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羅生門(原作/芥川龍之介、作画/バラエティ・アートワークス、Teamバンミカス) [仏教]

羅生門(原作/芥川龍之介、作画/バラエティ・アートワークス、Teamバンミカス)

羅生門(原作/芥川龍之介、作画/バラエティ・アートワークス、Teamバンミカス)は、羅生門を舞台に「人間のエゴイズム」を描いた傑作です。まんがで読破シリーズ第5作。その他「王朝もの」と呼ばれる偸盗、藪の中など、短編小説3作を収録しています。

『羅生門』は、原作が芥川龍之介、作画がバラエティ・アートワークスで、Teamバンミカスから上梓されています。

芥川龍之介さんが、東京帝国大学在学中の1915年(大正4年)に、雑誌「帝国文学」へ発表された作品です。

芥川龍之介、といえば羅生門、といってもいい代表作でしょう。

教科書にも掲載されたことがあります。

黒澤明監督が映画化しましたね。



本作は、平安時代末期に作られた『今昔物語』の、『羅城門登上層見死人盗人語』と『太刀帯陣売魚姫語』をアレンジして創られた翻案作品です。

本書は2023年07月27日現在、KindleUnlimitedの読み放題リストに含まれています。

混乱の時代にどう生きるべきか


本作は、天災や飢餓に苦しむ、平安時代の京都(平安京)が舞台です。

平安京の正門・羅生門は、不安定な作りのため風に弱く、西暦816年、暴風によって倒壊しましたが、後に再建されました。

ところが、980年に羅生門が2度目の倒壊をします。

しかし、今度は狐や盗人が棲むだけでなく、しまいには引取り手のない死人を羅生門に持ってきて、棄てて行く習慣さえ出来てしまったため、再建はされませんでした。

そして、それからは様々な災いが都を襲い、月日は流れました。

ある日の暮方の事である。一人の下人が、羅生門の下で雨やみを待っていた。

主人が不景気のため、屋敷をリストラされ、路頭に迷う下人です。

誰かをリストラしなければならないことになり、頬のニキビをいじるくせのあるその下人は、別の下人の罠にはめられ、「しくじり」をやらかしたことにさせられ、ヒマを出されてしまいました。

ただ、基本的には「人が良い」下人は、罠にはめられたものの、生きてゆくために「盗人ぬすびとになるよりほかに仕方がない」とまでの覚悟を決める勇気が出ずにいました。

下人は、あまりにも寒いので、羅生門から楼の内に入ります。

すると、中から明かりが。

階段をそーっとのぼると、その上には、人の死体がゴロゴロしていました。

「噂には聞いていたが、なんて酷い」

そこで、下人は、死骸の中に老婆の姿を見ました。

下人は、「六分の恐怖と四分の好奇心とに動かされて、暫時は呼吸をするのさえ忘れて」見ていました。

老婆は、松の木片を、床板の間に挿して、それから、今まで眺めていた死骸の首に両手をかけると、丁度、猿の親が猿の子の虱(しらみ)とるように、その長い髪の毛を一本ずつ抜きはじめた。髪は手に従って抜けるらしい。

下人は老婆を諌めると、老婆は言います。

「この髪を抜いてなあ、かつらにしようと思ったのじゃ」

「たったそれだけか。それだけのために、死人の髪を抜いたのか」

「そりゃあ、死人の髪を抜くなぞ悪いことかもしれぬ。じゃがな、ここにいる死人は、それくらいのことをされてもいい人間じゃぞよ」

たとえば、老婆がそのとき抜いていた女は、蛇を切って干したものを、干し魚だと偽って売っていたといいます。商品の偽装です。

生きていれば、まだ売り続けていただろうとも。

「だが、女も生活のためにしたこと。まぁ、仕方あるまい」

「仕方ないだと」

下人は、このロジックを聞いて、ある勇気が生まれて来ました。

それは、自分も「仕方ない」を正当化する勇気です。

躊躇していた、生きるための「盗人」を実践する決断です。

「では、己が引剥をしようと恨むまいな。己もそうしなければ、饑死をする体なのだ。」

下人は、すばやく老婆の着物を剥ぎとり、足にしがみつこうとする老婆を手荒く死骸の上へ蹴倒しました。

そして、急な梯子を夜の街へかけ下りて行きました。

老婆の命までも奪わなかったのは、「勇気」を与えてくれた礼でしょうか。

下人の行方は、杳として知れません。

自分は悪くないと逃げ道まで作るエゴと脆弱さを描く


羅生門が描かれた平安時代は、飢饉や辻風(竜巻)などの天変地異が続き、都が衰微していた頃と言われています。

つまり、人々は困窮し、精神的にも疲弊していたわけです。

生きていくためには、盗みもしなければならない。

そんなとき、老婆や下人の生き方を責められるか。

だって、飯食わなきゃ、道徳もへったくれもありませんからね。

ひとたび状況が変わると、人間はどんな悪でもする。もとい、せざるを得ない。

ただ、自分の変心を他人のせいにするのはいかがなものか。

羅生門は、絶対的な「善」や「正義」などないという、生きることの虚しさや、その一方で、人心のエゴイズムを描いていると思われます。

善悪のふたつ総じてももって存知せざるなり。(歎異抄)(これが善、これが悪だと言い切れるのか)

芥川龍之介は、実は夏目漱石の門下生です。

実家が浄土真宗門徒の夏目漱石の薫陶を受けているだけに、本作は、自らの厭世的な人生観と、仏教的なモチーフを絡ませた絶妙な仕上がりになっていると思います。

ところで、こんな厭世的な小説を書いている芥川龍之介ですが、私生活は意外とお盛んで、息子も3人いるのです。

長男は俳優で次男は戦死で、三男は作曲家になったのですが、私が顔を覚えているのは、長男の芥川比呂志。


黒澤明監督の『どですかでん』で演じた平さんは、同居人のお蝶(奈良岡朋子)に浮気されて絶望し、それ以来、魂が抜けたようになり、いつも無表情で、近所の喧嘩っ早いくまん蜂の吉(ジェリー藤尾)が喧嘩をふっかけても、全く反応せず、ジェリー藤尾のほうが引いてしまうという無双の役を演じています。

父親譲りの独特な存在感で、昭和中期の映画界に貢献しました。

芥川龍之介作品は、ほかにどのようなものを読まれましたか。

短編が多いので、読みやすいですよね。

夏目漱石が絶賛した『鼻』とか、自伝を書いたという『或阿呆の一生』なども、またご紹介できる機会があればと思います。

羅生門 (まんがで読破) - 芥川 龍之介, バラエティ・アートワークス
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コメント 10

赤面症

赤信号、皆で渡れば怖くない。かな
誰ががやると免罪符と思っちゃいますね
by 赤面症 (2023-07-27 01:08) 

pn

自分の正義を貫くために悪になると書くとカッコ良いけど悪は悪なんすよね。
by pn (2023-07-27 06:19) 

扶侶夢

仏名カンダタが登場する「蜘蛛の糸」が私の幼少時代に読んだ初めての芥川作品でした。それ以降芥川作品に取りつかれたように貪り読んだ覚えがあります。
by 扶侶夢 (2023-07-27 09:51) 

コーヒーカップ

教科書にも・・・記憶が有ります
いつかは忘れましたが。
悪いことしなくてもいい様な社会にしたいです。

by コーヒーカップ (2023-07-27 11:05) 

kohtyan

原作、映画も見ていないのですが、三船敏郎、京マチ子、森雅之、など出演、黒澤明監督という今では考えられない
スタッフですね。この映画はぜひに見ておきたいと
思っています。50~60年代はすごい映画がたくさん
ありますね。
by kohtyan (2023-07-27 12:21) 

そらへい

映画「羅生門」は黒澤明監督の凄みを感じる作品でした。
めったに本を紛失しないのに電車の中で
古本の芥川龍之介の本を置き忘れたこと
今でも忘れられないです。
by そらへい (2023-07-27 20:47) 

青い森のヨッチン

羅生門は短い作品なので自分の成長に合わせて何度も読み返せるのがいいです。
高校生、大学生、社会人と読み返すと自分の中の作品の解釈が変わっていくのに気が付き面白いです。
映画の方は黒沢監督に引っ張られ過ぎて原作の方がお薦めです(世界的な評価や知名度はKUROSAWAの方が上ですけど)
by 青い森のヨッチン (2023-07-27 21:30) 

tai-yama

儲けるためにはグレーゾーンをやり続ける企業と
さほど変わらないと言う・・・・
意外なことに、干し魚よりも蛇の方が美味しいんですよ〜。
by tai-yama (2023-07-27 22:57) 

いっぷく

>仏名カンダタが登場する「蜘蛛の糸」が
「蜘蛛の糸」も有名ですね。杜子春とか、いろいろありますね。ただ、この漫画シリーズでは、あとは「或阿呆の一生」しかリリースされていないので、いずれまた、それをご紹介したいと思います。
by いっぷく (2023-07-28 02:20) 

いっぷく

>映画の方は黒沢監督に引っ張られ過ぎて
そうですね。まあこの作品に限らず、原作のあるものは、原作との違いが見られて今いますが、あくまでも翻案の別作品なんだという視点で見るようにしています。
by いっぷく (2023-07-28 02:22) 

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