、ネット被害解決をブッダの『法句経』をヒントに提案しています。仏教では、生老病死が誰でも抱える「四苦」といいますが、現代はそこにインターネットを加えるべきだとしています。
『ネットカルマ 邪悪なバーチャル世界からの脱出』(佐々木閑著、角川新書、2018年)の著者、佐々木閑さんは、実家が真宗高田派のお寺だそうです。
京都大学工学部の出身ですが、哲学に転科して仏教学者となりました。
現在、花園大学教授。コロナ禍のネット授業の一部をYouTubeにアップしています。
専門は、釈迦仏教。
以前、『NHK「100分de名著」ブックスブッダ真理のことば』をご紹介しました。
NHK「100分de名著」ブックスブッダ真理のことば(佐々木閑著)は、「お釈迦様の仏教」をその第一人者が『ダンマパダ』から解説。たとえば、もし、あなたにとって大事な人が亡くなったら、仏教的にはどうとらえるか、という話が書かれています。https://t.co/FJSSbjvjuC #仏教 #お釈迦様 #ダンマパダ pic.twitter.com/vBebBYmFiv
— 戦後史の激動 (@blogsengoshi) October 5, 2023
ブッダ(仏陀)というのは、悟った人という意味ですが、狭義にはお釈迦様のことを指します。
ダンマパダ(法句経)は、お釈迦様の教えを記したお経の中でも有名なものですが、同書ではそれを解説しています。
本書は、その現代における応用編といっていいかと思います。
現代社会が生んだ新しい苦
本書は、「ブッダも考えなかった新たな苦しみ」として、「生老病死」という、人生の宿命である四苦に、現代は「インターネットを加えるべきだと思っています」と述べています。
著者は、インターネットの世界には、仏教でいう「業」(ごう)というシステムが存在すると指摘します。
業とは、自分の行いが必ず報いを受けるという因果の法則です。
しかし、その「因果」はかなり強引で、いわれのないといってもいいようなものです。
著者は、インターネットの業を「ネットカルマ」と呼びます。
たとえば、卒アルの写真とか、付き合っていた人との秘め事とか、本人の許可のないまま、ひとたびアップされると、大げさでなく永遠に消えることはありません。
もとの画像を削除しても、キュレーションサイト、アーカイブサイト、個々のユーザーのダウンロードなど、無限にコピペができる世界だから。
怖い話です。
だって、悪いことしても「人の噂も七十五日」で人々の記憶から薄れていくでしょ。
でも、デジタルデータは、劣化せずしっかり残るんですよね。
しかもそれは、いつ、誰が餌食になるかもしれません。本人に過失のある無しは関係ないのです。
本人は、PCもスマホも持っていなくても、無断で昔の写真を晒されるとか。
過去に、配偶者以外の異性と交際して、写真や動画を撮った事がある人は、みなその危険性があります。
みなさん、青春時代を思い出してください(笑)
たとえば、Facebookでは、昔を懐かしむといって、「昔の彼女」とのツーショットをアップする人がいるのですが、相手は必ずしもその後配偶者になっているわけではありません。
おそらくは、その人の許諾なしに「昔だからいいや」とアップされているのでしょう。
だけど、今、その「彼女」の配偶者が、それを見たらどう思うでしょう。
しかも、「彼女」が、現配偶者に対して、「わたし、あなた以外誰とも付き合ったことがないの」と称していたり、その異性は現配偶者も知っている人で、複雑な三角関係だったりシたら、これはちょっとややこしいことになりますよ(汗)
「何だお前、あのときは女の子だけの泊まり旅行と言いながら、男と行ってるじゃねえか。しかもへそ出しビキニ水着で腰に手を回されツーショット」とか。
まあ、そういう隠し事がバレることは、「彼女」に対しては因果応報かもしれませんが、ネットでバラされなければならない理由はないでしょう。別の知り合いだって見ているかもしれないのだし。
私も晒されたことがあります。
高校時代の同級生が、悪気はなかったようですが、Facebookの投稿で、高校時代が懐かしいと称して、卒アルの私のクラ~イ、けだしモテ期のなさそうな画像をアップしていました。
わたしの名誉はどうなる!
つまりそれらは、晒される本人に何ら過失がない、かりになにかやらかしたとしても裁判でそうしても良いと判決が出たわけでもない、無根拠な「私刑」に過ぎません。
画像だけでなく、過去のネット掲示板や、寄稿が掲載されたサイトなどで、過去に炎上したものが、いつまでたっても「動かぬ証拠」として持ち出される。
私は、12年前の火災の話が、エゴサーチするといまだに出てきます。
でもよく読むと、叩かれていることには何の道理もない。
火災は、夫(私)が怪しいとか、歳を取ってからの子どもだとか、「キラキラネーム」呼ばわりとか……。
そんな「因果応報」、「因」には本人の責任はありません。
ことほどさように、著者は、ネットカルマによって苦しむ人たちの例として、ネットいじめ、ネット炎上、ネット中毒、ネット型新宗教などを挙げます。
それらに、どう対応すればいいのか。
2500年前から言われていた教訓
著者は、ネットカルマに対抗するためには、ネットの価値観にとらわれないように、自分自身の価値観を築き、ネット上の仲間とのつながりを大切にすることが必要だと述べます。
その対策として、心を磨く指針に、法句経(ダンマパダ)を引用して解説しているのです。
ひとつだけ引用します。
いや 生まれによって賎しい人となるのではない。 生まれによってバラモンになるのではない。 行為によって賎しい人ともなり、 行為によってバラモンともなる。
スッタニパータ第一ー一四二
ここでいう「バラモン」とは、インドの高僧の地位のことです。
要するに、「人の値打ちは生まれや血筋ではなく、その人が何をなし、また何をなさなかったかで決まる」と言っているわけです。
本書では、こう解説されています。
インフルエンサーだから信用しよう。ホリエモンはIQが高いみたいだから信用しよう。前澤さんはお金をばらまくほど持っている成功者だから信用しよう。……etc
いやいや、肩書や売り出し方に惑わされちゃだめだよと。
「いくら有名な人が言った言葉でも、いくら上手に書かれている記事であっても、それを鵜呑みにすることなく、合理性のある言葉と不合理な言葉を明確に区分けできる感性・知性を養っておくことが大切です。そして、そうした感性・知性を養ってくれるのは、ネット上の断片的な情報ではなく、体系だった思想や学問、そして実社会での経験なのです。」と書かれています。
ホリエモンや前澤さんの名前は、本書に書かれていたわけではなく、私がわかりやすくなるよう付け足しました(笑)
現代なら当たり前のように言われることでも、古代のインドで、そういうことが言われてたというのはすごいですね。
逆に言うと、現代人は、2500年も前に言われたことを、未だに克服できていない、凡夫の衆生ということです。
困りましたね。
私は、この本を読み、「その通り!」と膝を打ち、本格的に研究しようと思い、修士論文の研究計画書を書きかけたのですが、残念ながら、先行研究が本書のみなので、基礎となる文献研究が成立せず、断念しました。
私のような一学修者ではなく、博士の学位を取られた仏教学の大家のみなさん、ぜひこの研究を深めていただきたいですね。
おすすめの一冊です。
ネットカルマ 邪悪なバーチャル世界からの脱出 (角川新書) - 佐々木 閑
2023-12-07 01:00
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コメント(7)
性善説では解決しないので、晒した方のペナルティも必要かと(´・ω・`)
by 赤面症 (2023-12-07 01:11)
おはようございます^^
わたくしも被害をこうむりましたね。
ネットって怖いですね。
by mm (2023-12-07 06:20)
生まれ性別年齢関係無く何見て何をしたか、で決まると思うんですよ人格って。けどクソのような親を見てそうなるかならないかはその子の気持ち次第なんだろうけどそれもやっぱ難しい問題なんだろうなと。
by pn (2023-12-07 06:30)
おはようございます!
難しいです (*-*)!
by Take-Zee (2023-12-07 07:59)
>現代人は、2500年も前に言われたことを、未だに克服できていない、凡夫の衆生ということです。
イターネットの犯す過ちをブッダの言葉で説くというのは素晴らしい発案ですね。実際にブッダの時代にはネット社会は登場していませんでしたから、教えの中にも直接の答えはなかったでしょう。それを現代に翻訳するというのは現代人の業(わざ)ですね。
by 扶侶夢 (2023-12-07 08:45)
ネットの普及の光と影、ですね・・・
by mayu (2023-12-07 21:59)
ネットは見なきゃ良いと言う法則も成り立ったり。
SNSなんてやらないので全然気にならないと(笑)。
by tai-yama (2023-12-07 22:50)