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『ウツ妻さん』(亜紀書房)病気と生き様の関係は? [健康]

『ウツ妻さん』(早川いくを著、亜紀書房)という書籍を読みました。タイトル通りの内容です。うつ病の妻、トトコさんの話です。といっても、トトコさんは口八丁で心配事の理論化・正当化に熱中。その姿勢はきわめてアグレッシブです。ですから、普通のうつ病闘病記とはイメージが異なるかもしれません。

まずはネタバレ御免であらすじから。

サブカルが得意なライターの夫は、本が売れた印税でマイホーム探し。そのさなか、土地の近くにある鉄塔を気にし始めたところから妻トトコのうつ病が発覚。

鉄塔.jpg

夫は家事と仕事はもちろん、妻・トトコのためにぬいぐるみを買ったり、生き物を飼ったり、ヨガを試したりします。

そのうち見つかった慰めは特撮ヒーロー。仮面ライダーや怪傑ズバットの宮内洋に熱中します。このへんの件は、トトコさんは確かに熱中したのかもしれませんが、著者自身の筆がかなりノッています。

私もある種のおたくとしてはっきりとした持論があるのですが、おたくだのサブカルだののパッションは、お天道さまを浴びるところに出てきてはならないという考え方なので、ここはさらっと読み飛ばしました(笑)

トトコさんはだんだんひどくなって、うつ病としてはかなり深刻であることを医師から告げられます。

夫は仏教に望みを託したり、心療内科を精神科にかえたりと努力。うつ病の原因の一つだった妊娠・出産もしてとりあえず「寛解」という展開です。

そんなに他人の評価が大事ですか


トトコさんが普通のうつ病と違うのは、非常にアグレッシブであること。

問題は、その方向が自己の心配事の理論化・正当化に向いていました。

具体的には、自分が就職してないフリーランスであること、子供がいないこと、などがいかに人生のあり方として望ましくないかの理論構築に熱中しているというのです。

子供がいないと、年をとったらひとりぼっちになるとか、そんなふうに悩んでいるわけですが、第三者から見れば、トトコさんの「正当化」は理解できません。

フリーランスで仕事をしている人も、子どもがいない人も、世の中にはたくさんいますが、それが咎められたり見下されたりする合理的な根拠は全くないからです。

だいたい、老後を子供が見てくれる保証なんてどこにもありませんよ。

なのに、子供がいないことが、病気になるほど「許せないこと」とするトトコさん。

うつ病は結果であって、そう考えるトトコさんの人生観・価値観が私には気になりました。

たとえば、子どもがいない人生をトトコさんは見下していますが、私自身はそれ自体がおかしいと思いますし、かりにトトコさんの言うとおり「見下される存在」であったとして、それならそれで別にいいよ、と思います。
(私には子どもはいますが、かりにいなかったとしても……という話です)

つまり、自分が社会的に「立派」でなければならない、と頑張ることが私には理解できないという話です。

それは向上心とも違う、自覚的な自己実現とは縁もゆかりもない見栄やガイブンのたぐいだからです。

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自分は社会から評価されなければならない人間であるべき、とトトコさんは思っているのでしょう。

でもそれは、実は“ありのままの自分”に確信を持てない・愛せないから、と見ることもできます。

そして、往々にしてそういう人は、自分の無理のある理屈を正当化するために理論構築に熱中するといいます。

専門家は、それを自己愛性パーソナリティ障害と名づけています。

トトコさんがそうなのかどうかは、不確定要素もあるのでここではこれ以上の考察はしません。

ただ少なくともいえるのは、鬱病の人がみなトトコさんと同じ症状ではないだろう、ということと、生き様と病気(うつ病)に因果関係があろうがなかろうが、とにかくあまり偉ぶらず、肩の力をぬいて生きようよ、ということです。

「ねばならない」は禁物


とはいうものの、やはりトトコさんがうつ病であることはわかります。

なぜなら、(その中身を賛成できるかどうかはともかくとして)悩みを自分の責任として抱え込んでいるからです。

参考にならないかもしれませんが、私は2年前、不慮の火災にあい、妻は心肺停止の第三次救命救急患者から奇跡的に助かりました。

その後を書いた記事「一酸化炭素中毒・心肺停止から2年、“生還”の極意は? 」において、妻の「物忘れ能力」と、私の「他者責任追及能力」によって、精神的な危機を逃れることができたのではないかと書きました。

トトコさんも、「ねばならない」と自分を責める理論構築に熱中せず、そう教えた親を怨むしたたかさがあれば、また展開も変わっていたかもしれません。

そのときと同じ結論になりますが、合理的に解決できないことは、「ほしのもとが悪いから仕方ない」と割り切りましょう。

くれぐれも「自分が悪いんだ」などと抱え込まないことです。

……ということで、本年の記事はここまでといたします。

1日1本以上、年間365記事書くという目標を立ててやって来ましたが、なんとか達成出来ました。

また来年もよろしくお願い致します。

ウツ妻さん

ウツ妻さん

  • 作者: 早川いくを
  • 出版社/メーカー: 亜紀書房
  • 発売日: 2013/10/16
  • メディア: 単行本


タグ:ウツ妻さん
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