『植物状態からの生還ー肺動脈瘤破裂・低酸素脳症からの完全復帰』(調栄社)という書籍をご紹介します。著者は信貴芳則氏。昨年12月に自由民主党、民主党、日本共産党の参加する団体などの推薦によって岸和田市長に当選したばかりです。3党に担がれたのは反維新の一点共闘にほかなりませんが、書籍のタイトル通り、新市長には植物状態から生還した経験を、市政に活かすことが期待されています。
サブタイトルには、「肺動脈瘤破裂低酸素脳症からの完全復帰」と書かれています。
平成5年から調理師学校の校長に就任。調理と福祉の関わりに興味を持ち、平成8年からは介護学校の校長を務めることになった信貴芳則氏。
しかし、肩書がふえれば仕事も増えます。
その激務がたたったのか平成10年、ある日急に咳がひどくなり吐血します。その量は8リットル(牛乳瓶40本分)。
緊急搬送されてからも血を吐き続け、検査の内視鏡室を真っ赤に染めたそうです。
検査の結果は肺動脈瘤破裂。
一般的に肺動脈は、大動脈より血圧が低く破裂することは非常に稀といわれているのですが、まあ不幸に合うときはそんなものです。稀な確率に引っかかってしまうのです。
問題は、肺からの大量出血が窒息につながることです。呼吸ができなければ死に至りますし、その前に処置できても、脳に一定時間酸素が行かなければ脳細胞がやられてしまう低酸素脳症によって植物症になってしまいます。
信貴芳則氏も、心臓停止3回。「特に右側頭葉、運動神経野にダメージを受け、左側の上下肢に障害が予測された」そうです。しかも、それは「生きていた場合のことではあるが」という注釈付き。
要するに、よくてそれらの重い障害が残るということです。
病院側からは、
「肺動脈瘤破裂の喀血で3分の2は死ぬ」
「助かっても植物状態」
「もって年内」
「かなり重い後遺症を覚悟しなければならない」
と、家族がいろいろ脅かされたと書かれています。
わかります。私もそうでした。
病院は悪いことしか言いません。
医療関係各位。あれは改めて欲しいですね。
信貴芳則氏は脳だけでなく、低酸素によって体の機能が落ちて腎不全に。昏睡状態の上に透析を行うことになりました。
しかも、肺に穴が開いたために空気が漏れる肺瘻になり、脇腹からチューブを挿入。すると今度はそのチューブから細菌感染するというように次々悪い状態が連鎖していきます。
おそらくは、全身穴だらけ、チューブだらけだったんでしょうね。
血管に管を通して、体外に「血管」を作るんです。そして、しょっちゅうそこから血をとって調べるのです。いちいち注射で採血しなくてもいいように。
そして、体温や心拍数に異常があるとなりだし、看護師が駆けつける。
私も家族で経験しましたが、あの音や光景はもう生涯忘れることはできません。
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「2%」の生還率
信貴芳則氏の昏睡状態は2ヶ月続きます。
この昏睡状態が長ければ長いほど、回復の可能性は少なくなります。
wikiには、「文献上での遷延性意識障害の自然治癒率は、2~15%」と書かれていますが、2ヶ月も昏睡なら、まあ「2%」に限りなく近いのではないでしょうか。
ところが、信貴芳則氏はその「2%」に入るのです。
2ヶ月たったある日、信貴夫人が話しかけると、信貴芳則氏がかすかに頷いたそうです。
もちろん、そこから普通の人が目が覚めるように生活に戻れるわけではありません。泣きたくなるような(たぶん実際に泣いたと思いますが)リハビリの毎日が待っていました。
同書の後半は、その様子が日記形式(つまり日にちごとに)で書かれています。
そして社会復帰。
さらに市議会議員の当選。今回の市長当選へとつながるわけです。
地元の岸和田の方々はご存知かもしれませんが、遷延性意識障害の家族の方々は、ぜひこの書籍をお読みになり、前向きに頑張りましょう、と申し上げたいです。新刊ではないので入手はむずかしいかもしれませんが、図書館などで探されるといいと思います。
ところで、同書には昏睡中の「臨死体験」についても書かれています。
よくいわれる「お花畑の夢」などは見ていないそうです。
ただ、「未来の記憶」ともいうべき、予知夢のようなものを見たといいます。
そういえば、私の妻は第三次救命患者で6日間の昏睡でしたが、やはり「お花畑の夢」は見ていないものの、子供が大きくなった時の夢を見たらしい。
それが現実になるかどうか。聞いた夢の中身はノートに書き留めて、ン年後に確認してあたっていたらどこかで発表することにします。コピペのナントカ細胞なんかよりも、よほど貴重な報告になるでしょう。
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