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かりあげクン(植田まさし著、双葉社)平凡なサラリーマンのいたずら [文学]

かりあげクン(植田まさし著、双葉社)平凡なサラリーマンのいたずら

かりあげクン(植田まさし著、双葉社)は、平凡なサラリーマンのいたずら、皮肉、意趣返しなどコミカルに描く4コマ漫画です。いたずらの体裁で、皮肉や仕返しなどをさりげなく同僚や上司などに行うかりあげクンの活躍も43年目を迎えます。



『かりあげクン』は、刈り上げている以外、これといった特徴もなく、エリートでもないサラリーマンが、皮肉や嫌味も込めたコミカルな振る舞いや仕返しでおなじみの4コマ漫画です。

私の記憶では、『週刊漫画アクション』に、『がんばれタブチくん』だったと思うのですが休載になり、その代わりに『ほんにゃらごっこ』というタイトルで登場したのではないかと思います。

最初は『かりあげクン』というタイトルではなく、かりあげクンが登場しないときもあったと記憶しています。

『うる星やつら』が、最初はユニークな宇宙人というテーマで、序盤はラムちゃんが出てこない回もあったので、それと同じですね。

『うる星やつら』で、ラムちゃんが登場しないなんて、それ以降の読者には信じられないことでしょうね。

当初の企画がかわるのは、よくあることです。

仕返しや皮肉、いたずらが全面的に拒否されているわけではない



単行本の『かりあげクン』は、目立たないけれど、皮肉な意趣返しや、地味ないじわるをすることで存在感のある男、というキャラクターが最初から確立しています。

たとえば、第1回3話目の「くりごはん」

同僚が、かりあげクンの家に集まっています。

かりあげクン「クリごはん炊いたんだけどたべる人」

同僚3人「ハーイ、ハーイ」

同僚A「まてまて。あいつのこった。クリごはんたって、どんなもんだかわからんぞ」

同僚B「コメの一粒一粒、くりぬいてクリごはんだなんて言いかねないヤローだからな」

同僚C「(台所のかりあげクンに)オイオイ、本当にクリ入ってるんだろうな」

台所からかりあげクン「入ってるよー」

同僚C「ホラ、入ってるってよ」

同僚B「とにかく食べてみようぜ。文句はそれからだ」

同僚A「よーし。じゃあオレにはなるべくたくさんクリ入れてくれなー」

台所で、クリをイガごと入れて炊いていたかりあげクンが、「あいよー」と言いながらご飯をよそる、という落ちです。

つまり、「そういうやつだ」と思われているのです。

ところが、かりあげクンは、その上を行っているわけです。

しかも、本当に栗を使っているので、お金もかかっているのに、イガイガでは自分だって食べることは出来ないわけです。

身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ。

他者を陥れるだけではなく、自分だって一緒に沈むので、ブラックな皮肉や仕返しをするわりには、この同僚たちが家に遊びに来るように、誰からも「村八分」状態になっているわけではないのですね。

威張っている人に対する皮肉などは、快哉を叫ばれているのかもしれません。

第3話の「ジュータン」では、社長が、絨毯自慢をしています。

200万円もかけたといっているのです。

そんなものに200万もかけるのなら、社員の待遇にあてろよ、と社員なら思うでしょう。

そこで社長室に同行したかりあげクンは、つま先で絨毯に「なりきん」と描いて退出していきます。

自分では元手をかけないいたずらもします。

第2回第4話「ソバ屋で……」では、卓上にある爪楊枝をたくさん持ち帰る客が1コマ目に登場。

課長「アーア。見ろよあれ。楊枝ネコババしてやがる。どこの会社のヤツか知らんけど、みみっちいことしやがって。お前たちも店のもの持っていくようなことはぜったいにしてくれるなよなよ。会社のハジだからな」

同僚A「エエそりゃもう」

という話をしているスキに、かりあげクンは課長の背広に、卓上の割り箸を何本も挟んでいる、というオチです。

いずれも、学生時代に読んでいた『週刊漫画アクション』を思い出し、面白いやら懐かしいやら、の心境です。

笑いとハラスメントのハザマ


本作については、Wikipediaに、かりあげクンの仕返しやいたずら、仕打ちが、ともすればブラックだったり、ハラスメントに抵触の疑いがあったりするので、最近は控えめになっている、という記述があります。

人権配慮や、コンプライアンスというのは、社会の倫理的な進歩です。

ただ、あまりそこに重きを置きすぎることで、表現の自由に閉塞感が発生することでしょう。

いつも引用するピエロさんの切り抜きから……


志村けんさんが亡くなった時、多くの人は、「誰も傷つけない笑いで、今までわたしたちを楽しませてくれてありがとう」などと綺麗事を述べていた人々がいました。

これ、志村さんを褒めているようでいて、実は何もわかっていない。

そもそも、「笑い」をわかっていません。

「志村さんは、差別・蔑視的笑いの、日本でも代表的人物だったということです」(動画より)

『8時だョ!全員集合』は当時、ワースト番組で、学校のPTAなどから見せたくない番組ナンバーワンだったんですよ。

倫理や道徳とのせめぎあいの中から、そこで戦うから「非日常」としての笑いが生まれるのです。

ダウンタウンも、吉本新喜劇も、みんな「攻めている笑い」でしょ?いじめて笑いを取るでしょ。

ダチョウ倶楽部みたいに、自分をいじめる「攻め」もあるし、ドツキや罵倒はなくても、皮肉や諧謔で人間の弱さを笑うツービートのような「攻め」も。←関東の漫才はこれが多いですね。

「笑い」って、無難な綺麗事ではないんですね。

人の肉体や倫理や生き様を「攻める」ところに生まれる。

本来、笑いというのは「毒」のあるものです。

ですから今はせめて、かりあげクンの「毒」を楽しみましょう。

かりあげクン : 1 (アクションコミックス) - 植田まさし
かりあげクン : 1 (アクションコミックス) - 植田まさし
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赤面症

クレヨンしんちゃんも攻めてましたね
by 赤面症 (2023-09-01 01:06) 

Rchoose19

もともと、お笑いって、
弱者を笑いものにするってところから
スタートしているような気がしますけどね・・
全員集合も、食べ物は粗末にするし‥云々って
当時はPTAが目の敵にしていましたよねぇ♪
by Rchoose19 (2023-09-01 07:22) 

Take-Zee

おはようございます!
この漫画が流行っていたころは刈り上げは
ダサい時代・・・
しかし今はおかしな刈り上げが流行っていますね・・・

by Take-Zee (2023-09-01 08:04) 

starwars2015

かりあげクンのヘアースタイルって、今ならツーブロックで
すね。
何か流行るか分かりませんね。
by starwars2015 (2023-09-01 08:41) 

コーヒーカップ

全般的にそういうのは本当のお笑いじゃないって言いますよね。

by コーヒーカップ (2023-09-01 18:05) 

そらへい

「漫画アクション」でしたかね。
当時は、あちこちの漫画雑誌を拾い読みしてましたから
「かりあげクン」もよく読んでいました。
この当時は、刈り上げ珍しかったのに
最近また流行ってますね。
今は借り上げとは言いませんが。
by そらへい (2023-09-01 21:32) 

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