絞死刑(1968年、日本ATG)は、タブー視されてきた死刑場を再現した舞台で、死刑制度の問題点や在日朝鮮人の問題などを描いています。すでにカラー作品もで始めていた1968年に、35ミリの白黒作品として仕上げているのはひとつのメッセージと受け止めることが出来ます。
『絞死刑』(1968年、日本ATG)というのは、創造社およびATGの提携による映画です。
ATGが独立プロダクションと制作費を折半する「一千万円映画」として、ATGが配給しました。
ATGというのは、日本アート・シアター・ギルド。
非商業主義的な芸術作品を製作・配給した映画配給会社です。
死刑制度と在日朝鮮人問題に踏み込む
『絞死刑』(1968年、日本ATG)というのは、大島渚監督(1932年3月31日~2013年1月15日)がメガホンをとった、絞首刑を舞台にした映画である。
絞
首刑ではなく、絞
死刑という表現に、映画が何を語りたいかというメッセージが込められているように思います。
大島渚監督というと、『愛のコリーダ』や『戦場のメリークリスマス』ばかりが取り沙汰されます。
1980年台以降の人にとっては、『朝まで生テレビ』の名物論客のイメージが強いのではないでしょうか。
亡くなったときの追悼放送である、CSの大島渚監督特集でも、この『絞死刑』は予定に入っていませんでした。
死刑制度だけではなく、在日朝鮮人問題にもメッセージが広がっているので、放送は避けたのかもしれません。
というのは、死刑される人が在日朝鮮人で、しかも実在の事件のモデルがあったからです。
まあ私も、映画はなるべく明るく楽しいものが好きなので、日本ATGの作品は、制作スタッフの情熱や作品の質については肯定的な評価を与えたいものが多いのですが、肩の力を抜いて見ることが少ないので、いささか気後れするところがありました。
この作品も、タイトルからしてなんか怖そうである。
ただ、一方で、いったいどんな内容だろう、という興味も湧くのではないでしょうか。
怖いもの見たさで。
何しろ、死刑執行の場にテレビカメラの中継は入らないし、ましてや、今よりも情報の少ない1968年に、いったい「死刑」はどんなふうに行われるかというのは、多くの人が関心をいだいたのではないかと思います。
在日朝鮮人問題を絡めた死刑制度へのメッセージ
では、作品に触れていきます。
作品の冒頭では、いきなり拘置所の片隅の死刑場がうつされ、ナレーションで執行の説明が入ります。
当時、情報がほとんどなかった時代に、よくこれだけ再現できたなと思いました。
モノクロであることの不鮮明さが、見ていてより緊張感を高めます。
これがむしろ、今の高感度ビデオカメラだと、逆にキレイに写りすぎてセットとしての作り物感が出てしまってしらけてしまうかもしれません。
前述のように、死刑囚は実在の事件をモデルとしていますが、具体的には小松川女高生事件のことです。
ストーリーは、小松川女高生事件の手を下した在日朝鮮人Rが死刑執行されます。
小松川女高生事件は、小松川事件ともいわれます。
東京都立小松川高等学校に通う女子学生(当時16歳)が行方不明になり、在日朝鮮人が強姦殺害した事件です。
メディアに犯行声明を送っていたことも事件の特徴です。
精神鑑定も少年法の適用もされないまま、1962年11月26日絞首刑されました(享年22歳)
映画の方は、在日朝鮮人Rの死刑は完全に執行できず、つまり首をつってもRは生き残りました。
ただし、過去の記憶は失われていました。
心神喪失者の執行が認められていない法律にとらわれた関係者たちは、Rが自分のしたことを思い出すように、事件等を必死になって再現します。
そして、Rは事件を思い出し、自分のしたことを自覚した上で再執行に合意する、というストーリーです。
出演者は、大島組の常連である渡辺文雄、戸浦六宏、小松方正、佐藤慶、小山明子、さらに脚本家の石堂淑朗などです。
彼らが学生服を着てまで奮闘する滑稽さも、大島渚監督のメッセージが込められているのでしょう。
時は1968年。
つまり、新左翼がまだ活発だった頃です
大嶋組の俳優は、高学歴で一流企業に勤務していたり、安定した公務員だったりした人たちです。
一般人として仕事をしていたら、安定した高収入が見込める人たちが集まった大島組には、何かハイブローなメッセージがあったと思うが、時代が違うので、今の人達にそれが届くかどうかはわかりません。
ちなみに、在日朝鮮人役のRは、のちに民団系の大物として名前が知られ、晩聲社という左翼系ルポ出版社の代表取締役になりました。
晩聲社の書籍はずいぶんお世話になったので、「あの人が、あの晩聲社の社長になったのか」とびっくりしたものです。
以上、絞死刑(1968年、日本ATG)は、タブー視されてきた死刑場を再現した舞台で、死刑制度の問題点や在日朝鮮人の問題などを描く、でした。
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