ブラックジャックによろしく(佐藤秀峰作、佐藤漫画製作所)は、研修医が経験する医学的テーマや医師と患者の距離感を描いた漫画です。医学・医療の問題点や議論すべて点への接近を行う一方で、主人公のキャラクターやストーリー展開には賛否両論のようです。
『ブラックジャックによろしく』は、佐藤秀峰さんが佐藤漫画製作所から上梓しています。
13巻までが正編、それ以降の9巻は「新」がつきます。
ストーリーは、名門永禄大学を卒業した斉藤英二郎が、同大学附属病院の研修医として各科をまわり、それぞれの医学・医療的課題点、矛盾、患者や家族との葛藤などを経験する話です。
2003年にTBS系列でテレビドラマ化もされています。
異性の友達に臓器をあげられるか?
本書は、最初読むと、医師の志を高く持つ純粋な研修医が、体を張って医局の矛盾に切り込んでいくストーリーと思います。
しかし、よく読んでみると、そうとばかりもいえないような気がしました。
具体的な対決についてはお読みいただきたいのですが、研修医個人の理屈や正義感が、医局の「権威」や「利益」と対決するだけでなく、肝心の受け持ち患者とも対立します。
斉藤英二郎は、結局自分の「こうあるべきだ」という考えでしつこく動き、医局も患者も引っ掻き回している病院の「有名人」なのです。
いつもそれでトラブルを起こし、交際しているNICUの看護師も泣かせ、破局します。
その背景には、恋人でもない同僚の女性看護師に腎臓をあげてしまうのですが、その女性は別の男性と結婚します。
そりゃ、恋人からシたら、「異性の友達」に臓器まであげる人なんか、嫌でしょう。
そういう医師の話です。
ネットのレビューを見ても、主人公のキャラ設定と他の登場人物による彼への評価には賛否両論ですね。
ですから、実際に読まれた方が、どうであるかをむしろ私は知りたいです。
印象に残ったテーマ2題
作品のテーマは、今の医学で議論されている、つまり価値観の違いで意見が分かれることにフォーカスしています。
何も知らない人からすると衝撃かも知れません。
私も「そうなのかー」と考えさせられることはありました。
が、中には、「違うんじゃない?」ということもあったし、すでに自分で経験済みなので、作者が狙ったほど重くは感じないこともありました。
障害のある子どもは要らないのか?
たとえば、双子の一人がダウン症で、その子の方が生き残った話。
漫画によると、父親はさんざん悩み、いったんは夫婦別れまでして、でも最後はダウン症の子を受け入れるというストーリーを、長々と描いています。
障害児の親に、夫婦別れが多い事自体、私の感覚ではリアリティがあります。
私は、人間には限界があるので、夫婦関係が破綻したり、シングルマザーでは育てきれずに施設に預けたりすることは責めるつもりはありません。
ただ、いずれにしても、この漫画のように、ずーっと引きずるほどの話とも思いません。
作者自身に、差別の気持ちがあるからじゃないのかって勘ぐったほどです。
障害児を忌み嫌う一方で、生むと決めているから、出生前診断とか羊水検査とか、事前検査は一切しないというご夫婦だってたくさんいますよ。
だって、考えてみてください。
生まれた時はなんでもなくても、少し経ってから、発達障害がわかることだってあります。
他害で、人に手をかけてばかりで、いつもハラハラさせられるかもしれない。
自閉で、言葉も出ないコミュニケーションも苦手になるかもしれない。
健常児として生まれても、私の子のように病気や怪我による中途障害で、体が不自由になったり、脳に障害を負ったりするかもしれません。
そうなったら、寝たきりになるかもしれないんですよ。
たとえ元気で育っても、大きくなってから、なにか事件を起こして社会にご迷惑をかけ、賠償金を払う羽目になり、親は人生を棒に振るかもしれません。
そういう子にならない保証は、どこにもありません。
子を生み育てるというのは、本来そういうリスクに満ちており、ダウン症の子だったらどうしようなんて話は、しょせんその中の一つに過ぎないんですよ。
そういう覚悟のない人は、最初から子を生み育てようなんて考えないことです。
健常者が、何事もなく成人して次の世代の子孫を残せるというのは、実は大変運のいいことなんです。
0歳児の平均余命(つまり平均寿命)が有数の長寿国だから、普通に結婚して子や孫ができて長生きするのが当たり前と、ついおめでたく勘違いしちゃうんですけどね。
障碍があってもなくても、人を育てる楽しさに変わりはありません!
遷延性意識障害
患者が、遷延性意識障害になった話がありました。
これも私は子で経験済みです。
遷延性意識障害というのは、3か月以上に渡って自分で自分の体を動かすことも、食事や排泄、発語などもできない状態のこと。
植物状態(植物人間)なんていわれますね。
ただし、遷延性意識障害というのは確定した障害ではなく、「そういう状態」という障害名です。
というのは、まれにそこから回復することがあるからです。
統計では6人に1人ぐらいですかね。私の長男がそうでしたが、でもだからといって原状復帰できるほど甘くはなく、「高次脳機能障害」に悩まされるんですが、その話は今回は措きます。
遷延性意識障害は、普通はそのままの状態が何年も続くため、病院からは追い出されます。
普通の病院は急性期を対象としていて、3ヶ月を超える入院は、診療報酬をカットされるのです。
ではどこへ行くかというと、いわゆる療養型病院。
一般病院よりも医師や看護師が少ない数で運営でき、医療費の削減を目的に設立されています。
積極的な治療などは期待できません。
そんな絶望的な話が描かれています。
引き込まれる面白さ
しかし、そうしてみると、これほど重い漫画の題材になるような経験を、私は2つもしているんですね。
漫画が重いだけでなく、自分や家族の不幸な人生を再確認することになり、二重に重い気持ちになりました。
それはともかく、話題になった漫画ですし、引き込まれるおもしろさはあると思います。
関心のある方は、読まれてはいかがでしょうか。
ブラックジャックによろしく 完全版 1巻 - 佐藤 秀峰
障害の話は、触れてはいけないものという遠慮があるかも
by 赤面症 (2023-11-02 01:21)
ケンシロウによろしくって漫画もあるんですが、上手く他の漫画を使ってるなと。
by pn (2023-11-02 06:15)
おはようございます!
漫画のブラックジャック知らない爺さんです・・(*-*)!
by Take-Zee (2023-11-02 07:46)
難しすぎる問題ですね
単に子供がいないと嘆いてる私が無意味に思えてきます
by ムサシママ (2023-11-02 11:47)
元ネタのブラックジャックも重い話が多いので・・・
「普通に結婚して子や孫ができて長生きするのが当たり前」
確かにこれは当たり前のことではないのかも。
by tai-yama (2023-11-02 22:37)