SSブログ

ひめゆりの歌が聞こえる~女の戦争哀史~(安武わたる、ぶんか社) [文学]

ひめゆりの歌が聞こえる~女の戦争哀史~(安武わたる、ぶんか社)

ひめゆりの歌が聞こえる~女の戦争哀史~(安武わたる、ぶんか社)は、戦中戦後の時代に翻弄され地獄を生きた女性たちの戦争史を漫画化。『ひめゆりの塔』という、1953年(昭和28年)1月9日に公開された東映映画(今井正監督)の翻案作品です。



『ひめゆりの塔』とは、糸満にある、沖縄に学徒動員された沖縄師範学校女子部と沖縄県立第一高等女学校の生徒222名と、引率教師18名のために建てられた慰霊碑です。


学徒動員というのは、学校の生徒が戦争の手伝いをされられる部隊のことです。

「ひめゆり学徒隊」とよばれる女子生徒は、負傷兵の看護や死体埋葬などに当たりました。

しかし、唯一の地上戦に巻き込まれた沖縄では、ひめゆり学徒隊に動員された生徒と引率教師240人のうち、その半数以上の136人が命を失いました。

動員されなかったひめゆりの生徒と教員91人も、沖縄戦によって亡くなったそうです。

米軍が迫ってくるなか、軍はいち早く退却。

解散した学徒隊の女子学生たちは、丸腰で逃げ続けるしかありませんでした。

亡くなり方は、国際法で禁止されていたガス弾の被害によるものだったり、逃げ場を失った末の自決だったりと、悲惨なものでした。

映画では、津島恵子さんや香川京子さんらが出演しています。

あらすじ



第2次世界大戦において、米軍は沖縄戦を、日本本土攻略の拠点を確保する最重要作戦と位置づけていました。

一方の日本軍は、米軍の日本本土上陸を一日でも遅らせるために、壕ごうに潜んでの防衛・ 持久作戦を採用。

軍は県民総動員体制で、 学校の生徒は学徒隊を編成して戦場動員を強行したのです。

時は昭和20年(1945年)。

沖縄師範学校女子部では、卒業会式が中止になり、皇国のために働く、つまり動員されることが決まりました。

沖縄県下の学生・生徒は、男子は「鉄血勤皇隊」として、女子は「学徒看護隊」として、兵力不足を補うために戦場へ駆り出されました。

「ひめゆり学徒看護隊」として「お国のために尽くす」ことになった天願十美子級長は、生徒を取りまとめる立場です。

集合をかけますが、ひとり、下級生の平良松子はお祖母さんと面会します。

お祖母さんは「ユタ」で、特高警察に引っ張られたこともあるといいます。

ユタとは、霊媒師(シャーマン)のことです。

なぜ、特高に引っ張られたのか。

それは、沖縄が火の海になり、学徒は命を落とし、日本が負ける未来をすでに感じ取っていたからです。

そんな不吉なことをいうのは非国民だ、というわけです。

しかし、神意でなくても、きちんとした情報のもとに冷静に見れば、それは一般人にだって想像できることでした。

何しろ米軍は、約1500隻の艦船と、54万8000人の兵力。

一方、迎え撃つ沖縄守備軍は兵力10万弱です。

沖縄に点在するガマ(自然洞窟)が、防空壕や病院として利用されました。

化膿したウデを切断するとき、それを支えるのは本職の看護師ではない学徒動員です。

壕の中は、汗・血・膿、入浴もできない百人もの人間の体臭と人いきれで酸欠状態になるといいます。

負傷兵は増える一方。

休もうにも、壕内はろくに体も横たえられない岩場です。

平良松子は、千里眼で日本の敗戦を予告。

天願十美子は彼女の頬を叩き、「非国民」となじります。

優等生の級長は、日本軍の勝利を疑ってはいけないのです。

そういう意見すらも、許してはならないのです。

しかし、5月21日には首里が包囲され、陥落。

本書では、「ありったけの地獄を集めた戦場」と表現されています。

毎日、攻撃は厳しくなっていくのに、日本側の攻勢はほとんどなし。

平良松子もガス弾の犠牲になります。

6月19日には、ついに解散命令。

兵隊や学徒隊は、各自の判断で戦闘を続けろということになりましたが、なんとも無責任な命令です。

軍医は天願十美子に言います。

「沖縄は本土の捨て石だったのだ」と。

沖縄の役割は、1日も長く米軍を足止めし、「本土決戦」の時間稼ぎをすることだった。

いくら守備軍が頑張っても、大本営は援軍を送らぬと決めていた。

しかも沖縄には知らせずに……。

今日は「終戦の日」です。

80代以上の人が1000万人超とはいえ、もう国民の大半は戦争をリアルに知りません。

風化させない、というよりも、新たに事実を知るという意味で、こうした作品は読んでおきたいですね。

「ヨイトマケの唄」も漫画化


本書は、ストーリーな女たち、というシリーズ名がついています。

同シリーズは、登場人物が実在する人ではないけれど、その時代にしばしば話題になった「トレンド」な事件や生き様を漫画化したものです。

本書は、ご紹介した『ひめゆりの歌が聞こえる』を含めて、4作品が収載されています。

ひめゆりの歌が聞こえる
尽忠報国を掲げる軍国少女。
非国民と罵られる対照的な少女に出会い、彼女は……。

敦化事件
口減らし同然で夫のもとに嫁いだ美和子。
夫とともに満州へ渡るが……。

兵隊女房
<特殊看護婦>に応募した小枝子だったが、その仕事の内容は軍人相手の娼婦、つまり「兵隊女房」だった。

子供のためならー「ヨイトマケの唄」より
娘のためなら身売りも厭わない母。
しかし娘は「パンパンの子」といじめられ続け……。

戦中戦後という、難しい時代背景ですが、時代に翻弄され、泣かされたのは女性である、というモチーフが共通しています。

本書は、2023年8月15日現在、AmazonUnlimitedの読み放題リストに含まれています。

ひめゆりの歌が聞こえる~女の戦争哀史~ (ストーリーな女たち) - 安武わたる
ひめゆりの歌が聞こえる~女の戦争哀史~ (ストーリーな女たち) - 安武わたる
nice!(145)  コメント(9) 
共通テーマ:学問

nice! 145

コメント 9

赤面症

「捕虜は非国民、捕虜になるなら自決せよ」みたいな洗脳
これも恐ろしい事だと思います。
by 赤面症 (2023-08-15 01:15) 

扶侶夢

「ひめゆり部隊」は悲惨なものでしたが、その奥に潜む「沖縄に対する我々本土民族の意識があまりにも酷い。いまだに沖縄の人達の心の奥底に「日本という国に対する不信感」が拭えないのも分かります。
by 扶侶夢 (2023-08-15 04:43) 

よしあき・ギャラリー

沖縄本島戦跡巡りで見てきました。
国家の冷たさを体感しました。
by よしあき・ギャラリー (2023-08-15 06:15) 

Take-Zee

おはようございます!
ひめゆりも神風特攻隊もそして回天特攻隊も
今はなんとなくドラマ化されていますが・・
何ともむごく、愚かなことだったですね!

by Take-Zee (2023-08-15 08:40) 

pn

語り部が減っていく以上漫画映像何でもいいから事実として残していかないとと思います。
by pn (2023-08-15 08:45) 

いっぷく

みなさん、コメントありがとうございます。
『ひめゆりの塔』は、舛田利雄監督の吉永小百合版もあります。
by いっぷく (2023-08-15 11:58) 

コーヒーカップ

愚かでしたよね

by コーヒーカップ (2023-08-15 13:35) 

tai-yama

学生まで動員しなければならない戦争で勝てるわけない
と言う・・・。「非国民」と言っている人の中でも本心
は勝てないことは分かっていたんだろうなと。
by tai-yama (2023-08-15 23:16) 

たこやきおやじ

いっぷくさん

初めてコメントさせて頂きます。(^^;
記事の最初の画像は、この本と米軍兵士の画像を重ねたものと思いますが、私には大変違和感を感じました。
ヘルメットやライフルが現代の物だからです。当時の米軍兵士の画像を使わず、この様な画像を使われたのには何かいっぷくさんの意図があるのでしょうか。
記事本文の内容から外れた話で申し訳ありません。(^^;

by たこやきおやじ (2023-08-19 10:39) 

Facebook コメント

Copyright © 戦後史の激動 All Rights Reserved.
当サイトのテキスト・画像等すべての転載転用、商用販売を固く禁じます