『君へのメッセージ』(新風舎)という書籍があります。著者は舘野ひろ子さん。「君」というのは息子さんです。交通事故から6年。自力で食べることも話すことも動くこともできない遷延性意識障害である息子さんが、リハビリや、医師・看護師・介護士の明るい声かけの中で、「徐々にだが確実に脳の障害が修復されている」日々を綴ったものです。
これまで何度か書いてきましたが、私は不慮の大火災で、妻子が意識不明の重体になり家屋は全焼しました。
消防車が11台。全国紙や、NHK・民放キー局などのテレビや、2ちゃんねるが連日報道しました(書き散らかしてくれました)。
いまだに、グーグルサゼッションやヤフー虫眼鏡には、私の名前に「火災」「火事」という複合キーワードが表示されます。
その火災から3年になります。
まあ、どうせ私は大した人間ではないので、私自身については、天なるものがあって我が人生を否定せんがためにそう配剤したのだとしても、どう、気が済んだ?という意外とさっぱりした心境ですが、妻子に対しては、私ごときインケツと縁があったために申し訳ないことになってしまったと思っています。
妻や長男は九死に一生を得たものの、いまだに事故を原因とする症状を抱えているため病院と縁がきれません。
火災や家族のことは、このブログでたまに書くだけで、その専門ブログは作っていませんが、妻子が入院している頃は、私はずいぶんネットの関連情報のお世話になりました。
何しろ、妻子がみんなやられてしまったのですから、私はひとりぼっちだったわけです。
こう言っては失礼かもしれませんが、普段、人脈や友人の数の自慢をする奴に限って、そういうときに専門医をたずねても、何の役にも立たないのです。
治療してくれる病院や、回復例のデータ、同じ状態にある患者家族との情報交換など、ネットから必死に探していました。
舘野ひろ子さんの『君へのメッセージ』(新風舎)を読むと、そのときのことが思い出されます。
交通事故で遷延性意識障害になってしまった息子さんが、手が上がるようになった、声が出るようになった(でも話せない)といった、普通の人から見たらささやかな回復と、今後のことを心配する著者の思いが綴られています。
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遷延性意識障害とは?
遷延性意識障害とは、一酸化炭素中毒や、溺水や、心筋梗塞などで脳に酸素が行かずに脳細胞が死んでしまったり、交通事故で脳が損傷を受けたりしたことで重度の昏睡状態となり、
1.自力で動けない
2.発語に意味がない
3.意思の疎通ができない
4.視覚認識ができない
5.自力で摂食できない
6.排泄のコントロールができない
といった特徴をもった脳障害のことをいいます。
こうした状態が3ヶ月以上続いた場合を「植物状態」とみなします。
料理研究家・イラストレーターで高速道路から転落したケンタロウは、高次脳機能障害と女性誌で報じられましたが、記事を見る限り遷延性意識障害です。
排除の論理が大好きなネット掲示板では、遷延性意識障害になった人に対して、必ずといっていいほど「無理に生かすな」という書き込みがあります。
その人たちは「脳死」との違いもわからないのでしょうね(といっても脳死を死と認めない価値観を私は否定しませんが)
たとえ重度の昏睡状態でも、自発呼吸があり脳波も見られるなど症状が「安定」していたら「生命には別条ない」状態ですし、「遷延性」ということは「長期にわたり病状が続く」状態、表現を変えれば「完結した病名」ではない(つまり将来回復する可能性がある)のですから、「生かしている」のではなく、あくまで回復を目指している途中なのです。
ただ、現実に、遷延性意識障害は回復が容易でないのもたしかです。
ずーっと寝たきり、という患者の方が多いでしょう。
そういう場合、家族は何をめざして、何を信じて介護を続けたらいいのか。
書籍やネット、そして同じ立場にいる人たちの情報が支えです。
どうしたら覚醒したか、どうしたら手が動いたか、どの病院が有効な治療をしてくれるか、といった患者にとって有用な話だけでなく、介護を巡って家庭もぎくしゃくしたがどう解決したか、というような話も知りたいものです。
そういう意味で、今回の『君へのメッセージ』は、おそらく舘野ひろ子さんがご自身のため、そして息子さんのために書いたものではあると思いますが、全国の遷延性意識障害患者ご家族のためにも、資料的な価値を十分に認めることができるのです。
遷延性意識障害からの回復とは……
このブログはこれまで、遷延性意識障害からの回復経過を記した書物として、「
『植物状態からの生還』信貴芳則岸和田市長の奇跡を読む」や
「
がんばれ朋之!18歳、植物状態からの生還265日の記録」
などをご紹介してきました。
そして、遷延性意識障害患者が、限られた機能でも、介助をより少ない形で過ごすためのリハビリを追究している看護師・看護学者である紙屋克子さんの書籍も、「
『紙屋克子看護の心そして技術』で遷延性意識障害と向き合う」で書きました。
ただ、肝心の、「自分の体験」については具体的なことはほとんど書いていません。
現在も通院中ということと、やっぱり思い出すのもなかなか苦痛でね。
私の長男も、事故3ヶ月で上記に該当する状態でした。つまり、遷延性意識障害といったんは診断されました。
脳波も弱くて自力呼吸も心もとなかったのです。
担当医からは、当時「人工呼吸器だけはなんとか外せるようにしましょう」と言われましたね。
ということは、その先の回復は今の医学ではむずかしい、ということだったんでしょう。
2011年の夏は、寝たきりの我が子を風呂に入れたり、鼻水をすすったり、鼻からくだを入れて点滴のように栄養を流し込んだりする練習を毎日病院で行っていました。
車いすに乗せても、自分でお尻の位置を調整できませんから、すぐずり落ちてきて大変でした。
このブログは、遷延性意識障害というキーワードで訪問される方も少なくないので、その時の話も期待されているのでしょう。
3年経ちましたし、これからは少しずつ当時の具体的な話も書いていこうと思います。
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君へのメッセージ
- 作者: 舘野 ひろ子
- 出版社/メーカー: 新風舎
- 発売日: 2007/10/15
- メディア: 単行本
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