『人の心を操作するブラックマーケティング』(芳川充・木下裕司著、総合法令出版)を読みました。新刊本ではない(2012年8月)のですが、書かれていることは現在にも通用する話です。タイトルにある「ブラックマーケテイング」のさすものは、ステルスマーケティング(ステマ)のことです。「ステマ」がネットを含めて私たちの生活に溢れている現状や対策などを解説しています。
善良な第三者を装って、特定の企業や製品について、宣伝と気付かれないように商品に関する発信・伝播を図って消費者を欺く行為をステルスマーケティング(ステマ)といいます。
『食べログ』や『ペニーオークション』などの事件からその言葉が一般に広まりました。
ただ、仕組みそのものがインチキだった『ペニーオークション』はともかく、商品に対する好意的な記事について、何をもってステマと見るかというのはかなり難しい話だとおもいます。
なぜなら、書き手の意図を「消費者を欺く」ものであると立件するのはむずかしいでしょう。
たとえば、個人ブログを運営する、正真正銘の善良な第三者が、商品について好意的な記事を書き、商品のアフィリコードを貼ったらどうか。
商品が売れれば書き手は利益を得るわけですが、企業から頼まれて明らかな虚偽を書くのならともかく、アフィリエイトを成約したいから、少し下駄を履かせて好意的に書いてもステマになってしまうのでしょうか。どう表現するかは書き手の裁量ですから、さすがにそれをステマというのは実感に乏しい。
でも、残念ながら最近は、そうしたレビュー記事を安易にステマ呼ばわりするような風潮があります。
それは結局、有用な商品情報の発信を否定することにつながり、ネット利用者全体が損をすることになるのです。
その意味で、何をステマというのか、という認識はネット利用者としてきちんともっておく必要があるでしょう。
同書は、その定義や対策をわかりやすくまとめています。
ネットのどこにステマが潜んでいるか
また、同書は、ネットにおけるステマを疑える表現形態を具体的に示しています。
「バイク王」価格比較
バイク買い取り専門店が、他の業者とバイクの買い取り価格を競っているように装い、実は自分の宣伝だったということがありました。バイクにかぎらず、保険、サーバー、化粧品、健康食品など比較サイトは気をつけましょう。中立の比較をしているようで、実は特定の商品の宣伝になっています。
はちま起稿ゲームソフト記事
ゲームソフト会社から金銭の授受があって特定のゲームソフトを好意的に書いたという典型的なステマでした。
yahoo!知恵袋、okwaveなどQ&Aを使った宣伝
これは今もあるでしょう。質問も自作自演、もしくはすでに書かれている質問に、特定のサイトURLや商品名を回答すること。同書はURLの書かれている回答に注意を促しています。
グーグルサゼッションやヤフー虫眼鏡
検索窓に文字を入れると、次の複合検索候補が自動的に表示されますが、それは検索される回数の多いものであることを利用して、作為的に特定の言葉を何度も検索してその言葉を複合検索候補に表示するようにする仕込みもしばしば行われています。
有名人ブログ
『ペニーオークション』以外にも、著名人は企業から頼まれて記事を書くことがあります。
その他、ひとつのテーマを取り扱った専門ポータルサイト、体験談、有名人取材などもステマを行いやすい場であるといいます。
同書は、そうしたステマについて、見破り方についても解説しています。詳細は同書をご覧ください。
「食べログ」のごはんより「情報商材」や「塾」の方が金額が大きいのだが……
さて、ステマについてはかなり詳しくまとめられている同書ですが、ネットで問題になっている「ブラックマーケティング」は、ステマだけではありません。
情報商材やオンラインセミナー(塾)ってご存じですか。
情報商材というのは、「儲かる」ないしは「成功する」ことを目的としたネット上で売買する情報、もしくは関連ツールです。
具体的には、ネットビジネス、ダイエット、犬の躾、記憶術、生活習慣病の改善、英会話、FXなど多岐にわたっています。
それらは一般の書籍に比べて桁違いに高い(万単位)のが普通です。
まれに1000円から数千円の「安い」ものもありますが、それはあとからさらに高いものを売りつけるための釣り商品で、フロントエンドといわれるものです。
書店にある紙媒体と違い、出版社も通さず広告も編集者もつかないので、著者以外のチェック機能がありません。
立ち読みもできず、国会図書館に寄贈されるわけでもない「消え物」で、内容に踏み込んだレビューもないため、その情報で本当に成功できるか、稼げるかは買ってみないとわからない怪しさは否定できません。
塾というのは、スカイプやメールなどを通してその「情報」に基づいて売り主が指導するものです。
指導と言っても、何百人も申し込ませて、交信手段はスカイプとメールだけ。しかも無期限ではありませんから、実際にその「情報」で目的を達成できる保証はなく、また実際にほとんどの人が達成できないのでトラブルが絶えません。
何しろこちらはもう、20万、30万が相場です。書籍にしたら1000円のブックレットぐらいの内容が、「塾」になるとそういう値段になるんですね。
それらの販売者は、他愛ないツールやノウハウを「無料で教えますよ」「あげますよ」と宣伝してメールアドレスを登録させ、そのアドレス宛にステップメールを送りその気になるよう「教育」して、商材販売や塾申し込みに持ち込んでいます。
それ自体は「ステマ」ではありません。
が、それらがしばしば行っている、うそ臭い動画セミナーを見せて見たあとにコメントを書かせて盛り上げたところで、メールで「期間限定」「早い者勝ち」だから早く申し込めと煽るやり方は、意図はともかくとして現象だけならSF商法(催眠商法)を疑うこともできます。
ステマはけしからんが、SF商法(催眠商法)ならいいということはないでしょう。
今回、新刊でもない同書を読もうと思った理由は、著者が芳川充さんだったからです。
少し意地悪な問いになりますが、芳川充さんが、情報商材や稼げる系塾などに誘うための「無料セミナー」や「フロントエンド商品」について、どう書いているか興味があったのです。
たとえば、ステマの1つとして同書に書かれている「検索サゼッション」は、掲示板アフィリエイトを標榜する人が実際に採り入れており、その限りでもその人の「塾」は社会的に問題のある手法ということになります。
そして、何より芳川充さんご自身が、最近自ら動画セミナーを公開、塾生募集をされています。
「食べログ」のラーメンやカツ丼と比べたら、情報商材や塾は金額の桁が違います。
同書では、「安さ」や「期間限定」に踊らされない、というところがわずかに関連する記述でした。
次回は、ぜひ「情報商材」「塾」のブラックマーケティングについての書籍を出していただきたいとおもいます。
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