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『奇々怪々 俺は誰だ?!』を谷啓さんの祥月命日に思い出す [東宝昭和喜劇]

『奇々怪々 俺は誰だ?!』を谷啓さんの祥月命日に思い出す

『奇々怪々 俺は誰だ?!』(1969年、東宝・渡辺プロ)という作品を観ました。谷啓の主演映画です。昨日、『日本一の裏切り男』の記事で、10日がハナ肇さんの命日だったことを書きましたが、今日は11日で谷啓さんの祥月命日です。2日続けてクレージーキャッツの記事になりますが、恥ずかしがりやで人がよく、サービス精神のあるアイデアマンの谷啓さんを思い出します。(画像は『クレージーだよ奇想天外』より)

谷啓主演の『奇々怪々 俺は誰だ?!』

『奇々怪々 俺は誰だ?!』で、谷啓の役名は鈴木太郎。これは、今作のメガホンをとった坪島孝監督が、東宝クレージー映画としては初めて谷啓を単独主演にした『クレージーだよ奇想天外』(1966年、東宝)のときと同じ役名です。

『クレージーだよ奇想天外』は、谷啓を大好きな坪島孝監督が、助監督時代から温めていた企画で谷啓を主演にして撮った作品です。

『虹を掴む男』のダニーケイから芸名をつけた谷啓らしく、『虹を渡って来た男』という主題歌も自ら歌って、イケイケの古澤憲吾監督と植木等の主演による「日本一」シリーズとは全くテイストの異なる作品に仕上がり、当時の東宝の興行収入新記録を作ったそうです。

ところが、ストーリーに、核戦争推進法案を成立させる巧妙さを見破って反対するという“反戦”のモチーフが感じられることに対し、会社側の覚えがめでたくなく、それが理由なのか、以後は東宝クレージー映画で谷啓単独主演の作品は制作されませんでした。

そして、3年経ってスピンオフのような形で今作が実現したのです。

今作も、坪島孝監督が助監督時代から温めてきたプロットの一つといわれています。

ちなみにその間、『クレージーのメキシコ大作戦』(1968年)という作品が、やはり坪島孝監督で作られていますが、このときの谷啓の役名は「鈴木三郎」でした。

鈴木つながり……。たぶん、なんか意図があるのでしょうね。

ネタバレ御免のあらすじ


平凡なサラリーマンである鈴木太郎は、ある日突然、公私にわたって自分を名乗る人間によって、自分の居場所をすべてを奪われてしまいます。

鈴木太郎を名乗る別の人物(犬塚弘)が現れ、会社だけでなく家庭で妻(横山道代)までもが、別の人物の方を鈴木太郎と認識しているのです。

何が何だかわからず、自殺しようとしたときに知り合った若い女性・種村百合子(吉田日出子)と出会い、自分探しの旅を共にしていろいろな人に変身しますが、なんと最後には牛に……。

明るく楽しくハイソで予定調和を大切にする東宝にしては珍しく、難しくてナンセンスでちょっと型破りな作風でした。

もとよりアイデンティティーを探る、というむずかしいテーマ自体、喜劇としてはどうかなあと思いましたが、いずれにしても、谷啓、坪島孝コンビらしい“異色作”ということだと思います。

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バンドマンでありながらコメディアンにもなりたかった


谷啓さんは、高校の時にトロンボーンと出会い、音楽仲間がいるからという事情で大学を転学。米軍向けにバンドを組んで演奏していた根っからのバンドマンです。

一方でコメディアンにもなりたかったようで、当時音楽ギャグを売り物にしていたフランキー堺とシティ・スリッカーズに加入。フランキー堺の映画俳優転向による脱退後は、ハナ肇に誘われてこれまた音楽ギャグを好んで行っていたキューバンキャッツ(後のクレージーキャッツ)入りしたそうです。

フランキー堺さんが、東京は大田区池上の出身であることは、6月8日の「『続・社長漫遊記』鑑賞、フランキー堺を思い出し成田山成心寺へ」で書きました。

ランキー堺
フランキー堺さんの出身小学校隣にある成田山成心寺の石塀

実は谷啓さんも、大田区(東調布、今の田園調布)の生まれだそうです。

田園調布駅前商店街
田園調布駅前商店街

クレージーキャッツが売れて、テレビや映画に出始めるようになりましたが、犬塚弘の著書によると、とくに出番の多かったハナ肇、植木等、谷啓のうち、ハナ肇は役者としては不器用で、才能を感じたのは植木等と谷啓だったそうです。



ただ、私が思うに、谷啓は非常に照れ屋で、その部分がマイナスになったような気がします。

喜劇人は突き抜ける思いきりがないと、笑う方も遠慮してしまうからです。かといって、突き抜けてしまうと、谷啓のよさも失われてしまうのかもしれないし、そのへんはむずかしいところでしたね。

谷啓にとって、最後の出演作品は『釣りバカ日誌20 ファイナル』(2009年、松竹)でしたが、私は見ていません。

このシリーズはずっと見ていたのですが、前年あたりから認知症が現れ始めていた谷啓はすでにセリフが入らず、共演者やスタッフの協力によってやっと撮影したと報道されていたので、痛ましくて見ることができませんでした。

でも、最期をきちんと見届けるのもファンとしては必要なことなのかもしれませんね。

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