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若年性アルツハイマー認知症に苦悩する主婦を描いた『私がいなくなる』 [健康]

若年性アルツハイマー認知症に苦悩する主婦を描いた『私がいなくなる』

若年性アルツハイマー認知症に苦悩する主婦を描いた『私がいなくなる』は、なかのゆみさんの『貧困の家 (1)』(ぶんか社)に収載されています。18歳~64歳までに発症するアルツハイマー型の認知症で、患者数は全国で10万人とも推定されています。



若年性アルツハイマー認知症を題材にしているのは、なかのゆみさんの『私がいなくなる』という漫画です。

『貧困の家 (1)』という単行本に収載され、ぶんか社から上梓しています。

ストーリーな女たち、というシリーズ名がついています。

同書は、「貧困」というテーマになっていますが、いじめや難病などをテーマとする物語も含まれており、たんに金銭的なことだけではなく、「心の豊かさ」が欠けた状態、というテーマの物語が5編収録されています。

冷たいひまわり……いじめ問題
つぶされた心……借金の連帯保証人がきっかけになった家族離散
大借金……父親の借金とは断絶
私がいなくなる……若年性アルツハイマー認知症に罹った主婦
襲う激痛……繊維筋痛症を患った夫に寄り添い解決を模索した家族

今回は、『私がいなくなる』をご紹介します。

認知症になっても母親は母親


「お母さん。味噌汁にみそが入ってないよ」

中学生の息子に注意されるお母さん、花坂友子。

最近、物忘れが多くなってきたと自覚しています。

「今夜は鍋が良いな」とリクエストする夫。

友子は、物忘れの自覚症状があるので、「鍋料理」とメモしています。

息子はカツカレーがいいと言いましたが、それはメモしませんでした。

そして、夫と息子を送り出した後……

「あら、私、なにをするつもりだっけ。今日はお布団ほしちゃおう。あれ、息子は夕食なにがいいって言ってたっけ。まあ、いいか。後で思い出すこともあるし」

パートに出る友子。

「10年間、この会社でパートをしているけど、最近みんなの目が怖い。時々、私がミスしたり、仕事が遅いせいだと思うけど」

「花坂さん。これ、市川の鈴木さんに届けてきてくれないか」

ところが、友子は市川の場所もわからず、鈴木さんも思い出せません。

「もう仕事をするのは、限界かもしれない」

こういうことは初めてではないようで、上司はブチ切れます。

「今までお世話になりました」

10年働いた割には、あっけない最後でした。

もっと早く、自分から退職すべきだったと後悔する友子。

病院では、若年性アルツハイマー認知症と診断されます。

「若くても、病気になってしまう人がいます。今度、ご主人にもきてもらわないと」と医師に言われる友子。

息子がまだ中3なのに、私の脳が壊れていくなんて、いつか自分で自分がわからなくなってしまう日が来る。

私が生きていても、私の人格が消えてしまう。私がいなくなる。

どうしよう。怖いわ。これからどうすればいいの。

友子は、病院の先生から言われたように、名前と情緒をメモ書きし、「私はアルツハイマーです。この住所に連絡してください」と書き添えてかばんの中に入れます。

夕食は、なにを頼まれたのかも忘れてしまいました。

自分でも、どこを歩いているかわかりません。

歩道橋にいる中年男性に尋ねようと思ったところ、その人はそこから飛び降りようとしていました。

必死に止める友子。

「死なせてくれよ。リストラされて1年。どこも雇ってくれないんだ。家のローンや子供の教育費などで、もう借金だらけで。オレが死んだら保険金が入る。それしか方法がないんだ」

死ぬ気なら何でもできる、と諭す友子。

「私も今日、会社クビになったの。今、4万あるわ。奢ってあげる。飲もう」

後で書きますが、ここは私は眉をひそめました。

「そのかわり、私をこの住所まで送って欲しいの。そのお礼よ」

と、先程のメモを差し出します。

「えっ?あんたボケてんのかい?オレより若いのに…」

その日、友子は暴飲します。

そして、気がつくと裸で、その人とベッドをともにしていました。

少なくとも上半身は全部脱いでいます。

夜の3時。タクシーで帰らなくちゃ、いったい私、なにやってるのかしら。よく覚えてない。

帰ると、夫が寝ずに待っていました。

そりゃそうだよね。

「主婦が、こんな時間までなにしてたんだ」

当然のことながら、咎める夫。

「飯も作らず、冷蔵庫の中には殺虫剤や洗剤なんか入れて、殺す気か」

まあ、それは認知症のなせる過ちですから仕方ないですが……。

息子も出てきます。

「うるさいな。受験生がいるんだぜ。静かにしてよ。落ちたら恨んでやるからな」

パートにいくのに、布団を干してしまったために、夕方からの雨で布団もびしょびしょになってしまいました。

「私、病気なの。病院へ一緒に行ってほしいの」

次の日、医師は夫にも話します。

「家族で、この病気を理解して、支えてください」

「まだ若いのに」と憔悴する夫。

夫は、自分の母親に来てもらうことにしました。

姑は、ここぞとばかりに点数稼ぎ。

ごちそうを作り、息子と孫を喜ばせ、さっそくその夜は、息子に離婚を迫ります。

「このまま治らず死んでいくんだよ、これからたくさんの人に迷惑かけるんだよ」

それは友子に聞こえていました。

友子は、息子の受験が終わるまでは、なにを言われても我慢しようと考えます。

1ヶ月後、息子が高校に合格。

その夜、友子は離婚届を置いて家を出ました。

そして、一晩ともにした男に連絡を取ります。

「私のバッグの中に、困ったときは電話しろってメモを入れてくれてありがとう」

「あんたのおかげで、トラックの免許をとることができたよ。借金を返す目標ができて楽しいんだ。命を救ってくれたんだからお礼をしないとね」

「あの夜のこと、あまり私、覚えてないの」

「あんたは酔って、自分で服を脱いで寝ちゃったんだ。本当に何もなかったよ」

「うん、そんな気がしてたわ」

友子は、男に実家の秋田まで送ってもらいます。

「手紙読んだよ、かわいそうに」と実家で出迎える母親。

「ずーっと、ここにいていいからね、一緒に暮らそう」と父親。

一方、卒業式も、入学式も、母親不在の息子は、父親に迫ります。

「どうして、お母さんは帰ってこないの?」

「アルツハイマーなんだよ。ボケてしまって、悪くなるだけなんだ」

2人は友子のタンスから、日記や写真を見ます。

「お父さん見て。赤い丸が食事をした時、青い三角が薬を飲んだ時、黄色はトイレにいく時間なんだ。お母さんは、すごく努力していたんだ。知らなかった」

買い物も、洗濯も、何でも書いてありましたが、だんだんひらがなになっていました。

2人は、友子を迎えに行きました。

「今まで育ててくれた母を、今度はオレが面倒見よう。今まで自分のことばかり考えていたけど、人の気持ちをわかる人間になりたい」という息子のセリフで物語は終わっています。

認知症なのに、他の男と酒席をともにするのが間違い


ラストはいい形で終わってますが、やっぱり認知症よりも、他の男と寝たことにこだわる私はヘンタイでしょうか(笑)

友子さんはよく覚えていないとか言ってますが、ひとつの布団で寝たことは覚えているくせに、夫には話してないですよね。

これは、夫婦のあり方としてはよくないですよ。隠しているわけだから。

認知症関係ないですよね、覚えていることなんだから。

なにもなかったからいいじゃないか、ということではないのです。

上半身裸ですからね。

そもそも、なんで、何も着ないで寝るのでしょうか。

そういう習慣なのか。

「なにもなかった」ということだって、秋田に行くときに世話になって、そのときに男から言われて、はじめて確認できたことで、もし「一期一会」だったら、その真実を確認できず、「寝た」事実だけは残るわけですよね。

たまたま、男がシなかったからよかっただけ、というラッキーな話です。

姑じゃないけど、そんなことでは、夫婦生活を続けるのは難しいでしょう。

それというのも、見ず知らずの男と、酒席をともにする、というところから間違っていますよね。

自分が、認知症って診断も受けている「普通ではない身」であることもわかっているなら、なおさらです。

送っていってもらう「お礼」にごちそうするなら、友子さんは少なくともアルコールは自重して、家に連絡を入れて事実を話すべきです。

「家がわからなくなった。迎えに来て」

「冗談はやめろ」と言われても……

「いえ、冗談なんかじゃないの。家に帰ったら詳しく話すけど、お医者さんに認知症と診断されたんです。もし、来れないというのなら、今知り合った男性に送ってもらいます。その方には、お礼としてお酒を少しごちそうさせていただくつもり。私も飲むわ」

そこまでいわれたら、普通の夫なら、迎えに来るでしょう。

そこで、「どーぞどーぞ。酒でもなんでもヤッてくれ」というような夫だったら、友子さんが寝ても文句は言えないはずです。

裸になって寝てしまうとか、認知症問題以前に、もともとこの奥さん、自分に対してユルい人なんじゃないか、という疑惑があります。

そこにこだわって(笑)何をいいたいかと言うと、人間、そうした重篤な病気も含めて、誰でもいつどうなるかわからないということです。

で、そのときに頼りになるのは、配偶者とか家族がいれば、その人達だと思うんですね。

そういう人たちとの信頼関係です。

夫婦や家族だから、自分は何をやってもいざというときは助けてくれてアタリマエ、ということじゃなくて、普段からきちんとしないと、家族からも信用されないということです。

私は、そんなにユルい人だったら、配偶者でも嫌だな(笑)

一昨日の話じゃないですけどね。妻がボーイフレンドと一緒のときに倒れましたって言っても、気持ちとしては引っかかりますよね。

本作が、主人公の主婦を「アブナイ」キャラクターに設定したのは、そういう意味が含まれているのではないでしょうか。

若年性アルツハイマーの大変さとともに、そんなことも考えました。

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コメント 6

赤面症

もっと初期の段階でわからなかったのでしょうか
by 赤面症 (2023-10-06 01:17) 

pn

64歳まで若年性ってトコがなんか嬉しいような。
by pn (2023-10-06 06:23) 

お散歩爺

若年性アルツハイマーは如何に本人が苦しんでるか、
周りの人の大変さも、爺ならどうしてあげるか分かりません。
by お散歩爺 (2023-10-06 06:56) 

kohtyan

石仏シリーズにコメントありがとうございます。
「貧困の家」今の時代の一部を物語っていますね。
by kohtyan (2023-10-06 09:04) 

そらへい

私は老人性の方がこれから心配な年頃です。
思い出したことをその場でメモしないと忘れますね。
一生懸命生きてきた人が
一瞬、自暴自棄になることもあるのではないでしょうか。
by そらへい (2023-10-06 11:25) 

青い森のヨッチン

今朝のモーニングショーで若年性アルツハイマー症の男性の話が取り上げられていました。
何となく老齢になると発症するイメージがまだまだ強いですけど誰にでも罹る病気という認識を改めて持ちました。
by 青い森のヨッチン (2023-10-06 16:01) 

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