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漫画方丈記(信吉、文響社)日本最古の災害文学 [仏教]

漫画方丈記(信吉、文響社)日本最古の災害文学

漫画方丈記(信吉、文響社)は、日本最古の災害文学といわれる鴨長明の同名の随筆を漫画化したものです。養老孟司さんの解説も好評です。漫画は本作がデビュー作となる信吉さん。安元の大火、治承の竜巻、福原遷都、養和の飢饉、元暦の地震などが描かれています。

『漫画方丈記 日本最古の災害文学』は、鴨長明原作の随筆を、信吉さんが漫画にして文響社から上梓しています。



この記事は、Kindle版をもとにご紹介しています。

『方丈記』は、鎌倉時代に書かれた日本中世文学の代表的な随筆とされ、吉田兼好の『徒然草』、清少納言の『枕草子』と並ぶ『古典日本三大随筆』に数えられています。

原稿用紙に25枚と言われる短編ですが、1冊の漫画に仕上がったのは、それだけ内容が濃いということです。

漫画を描いたのは信吉さん。

本作がデビュー作だそうです。

これまで、漫画化された文芸作品を何冊もご紹介しましたが、デビュー作とは思えないほど描きなれた手練れで、読みやすい展開です。

解説を養老孟司さんが書いていますが、「諸行無常」と、晩年の鴨長明の暮らしについての見解が実に的確です。

経験した天災・人災の数々


鴨長明は、賀茂御祖神社(下鴨神社)の神事を統率する禰宜・鴨長継の次男として、京都で生まれました。

歌人として実績は残したものの、長男との後継者争いに破れて神職としての出世の道を閉ざされ、近江国甲賀郡大岡寺(天台宗)で出家。

晩年は、他人からどう見られるかよりも、自らの心の自由を求め、日野(現・京都市伏見区醍醐)で閑居生活を行ったといわれます。

『方丈記』は、その閑居生活中に、わずか5畳ほどの部屋でかきあげた作品です。

貴族時代に経験した、天災や失政による社会の困窮などを述懐しています。

出家後の閑居生活についても、仏教者として言及しています。

『方丈記』の冒頭の一文は有名です。
行く川のながれは絶えずして、しかも本の水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しくとゞまることなし。(ゆく河の水の流れは絶える事がなく流れ続ける状態にあって、それでいて、それぞれのもともとの水ではない。)

仏教のイロハのイである、諸行無常ですね。

ヘラクレイトスも言っています。

万物は流転する。同じ川に二度入ることはできない。

「何を抜かすか。川がある限り何度でも入れるワイ」

と、思いますか。

でも、その「川」は、昨日入った「川」とは違いますよ。

それどころか、1秒前に入った「川」とも違います。

なんとなれば、その時の水は流れています。

流れたことで、周囲の砂利や揺れる草木の風景も違います。

すべては、そのときだけのことなのです。

そして、それは「川の水」だけのことではなく、「世の中にある人とすみかと、またかくの如し(この世に生きている人と(その人たちが)住む場所とは、またこの(流れと泡の)ようである。)とも述べています。

人間の一生は、水の泡のようにはかない、と。

人も住処も、生まれては死に、造られては壊され、無常を競い合う。

それはまるで、朝顔と露の関係に似ている。

露が先に落ちて花が散っても、朝日が上がれば枯れ、花が先にしぼんでも露は夕方まで持たない。

以後、鴨長明が経験した、当時の災害の様子を書留めます。

安元の大火
治承の辻風
遷都
養和の飢饉
元暦の地震

社会も人間も自然も、そのままではいられない「はかない」ものであることを示した上で、後半は天台宗僧侶としての生活を綴っています。

情報化社会は「諸行無常」を忘れさせる


鴨長明は嘆きます。

これまで記した通り、とかくこの世は住みにくい。

住む場所や、身分の数だけ悩みは増えると。

日々暮らしていると、隣人と比較してしまったり、噂話を気にしてしまったりして、心が休まらない。

どんなところに住み、どんなことをすれば、この人生が穏やかに心を休めることができるのだろう。

その結果、鴨長明は家を捨てました。


都の北部にある山部深い土地で、家は四畳半と六畳の中間ぐらい。

広さは方丈高さは7尺たらずの「ワンルーム」。

土台を組み、簡単に屋根をふき、柱の継ぎ目は掛け金で止めただけ。

簡素だから、分解すればよその場所で建て直すこともできる。

これが身の丈にあっている、と鴨長明。

林が近いので、薪にする小枝を拾うのも不自由しない。

念仏を唱えるのが億劫な時は、怠けるときもある。

季節ごとに、桜や紅葉狩りをしたり、山々をあるき楽しんだりできる。

しかし、快適だー快適だーと、書けば書くほど、実は元の生活に対する未練の裏返しという意地悪な見方もできますが、まあそれは本人のみぞ知る……いえ、本人も気づかない深層心理のことかもしれません。

巻末の、養老孟司さんの「日本の古典で1番読んでもらいたい本」という解説が興味深い。

わたしたちは、情報化社会というと、一見新陳代謝の激しい社会にいるようだが、実はそれは、既存の情報に新しい情報が次々加わっているだけである。

むしろ、みんなが同じものを何度でも見ることができる「ダウンロード」と「共有化」は、物事が変わらないという錯覚に誘う。

しかし、本来、人間は皆、観ている景色は違うはずなのだ。

これは深い話です。

そんな話が他にも出てくる名解説です。

本書は2023年10月04日現在、AmazonKindleUnlimitedの読み放題リストに含まれています。

日本最古の災害記録文学。ご一読をおすすめします。

漫画方丈記 日本最古の災害文学 - 鴨長明, 信吉
漫画方丈記 日本最古の災害文学 - 鴨長明, 信吉
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コメント 8

赤面症

諸行無常がわからないのもバカの壁だと(*^^*)
by 赤面症 (2023-10-05 01:06) 

pn

おー、川の流れのやつはこれだったんだ。
川の流れ、雲の形、波の勢い、どれも同じ物は無い。黒澤監督だっけか?ロケ中撮り直した時「あの雲が無いからダメ」とか言ったのは。無茶言うよなぁと思うけど気持ちもなんとなく分かる(^_^;)
by pn (2023-10-05 06:21) 

扶侶夢

>むしろ、みんなが同じものを何度でも見ることができる「ダウンロード」と「共有化」は、物事が変わらないという錯覚に誘う。

まさに現代的な思索的読み取りですね。今の時代だから「方丈記」の真の読み取りは難しいのかも知れません。
by 扶侶夢 (2023-10-05 07:58) 

Take-Zee

おはようございます!
部屋の見取り図・・・
見ていたら、けっこう快適な空間のようです。
一人住まいに良いかも知れません・・

by Take-Zee (2023-10-05 08:39) 

青い森のヨッチン

方丈記は有名ですが原稿用紙25枚程度の短編とは知りませんでした。
養老先生もお勧めするのなら読んでみて損はないはず
by 青い森のヨッチン (2023-10-05 15:30) 

drumusuko

方丈記は知ってはいますが、読んだことはありません。お坊さんだけあって、やはり諸行無常がテーマなんですね。漫画だと入りやすいかも知れませんね♪。
by drumusuko (2023-10-05 17:46) 

tai-yama

安全と認定されたファイルでも、次の瞬間には
ウィルスに感染している可能性もありますし(怖)。
今の時代だと、部屋の真ん中にスマホがあったり・・・
by tai-yama (2023-10-05 23:26) 

そらへい

高校の教科書で読んだのか
ほかで読んだのかはっきりしませんが
「行く川のながれは絶えずして・・・
のところだけは覚えています。
人生は一瞬一瞬、
かと言って刹那的にはならないですが
そのことを肝に銘じておくことは必要な気がします。
by そらへい (2023-10-06 11:32) 

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