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他人の不幸を願う人(片田珠美著、中央公論新社) [社会]

他人の不幸を願う人(片田珠美著、中央公論新社)

他人の不幸を願う人(片田珠美著、中央公論新社)は、不幸が「蜜」どころか「主食」になった理由とその欲望の先に迫ります。著者は、その原因に「羨望」を挙げていますが、私は自分の経験から、ことはそう単純ではないような気がしました。



他人の不幸は蜜の味、というのは昔から言われることです。

しかし、最近は「蜜」どころか、「主食」と言えるほど貪欲に感じます。

芸能人などがトラブルを起こすと、その不幸を醜悪なまでに追及し、叩きまくります。

その叩きは、自分できちんと取材や論考をしたわけではない。

要するに、叩くことが目的化している。

しかも、叩くのは事件の「加害者」だけでなく、ときには「被害者」も。

子どもが行方不明というと、親を叩く。

中には、勝手な憶測で「親が犯人だ」と決めつけて叩く。

もう常軌を逸しています。

著者は、その背景には「羨望」「自己愛」「利得」などがあるとしています。

「鬼女」は正しいのか


本書は、著名人を叩くネット民の心のさもしさが、いったいどこからくるのか、ということから、話を始めています。

著者によると、他人の不幸を願う最大の要因は、「他人の幸福が我慢できない怒り」、それはすなわち羨望だといいます。

Web掲示板でお馴染みの「鬼女」について、本書では「女の幸せを許さない」ひとつの事例としてとりあげています。

鬼女」ってご存知ですか。

ネット上で使われる言葉で、既婚女性のことを指します。

夫やママ友の悪口を書き込んでいるうちはまだしも、刑事でも探偵でもないくせに、SNSの位置情報や、投稿や画像に書かれている内容をヒントに、有名人の不祥事を調査したり、事件・事故の加害者・被害者「一般人」の住所や卒アル写真などを探し出して晒したりする手合いです。

「そんなもん、わざわざ調べてご苦労だなあ」と思いますか。

実際に現場に行って、調べてるわけではなくて、ネットに落ちているありとあらゆる情報をかき集めて分析しているんです。

先日もご紹介した、rの住人ピエロ【哲学】さんが解説しています。


みなさんが、自宅の画像とかブログにアップするでしょ?

それが、どこの場所かを調べ上げるんですよ。

点在するわずかなヒントも結びつけて、個人情報を暴くのです。

たとえば、歯型チーズ事件などはそのひとつです。

スーパーで、子供がチーズに歯形をつけて母親が投稿。

そのチーズを買わなかったことでネットは炎上しました。

ま、そんな「へずまりゅう」みたいなことやったら、批判されるのは当然でしょう。

問題は、その投稿画像1枚で、本名、年齢、体重、両親の写真、家族構成(半家系図)、母親の卒アル写真、そして虐待の疑いまでも特定したことです。

たった1つの画像から、刑事でも探偵でもない一般の主婦がそこまで調べ上げたのです


何が問題かと言うと、この「ノウハウ」が、こういう「へずまりゅう」な親だけでなく、何も悪いことをしていない人に対するストーカーのノウハウに使われていることです。

気持ち悪いでしょ。

そんな能力と情熱があるんなら、仕事などにいかせよって思いますよね。

彼女たちにとっては、他人を叩く気持ちこそが、その超人的な行為に駆り立てるらしいのです。

「鬼女」について、本書では「女の幸せを許さない」ひとつの事例としてとりあげています。

それ自体は大いに同意できます。

ただ、本書には「鬼女」は「正しいこと」を振りかざして対象を叩くとも書かれているのですが、私はそもそも「鬼女」に、執拗に振りかざすほどの正しさがあるとは思いません。

たとえば、「鬼女」は高齢出産というと、異常な執着で叩きます。

そして、母体の安全性や胎児の「リスク」、産んだ後の子育ての大変さを説きます。

しかし、若ければ母体は安全なのか、ダウン症など染色体異常児は高齢だから生まれるのか、といえば必ずしもそうではありません。

それに、これはあまりいわれていないことですが、「若いときの出産」は、医学的にはより安全であっても、実は現代社会では老々介護という社会的な矛盾にぶち当たるのです。

つまり、親と子の歳が近いほど、後になってから困るのです。

だって、自分が定年過ぎたら、やっと親が後期高齢者なんですよ。

自分の体が若いうちに、親を見送れないんですよ。

高齢出産の子育てよりもずっと大変だろうと私は思いますが、「鬼女」は絶対にそのような視点は語りません。

今の社会的な未熟さを考えると、親と子がある程度歳が離れるのは、むしろ必然であると私は思います。

高齢出産を奨励するという意味ではなく、高齢にならざるをえない現状の克服を目指すとともに、医学で可能なことならカバーするという見方は大切だろうということです。

すべてが羨望とは限らない


本書は、「他人の不幸を願う」理由は、冒頭に書いたように、「羨望」「自己愛」「利得」などがあるとしています。

しかし、「羨望」と「利得」については、私は体験上も疑問を感じる点もあります。

たとえば、私は12年前に火災を経験しましたが、その際、全国ネットのニュースで2日間にわたって丁寧に報じられました。

ネットでは何を書かれたかというと、「夫が怪しい」。

NHKと共同通信は事件と決めつけ、たかが無名の一庶民の火災を2日またぎで報道。

ただ、少なくとも「火災に関する」書き込みという意味では「マシ?」な方で

中には、私の子供について、歳をとってからの子であることをからかったり、子供の名前がキラキラネームであると断じたりしていました。(それ、火災と何の関係があるの?)

私の身分に関係なく、たんに人の不幸が楽しいことと、わずかな報道で自分の都合がいい(叩きやすい)ように出来事を思い描く「思い込み」が強いだけだろうと思います。

それは、連中の「自己愛」ではあるけれど、「羨望」とまではいえないでしょう。

たとえば、同和や在日外国人差別にしても、差別する側は、「羨望」を感じているから差別しているわけでないでしょう。


「へずまりゅう」な主婦にしろ、私にしろ、叩いたとしても、叩いた連中が得する訳では無い。

つまり、時間とエネルギーを使って正体暴きをしても、「利得」もありません。

別に表彰されるわけでも、賞金がもらえるわけでもないし。

でも叩く。なぜ?

「自己愛」であることは間違いなさそうですが、そこまで打ち込んでしまう理由は、さらに深い「心の闇」があるように思います。

みなさんは、どう思われますか。

他人の不幸を願う人 (中公新書ラクレ) - 片田 珠美
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コメント 10

赤面症

人間の原罪ですね
by 赤面症 (2023-11-19 01:12) 

mm

おはようございます^^
理由はいろいろあるのでしょうが、わたくしは多分人の不幸を願う、喜ぶ人はその人自身「幸福じゃない」人なんだろうなーと思います。自分の生活が安定、幸福であれば人様の不幸は「気の毒」と思うだけだろうと。
by mm (2023-11-19 06:54) 

tarou

お早うございます、出石城跡にコメントを
有難うございました。
野面積みの石垣が当時のまま残り、城の一部が
再建され昔の城下町の様子が分かるようでした。
他人の不幸を思うのは自由ですが、調べずに
発信、増幅してはいけませんね。
by tarou (2023-11-19 07:06) 

pn

叩く事によって自分を正当化してるんだろうと思ってるけど正義と暴力は紙一重で、そもそもその正義は誰の為って話。
私人逮捕YouTuberでしたっけか、あれなんてまさに自己利益のためだしネットで高卒中卒ボロクソに言ってる奴らは大卒なんだろうけど大企業に入れたのかなと。
他人の不幸を叩く行為って自慰でもあり自虐でもあるのではなかろうかと。
by pn (2023-11-19 10:11) 

プー太の父

便利ですが恐ろしい世の中です。被害者なのに多くの他人に中傷されるなど、ネット時代の副産物のようなことがたくさん起きてますね。

by プー太の父 (2023-11-19 14:40) 

ムサシママ

衣食住が十分に足りて暇な時間がたっぷりと出来、
情報過多により頭がおかしくなっているのでしょうか?
他人をどうこう言う前に自分はどうなのよ?と問いたいです
将来、年を取って自分がしたことについて考える時がきっとくるでしょう
悪運が強くない限り全て自分に返ってきます
by ムサシママ (2023-11-19 15:01) 

猫の友 メルティー

家庭や学校でどう育ってきたか?
単純ではありませんが、関係しているようにおもいます。

by 猫の友 メルティー (2023-11-19 15:37) 

kome

なんとなく怖くて全部読みませんでした。
最近は、良いことはして悪いことはしないよう心掛けています。
by kome (2023-11-19 17:50) 

Take-Zee

こんばんは!
人間の心の片隅にはそんな気持が
あるような気もしますが・・・(^-^)!!

by Take-Zee (2023-11-19 18:43) 

tai-yama

動物愛護クレーマーとおんなじですね。
正義感に酔いしれているだけと。
正義も利得もくそもないのに・・・・
by tai-yama (2023-11-19 22:53) 

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