『日本一の裏切り男』をDVD収録した『東宝昭和の爆笑喜劇DVDマガジン』(Vol.38)が昨日発売になりました。ハードボイルドタッチの作品が多い須川栄三監督に、『花へんろ』や『夢千代日記』を書いた早坂暁氏が脚本という超異色作です。届いた日(10日)は奇しくも主演のハナ肇さんの祥月命日でした。
これまでにも何度か記事にしてきましたが、いわゆる東宝
クレージー映画といわれる作品は全部で30作あります。
植木等の破天荒なキャラクターを描いた「無責任」シリーズ、そのキャラクターと当時の世相といえるモーレツ社員を結んだヒーローものである「日本一」シリーズ、クレージーキャッツ全員が出演する「クレージー(作戦)」シリーズ、そして例外とも言えますが、シリーズを2番目に多く手がけた坪島孝監督が、大好きな谷啓を主演にした『
クレージーだよ・奇想天外』、そして時代劇4作です。
『クレージー作戦くたばれ!無責任』より
監督別に見ると、古澤憲吾(13作)、坪島孝(11作)、須川栄三、杉江敏男(ともに2作)、久松青児、山本嘉次郎(1作)となっています。
本数から見れば、古澤憲吾監督と坪島孝監督によって作られたシリーズと言っていいかもしれません。
古澤憲吾監督が、シリーズのおおまかなプロットや植木等のキャクターを作り、より群像劇に近く、よりリベラルな方向で好一対をなしたのが坪島孝監督だと思います。
一方、1~2本撮っている他の監督たちは、自分の型をすでに持っていて、そのテイストで作品を作り上げたという印象が強くあります。
そのひとつが、今回の須川栄三監督による『日本一の裏切り男』です。
DVDでは、淀川長治氏のモノマネで解説する小松政夫も、「シリーズ従来の作品とは一線を画した」と語っています。
たとえば、クレージー映画では、劇中にクレージーキャッツや植木等、時には
ザ・ピーナッツや中尾ミエなどの歌のシーンが入るのがいつものパターンでしたが、
『クレージー黄金作戦』より
須川栄三監督の今作は、歌のシーンは全くありません。
『シャボン玉ホリデー』の映画版としての作り方とはまさに「一線を画している」わけです。
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ブラックジョークで世相を描く
ということであらすじですが、作品は植木等とハナ肇のダブル主演に浜美枝が加わり、3人の因縁で戦後史20年を振り返っています。
玉音放送を勘違いした上官・大和武(ハナ肇)の命令で特攻隊の出撃をしてしまった植木等こと日の本太郎。
特攻を失敗して日本に戻ると、今度は意趣返しで大和武を裏切ってひと財産得ますが、新円切替(1946年)にひっかかって紙幣は紙くずに。
数年経って日の本太郎はかつての恋人の日見子(浜美枝)と再会。日見子を自分の女と言い張る大和武をまたしても騙そうとして逆に騙されます。
それでも何とか値上がりしたパチンコ玉を大和武から盗み出しますが、朝鮮戦争休戦(1953年)によってまたしてもパチンコ玉はゴミに。
こんな具合に、騙し騙されが、戦後史上知られている出来事や世相によってオチを迎えるというパターンでストーリーが構成されています。
テレビでよくありますよね。年末に「今年1年を振り返る」といって、世相や出来事をその都度寸劇で振り返る企画。
ああいう感じで、すべての寸劇がひとつのストーリーになっているのです。
私が脚本家や映画監督だったら、こういう作品を作ってみたいなあと思うでしょうね。
でも商業的にはどうだったのかな。ちょっと娯楽映画にしては“真面目”過ぎたかもしれません。
この作品を最初に予告編を見た時は、マッカーサーや戦争のシーンが出てきたので、また古澤憲吾監督のタカ派的ナンセンス映画かと思ってしまったものです。
が、須川栄三監督といえば、ブラックジョークやハードボイルド・タッチの作品が多く、脚本を手がけた早坂 暁氏は、『花へんろ』『夢千代日記』など、戦争や原爆被爆をテーマとする作品を得意としています。
クレージー映画も20作を超え、マンネリの声も出始めている頃だけに、こうした“異色作”に取り組んだのでしょう。
その心意気やよし、と私は思いました。
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