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ケーキの切れない非行少年たち(宮口幸治/鈴木マサカズ、新潮社) [社会]

ケーキの切れない非行少年たち(宮口幸治/鈴木マサカズ、新潮社)

ケーキの切れない非行少年たち(宮口幸治/鈴木マサカズ、新潮社)は、累計60万部を突破したといわれる話題の新書を漫画化した書籍です。少年院に収監される非行少年たちには、少なくない確率で境界知能(IQ71~85未満)の少年がいるといいます。しかし、本書は軽度の知的障害、発達障害への偏見を助長しかねない内容でもあり、これほど不快な読後感に陥った書籍はありません。



ケーキの切れない非行少年たち

この書籍のタイトルは、結構話題になったので、ご存じの方も多いのではないでしょうか。

本書『ケーキの切れない非行少年たち』は、宮口幸治さんの同名のベストセラーを、鈴木マサカズさんが漫画化して新潮社から上梓したものです。

私も、最初は興味がありました。

どんな心の闇を解明してくれるのだろうと期待しました。

しかし、その期待は、見事に裏切られました。

反人権的で被害者のためにもならない


本書の内容はシンプルで、児童精神科医である六麦克彦が、少年院の非行少年を診た印象話です。

「ケーキの切れない」というのは、丸いケーキを3等分できない、という意味です。

では、非行少年たちは、なぜケーキを3等分できないのか。

私は最初、家庭環境とか、非行に走る共通した「闇」があり、精神的な疾患につながっているのかと思いました。

しかし、本書によると、たんに、知的障害者(IQ71~85未満の境界知能)だから、ということでした。

少年院には、認知力が弱く、「ケーキを等分に切る」ことすら出来ない非行少年が大勢いる、と描いています。

少年犯罪者は、知能が足りないからケーキすら切れない。

そういう話でした。

しかし、それがなぜ社会的に問題なのかは、全く解明されていません。

いっちゃなんですが、一応健常者の範囲でも、偏差値40ぐらいの学校だったら、アルファベットも、分数計算もわからない高校生だっていますよ。

その人たちは、ケーキちゃんと切れるんですかねーー。

そういう人たちへの調査はしていません。

何を言いたいかというと、「ケーキを等分に切る」ことすら出来ないことと、知的障害と、少年犯罪者、ということの間に相関関係があるという統計的な根拠は全く示されておらず、たんに、精神科医の限られたサンプル観察による印象しか書かれていない、ということです。

ふざけんな、です。

特別支援学校には、境界知能にすら満たない児童・生徒がいます。

境界知能で犯罪者だったら、その子達はいったいなんだというのでしょうか。

たとえば、私は幼稚園の頃などは、12色クレヨンを与えられても水色だけで描いていたので、今なら発達障害を疑われていたでしょう。

でもね、真相は、複数の色を使い分けて描いてもいいというルールを知らず、幼稚園の先生から「これで描け」と、水色のクレヨンを握らされたから、他の色を勝手に使ったら怒られると思ってそれだけで描いていたんです。

要するに、使いかたを知らなかったのと、気が弱くて先生に確認できなかっただけだったんですけどね。

これは、知能が低いとか色弱とか発達障害とかいうことではなく、たんに気が弱くて機転が利かないだけであり、要するに本書についても、ケーキを切れないからと言って知能や犯罪性とただちに連関するものかどうかはわからない と思うんです。

ことほどさように、知能や脳障害と、ケーキの切り方を合理的根拠なしに結びつけるこの著者の言い分には実感がわかず、何抜かしてケツカル、という感想しかありません。

だって、ケーキの切り方なんて、知能というよりトンチですよ。

だったら伺いますけどね、IQ130なら罪は絶対オカさないのですか。そんなことないでしょ。

それとも、高知能者の犯ザイは「いい犯ザイ」で、発達障害や知的障害者の犯ザイは、読み物や漫画のネタにしてもいい「憎むべき犯ザイ」なのか。

そうじゃないでしょう。

ケーキを3等分に切れるハン罪者なら許してもいいのか。

そうじゃないのなら、なぜ少年院の中で、ケーキを切れない子だけをピックアップする必要があるのか。

それは、発達障害や知的障害をピックアップしたい口実と勘ぐることもできます。

事件被害者からしたら、そんなピックアップに何の意味があるのか。

手をかけたのが障碍者なら許せないが、高い知能なら許せるのか。

そういわれても仕方のない、人権上の疑義を感じる書籍です。

くだらないという読後感しかなかった


原作者は、本書の目的は3つあるとしています。

1つ目は、世間にこういった少年たちの存在を知ってもらい、犯ザイに至った人たちに対して憎しみ以外の観点でも見てほしいということ。

2つ目は、小・中学校で障害に気づかれていない子どもたちを早期に見つけてほしいこと、そして非行に走らないよう力を貸してほしいこと。

3つ目は、これを読んで少年院の教官や医師のイメージをもってもらい、少年院といった矯正施設で働いてみたいと思う人たちが少しでも増えてほしいこと。

綺麗事を書いていますが、「憎しみ以外」というけれど、だったらこの限りでは「哀れみ」しか感じようがないでしょう。

要するに、悪いことをして少年院に入った子供の中には、知的障害があってスポイルされた者もいる。

そのへん理解してやろうぜ、という上から目線の居丈高な話なんですよね。

「障害に気づかれていない子どもたちを早期に見つけてほしい」といいますが、まず、ケーキを切れるかどうかだけで線引することに学術的な根拠はありません。

そして何より、本書が、知的障害はあっても罪を犯すことはない、多くの知的障害者に、世間からの誤解や警戒を抱かせるものである ことを、この著者は考えていません。

もちろん、障碍者に対して「理解と支援」は必要ですが、このように恣意的な線引をしてピックアップをした上で、「でも彼らは事情がある。可哀想な奴らなんだ」といっても、障碍のある当事者は喜ばないと思います。

ということで、正直、今回は全く賛成できません。

こんな嫌な気になる書籍は、Kindleを読むようになって以来、初めてです。

結論は、センセーショナルなタイトルの本には気をつけろ。

中身がくだらないから、目を引くタイトルで本を買わせるしかないのです。

その手の本、あるでしょ。

安くて読み捨てならまあいいですけど、新書版やハードカバーなどは、レビューとか、しっかり読んでから買われることをお勧めします。

また、本書について異なる読後感の方、ご意見ありましたらお願いします。

ケーキの切れない非行少年たち 1巻: バンチコミックス - 宮口幸治, 鈴木マサカズ, 鈴木 マサカズ
ケーキの切れない非行少年たち 1巻: バンチコミックス - 宮口幸治, 鈴木マサカズ, 鈴木 マサカズ
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赤面症

レッテルを貼りたいのですね
by 赤面症 (2023-10-26 01:10) 

Enrique

ケーキを真っ直ぐ三等分するのは結構難しいですよ。
著者もできないと思いますね。
by Enrique (2023-10-26 06:06) 

pn

厳密に言えば4等分だって難しいんだがなぁ。
by pn (2023-10-26 06:20) 

Take-Zee

おはようございます!
分度器で120度分ずつ切ろうと考えてしまいました!

by Take-Zee (2023-10-26 08:33) 

扶侶夢

この書籍がベストセラーの類いに置かれているとは…恐ろしいことです。書店で何度も見かけましたが興味をそそられなかったので読んでいません。タイトルは多分編集者が売れると思って付けたのでしょうね。
by 扶侶夢 (2023-10-26 10:17) 

HOLDON

読んでないです。
見かけませんでしたが、たとえ見かけても手に取らないでしょう。
すぐ差別的な書物とわかります。
だいたい「非行少年」という言葉を軽々しく扱うのが気に入りません。
by HOLDON (2023-10-26 11:42) 

tsumutak

書籍のタイトルは編集者が決めることが多いですからね
作者はタイトルに関しては案外無頓着というか、センスが悪いことが多い
by tsumutak (2023-10-26 14:28) 

ムサシママ

読んではいませんがおっしゃられるとおりです
何抜かしてケツカル←同感です
by ムサシママ (2023-10-26 15:05) 

いっぷく

腹が立ったので、こなれていない文章になってしまいました。整理しますと。

1.本書は知的障害者について、「犯罪は障害のせい」と言いたいようなのですが、本当にそうなのか、つまり障害のあるなしと関係ない犯罪だってあると思うので、それは実は障碍者を人として「みそっかす」に見ているからこその「温情」になってしまいます。しょせんショーガイシャだからさ、みたいな感じで。
2.少年院において、ケーキを切れない⇒知的障害者認定をすることは、少年犯罪者は知的障害者だけではないのに、少年犯罪者=知的障害者との色眼鏡の温床になる
3.障害のない「ケーキを切れない人」も、障碍者扱いされて罪をメン罪される
などなど、弊害があると思います。

知的障害と犯罪について相関関係を調べたいのなら、自分の限られた症例だけでなく、きちんと学術的に有意な調査をしていただきたいですね。
by いっぷく (2023-10-26 16:28) 

tai-yama

寸分違わぬに3等分できる人なんていない気もしたり。
by tai-yama (2023-10-26 23:07) 

そらへい

このタイトル、書店では時々引っかかっていました。
読まなくてよかったようで助かりました。
時間、お金を無駄にして
なお、不愉快な気分にさせられたらたまりませんね。
by そらへい (2023-10-28 10:31) 

kgoto

いっぷくさんのご意見、
激しく賛同いたします。
by kgoto (2023-10-28 21:25) 

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